第9話 「天は自ら助くる者を助く」
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おじさんに家まで送ってもらうと、ツヅミはすぐにベッドで横になった。うつ伏せにはなれない。なったら吐く。
破裂寸前のおなかをさすりながらも、ツヅミは満足だった。
ビックリ箱だと予告したにも関わらず、おばあちゃんを驚かせることが出来たからだ。
実験は大成功だった。
ツヅミの目的は、なにひとつ変わっていない。
自分のビックリ箱でびっくりすることである。
ビックリ箱と知っているのだから、びっくりできるわけがない、とおばあちゃんは言った。
そんなことは無かった!
中身だ。
中身によっては、ビックリ箱だと知っていても驚いてしまう。
もちろん、課題は残っている。
制作者本人は、その中身さえも知っているということだ。
今回おばあちゃんをびっくりさせたのも、厳密に言えばビックリ箱ではなく、家族の写真だったと言えよう。
ツヅミは頭のなかで、ここまでの実験結果を振り返ってみた。
① 662号と665号
被験者:お兄ちゃんとあたし
お兄ちゃんがビックリ箱に驚いて、その悲鳴にあたしがびっくりさせられた。
いきなり、うしろからワッと驚かされた気分だった。
この突発的なドッキリよ。
まさにビックリ箱の極意ではないか。
一流の演出家は、原作をさらにパワーアップさせると聞いたことがある。
原作者でも思いつかなかった新たな展開。
あの日のお兄ちゃんは、最高のエンターテイナーだったのだ。
② 炭酸飲料4本爆弾
被験者:あたしとクラスメート
炭酸飲料のひとつだけを爆弾缶に変えた……と言ったけど、じつは爆弾缶は4つだった。
あたし自身もそのひとつを選ぶ立場になることで、自分にもハズレが回ってくる状況にしてみた。
結果、ハズレくじを引いてしまって驚いた。
正確には、想定外の炭酸の威力に驚いた。
逆になんの爆発も起こらなければ、それはそれで当たりを引いたことに驚いたはずだ。
運に左右されるビックリ箱というのは、大いに研究の価値がある。
③ ネズミ
被験者:あたし
これは予定してた実験じゃなかったけど、ネズミには本当に驚いた。
いや、予定してなかったからこそ驚いた。
もしもあれがビックリ箱だったとしたらどうだろう。
水道メーターにしかけるなんて、あたしには考えもつかなかった。
それなら、第三者にビックリ箱をあずけてしまうのはどうだ。
あなたの好きなように偽装して、好きなところにセットしていいよと。
これなら製作者でも、防ぎようがないではないか。
④ おじいちゃんの写真
被験者:おばあちゃん
おばあちゃんを驚かせたのは写真だった。
では、ビックリ箱は役に立たなかったのか?
ノーだ。
ビックリ箱だという前フリがあればこそ、中身に警戒心を持たれずにすんだ。
むしろ、写真だけ渡してもぜんぜん驚かなかったと思う。
ビックリ箱だという演出があればこそ、驚いてくれたのだ。
以上、4つの検証をふまえた結果、答えが判明した。
重要なのはアクシデントだ。
アクシデントが起これば、自分のビックリ箱にびっくりするのは、決して不可能じゃない。
残る問題はひとつ。
意図的にアクシデントを起こすには、どうすればいいのだろう。
そもそも意図せずに起こるトラブルのことを、アクシデントというのではないか?
それを意図的に起こすとは、話が矛盾してる。
いったいどうすればいいのか……?
「うーん」
ツヅミは考えに考える。
死ぬほど腹に詰めこまれた栄養が、カンフル剤のごとく、ツヅミの小さな脳をフル回転させていた。
そしてついに。
ついにツヅミは、その方法を思いついた。
「みょ、みょ、みょ」
天使のような笑顔。
お腹の苦しさなど、もうぜんぜん感じない。お布団を抱きしめてツヅミは笑う。
なんという画期的なアイディアだろう。
革新的なイノベーションになると、ツヅミは確信した。
ちなみにイノベーションとは、革新的という意味である。
馬から落ちて落馬したみたいな論法だ。
そうと決まったら、すぐに作戦に取りかかろう。ツヅミは期待と希望で、明日が来るのが待ちきれなかった。
「ぐほぐほぐほ、ぐほ」
天使のような笑顔。
いつの間にか腹心地も、だいぶ楽になっていた。




