第5話 「おばあちゃん子は三文安い」
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「あったあった」
作業所の端っこに積み上げられたビックリ箱は、預けたときのままだ。
ぜんぶで50個。
自信作の、101号から150号だ。
家族から捨てるように言われ、途方に暮れていたのが半年前。おばあちゃんに泣きついて、どうにか預かってもらったのだ。
その運搬中のことである。
おじさんがライトバンで運んでくれたのだが、たぶん振動で、ぜんぶのフタが開いてしまったらしい。
箱ひとつひとつに封じこめられていたぬいぐるみが飛び出そうとして、荷台はスキマがないほどの過密状態になっていた。
いまにも、はちきれそうなくらいに。
早い話、ライトバンの荷台そのものが、巨大なビックリ箱と化してしまった。
運転席のおじさんと、助手席のツヅミは、荷台がそんなことになってるとは夢にも思わず。
家に着いてバックドアを開けた瞬間、大小無数のぬいぐるみが飛び出してきたものだから腰を抜かした。
「パニッシャー!」
ツヅミは意味不明の悲鳴を上げてしまった。
「バレリーナ!」
おじさんも意味不明の悲鳴を上げていた。
ツヅミの一族お家芸の、異様な絶叫である。
ツヅミはあの日のことを思い出して、心が温まるような気持ちになった。
ああ、あれはすごく驚いたなあ。
楽しかったなあ。
人生ではじめて、自分のビックリ箱でびっくりした経験だった。
規模。
タイミング。
このどちらか、あるいは両方が誤作動すれば、製作者さえも驚かすことが出来るのだ。
ツヅミのビックリ箱は、大きく2種類に分けられる。
ひとつ、持ち運びできるタイプ。
もうひとつが、持ち運びできないタイプだ。
前者の「持ち運びできるタイプ」は簡単だ。
ダンボール、ふで箱、カバンなど、容器に仕掛けを封じこめるタイプである。一般的にビックリ箱と言ったら、これだろう。
最大のメリットは、設置の手軽さだ。なにしろ置くだけでいいのだから。
もっと言えば、相手に手渡してもかまわない。
そのかわり、ビックリ箱だと見抜かれる可能性も高い。むしろ、かえって怪しまれることのほうが多い。
極端な例だが、ベランダにケーキの箱があったらどうだ。だれだって不審に思うに決まってる。
なにより、不自然に軽かったり重かったりしてもいけない。
手軽な反面、カモフラージュがとにかく難しいのだ。
後者の「持ち運びできないタイプ」とは、その場にある家具を利用するものだ。
炊飯器、ゲタ箱、タンスの引き出しなどに、仕掛けをセットするタイプだ。厳密には「箱」とは言えないわけだが、ツヅミは自信をもってビックリ箱と呼んでいる。
こちらはセットするのが超ムズかしい。
家具や家電というのは、当たり前だが製品によってサイズがまちまちだ。うまく収納できるとは限らないし、なによりセッティングはその場でやらないといけない。
つまり、仕掛けているところを誰かに見られたら、もうそれでおしまいだ。
だが、成功したときの効果はすさまじい。
まさかティーポットのなかに、まさか郵便受けのなかに、という油断につけこめるからだ。
ここにあるのは、前者が41種、後者が9種だ。
前者は箱に入った状態で、後者はビニールに包まれて置かれている。
これだけの大荷物を置かせてもらっても、おじいちゃんの仕事場にはまだぜんぜんスペースがあった。
「この部屋使わせてもらえないかな。おばあちゃんに頼んでみよう」
自宅でのビックリ箱製造を禁じられた以上、作業が出来るところはここしかない。ツヅミはおばあちゃんにお願いしてみた。
ときどき学校の帰りや日曜日に作業場を使わせてほしいこと。
ここで作業していることは、パパやママには内緒にしてほしいこと。
「お願いお願い。あと、おじいちゃんの道具も使っていい?」
「いいけど、引き出しにある道具だけだよ。ドリルやなんや、機械は危ないから触るんじゃないよ」
ツヅミは天にも昇る気持ちだった。
まさか、自分専用の開発ラボが手に入るなんて思わなかった。
おまけに、おばあちゃんは帰りにおこづかいをくれた。ツヅミには大金と言える金額だった。
「ムダ使いしちゃいかんよ」
「あ、ありがとう……」
ツヅミは一瞬、受け取るのをためらった。ビックリ箱の密造計画に巻きこんだうえ、お金までもらうことに気が引けたのだ。
しかしここまで来るのにバス代も必要だし、新たな材料も買わなければならない。
ツヅミは何度もお礼を言って、おばあちゃんの家を出た。
なんというか、とんでもない孫を持ってお気の毒である。




