第4話 「木を隠すなら森のなか」
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翌朝。
ツヅミは学校の帰りに、となりの町へ向かった。
15分ほどバスに揺られ、到着したのは木造2階建ての一軒家。
大好きな、おばあちゃんの家だ。
ここには、祖母とおじさん夫婦の3人が住んでいる。一人娘のサクラお姉ちゃんは、今年の春から東京の大学に受かって家を出ていた。
「こんにちは、こんにちは」
ツヅミが玄関で呼びかけると、庭からおばあちゃんが来てくれた。
「おやツヅミじゃないか。ひとりで来たのかい」
「うん」
「大学の帰りかい。ずいぶん早いんだねえ」
「あたしまだ小学生だよ。大学はサクラちゃんだよ」
「そうだったかい? あ、そうそう。ビスケットがあるから上がんなさい」
「うん」
居間に通されると、ケーキが出てきた。
ビスケットより好きなので文句などないが、さすがにギョッとしてしまった。話がちがう。
「おいしいかい?」
「うん」
ツヅミはうれしかった。
びっくりしたからだ。
事前の話とちがう、これこそ人間を驚かせる基本ではないか。
当のおばあちゃんは、ケーキをビスケットと言ったことさえ覚えていない。それに、さっきは小学校と大学を間違えた。
前にママが、認知症とかいう病気だと言っていた。おばあちゃんが病気になって悲しいが、ツヅミに優しくしてくれるのはぜんぜん変わらなかった。
本当は、昨日家でなにがあったのか話したかった。
どれだけつらい目にあったか聞いてほしかった。
でも、できない。
病気のおばあちゃんに、余計な心配をさせるわけにはいかなかった。
というか事実をありのまま話したら、おばあちゃんにも怒られるような気がした。
さすがのバ……ツヅミでも学習していた。
いや、今日はそんな話をしにきたのではない。
「おばあちゃん、前にあずかってもらった箱あるでしょ」
「箱? なんだい、箱って」
「ほら、ビックリ箱。いっぱい持ってきたやつ」
「知らんよ。なんの話?」
これだ。
荷物がビックリ箱だということは、半年前にもちゃんと説明したはずだ。そのうえで預かってもらったのだ。
しかし箱の存在どころか、預かったことさえ忘れている。
おばあちゃんなら、自分の作ったビックリ箱に驚くなど、造作もないことだろう。ある意味、ツヅミはうらやましかった。
「おじいちゃんの部屋に行っていい?」
「ああいいよ。でも気をつけるんだよ」
この家の裏手は、かつて会社の作業室だった。亡くなったおじいちゃんが営んでいた歯科技工所のだ。
おじいちゃんは腕のいい歯科技工士だったそうで、何人か職人さんも雇ってたって聞いた。亡くなったときに廃業して、いまは主のいない作業室に、かつての仕事道具が保管されているばかりだ。
作業場には、いまもたくさんの機械が残されている。そのすべて、なにに使う道具なのかさえわからない。
でもツヅミは、それらを見ているだけでわくわくした。ツヅミの工作への情熱は、間違いなく祖父の遺伝だろう。
「あったあった」
作業所の端っこに積み上げられたビックリ箱は、預けたときのままだ。
ぜんぶで50個。
自信作の、101号から150号だ。




