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第3話 「天才と狂人は紙一重」


  


挿絵(By みてみん)




 ■ ■





 ツヅミがビックリ箱の製作に夢中になったのには、ワケがある。小学2年生のとき、ネットの動画で見て感動したからだ。以上。


 それ以来、自分でも作ってみたいと情熱に燃えた。


 運のいいことに、学校の図書室で「おもちゃの作りかた」なる本を発見した。そのなかに、ビックリ箱の作りかたが紹介されていたのだ。


 ツヅミはそれを何度もくりかえし読み、今日まで試行錯誤を続けてきた。結果、その技術は小学生とは思えないレベルに達していた。


 だがビックリ箱というのは、作って終わりの工芸品ではない。


 贈答品なのだ。

 だれかにプレゼントして、はじめて存在価値が生まれるのだ。


 と、ツヅミは思っていた。



 実験台になったのは家族だった。


 最初のころのビックリ箱は、子どもらしい他愛(たあい)もないものだった。家族もわざと引っかかってくれたりして、そのたび箱崎家には笑い声が絶えなかった。


 去年くらいから箱崎家には、絶叫が絶えなくなった。


 ツヅミのビックリ箱は、もはやオモチャの域ではなくなっていた。対歩兵用トラップとでも呼ぶべき次元に到達しようとしていた。

 あまりにも巧妙すぎて、どんなに用心しても引っかかってしまうのだ。



 あるとき、キッチンのテーブルに不審な箱があった。


 ビックリ箱にちがいない。

 見つけたママは、2階のツヅミを(しか)りつけようと台所のドアを開けた。


 (わな)だった。


 ドアを開けた瞬間、ステゴサウルスの人形が、廊下から襲いかかってきた。それも音声付きで。グオオオオン!


「わぐな―――!」

 よろめいた瞬間、なんとテーブルの箱までもがスポポポンと破裂した。二重仕掛けの480号である。

 再度、すさまじい悲鳴。


「ワイリ―――!」

 ママの叫び声は、6軒先まで聞こえたそうな。



 人間心理のウラをかいた、おそろしいビックリ箱だった。もはや、軍事に転用可能なほどのギミックだった。

 悪魔の才能と言うほかない。


 ツヅミはその日、ゴリラでも大泣きするくらい怒られた。



 ツヅミは悲しかった。

 どうして誰も自分のがんばりを認めてくれないんだろう。びっくりするのって楽しいじゃない。


 あたしはむしろ、ビックリ箱にひっかかりたいくらいなのに。


 みんなに、ビックリ箱で驚いてほしい。

 ただそれだけなのに。


 それなのに、お、怒られて怒られて……



 しかしいまツヅミのなかで、不思議な喜びが芽生えつつあった。

 昼間の体験が、あまりにも衝撃だったからだ。


 どんなにすごいビックリ箱でも、驚かすことの出来ない人間がいる。


 それは製作者本人だ。


 ビックリ箱というのは、そうだと知らないから驚けるのだ。事実、ツヅミが自分のビックリ箱に驚いたことなど一度もない。



 いや……


 あった。

 かつて、たった1度だけ。


 それは今日と同じく、思わぬハプニングが起こったときにだ。そのエピソードについては、またの機会に解説させていただきたい。



 それにしても今日のハプニングはすごかった。お兄ちゃんがビックリ箱に驚き、その悲鳴に自分が驚いたのだ。

 まったく予想だにしないタイミングだったので、階段まで踏みはずしてしまった。


 そう。

 予想だにしないハプニング。

 

 これこそが重要だったのだ。



「楽しかったあ」


 あたしのビックリ箱が、お兄ちゃんを驚かせた。

 その悲鳴に、あたしが驚かされた。

 

 それは間接的に、


 あたしのビックリ箱に驚かされたのと、同じではないか?



 そのうえ、新作の665号の作動にも驚いてしまった。ビックリ箱だとわかっているのにびっくりした。

 なぜなら、思いがけないタイミングで暴発したからだ。

 マジで息止まった。



「驚いたな、うふふ。驚いたなあ」


 自分の仕掛けたビックリ箱で、自分が驚く。まるでフグが自分の毒で死ぬような不条理である。

 そんなのは不可能なことだ……と思っていた。


 今日の昼までは。


 今日、たしかにそれは実現したのだ。

 お兄ちゃんの協力によって。


 ツヅミは兄が誇らしかった。



「あたしも、あたしのビックリ箱で驚きたいな」


 そうだ。

 これは神さまが、あたしに与えたもうた試練なのだ。



 とても眠ってられなかった。


 ベッドから飛び起きるや、勉強机に向かう。未使用のノートを広げて、今後の開発計画を一心不乱に書きつけていく。

 すべては、自分のビックリ箱で驚くためにだ。


 いまツヅミの勉強机には、教科書と学校のドリルしかない。夕方までは、これまで書き続けた製作ノート24冊がならんでいたのに。


 ぜんぶ両親に没収されてしまった。

 バネや画用紙や、クローゼットに保管してた材料さえも取り上げられてしまった。



 自分を愛してくれる両親と兄。

 ツヅミは家族のみんなから愛されていた。そして、やさしく(おだ)やかな家族を、ツヅミも心から愛していた。


 それなのにビックリ箱のことになると、たちまち状況が変わる。まるで機能不全家族のごとく、まったく会話が通じなくなるのだ。



 家族が変貌(へんぼう)したのは、去年の春。


 ツヅミはバネ仕掛けのビックリ箱ではもの足りなくなり、花火を使うことを思いついた。これをお風呂で実験した結果、浴槽(よくそう)が大破。

 修繕に37万円かかった。


 それ以来、ビックリ箱の話をしただけでも激怒される。



 大好きな家族が、自分の夢を認めてくれないことが悲しかった。

 買い集めた材料や、宝物のノートまで捨てられたことに、心が引き裂かれる思いだった。



 第三者から見れば、よくその程度で許してもらえたな、というくらい甘い罰なのだが……ツヅミにはそれが理解できない。


 ツヅミは泣き出したいのをこらえて、計画ノートを書きつづけた。どうすれば自分のビックリ箱で驚けるのか。


 そしてこの夜、ツヅミにひらめきの天使が舞い降りた。



 ……いや。


 舞い降りたのは、悪魔だったのかもしれない。






挿絵(By みてみん)








【 ツヅミちゃんに質問のコーナー 】





挿絵(By みてみん)




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イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

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