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第26話 「帯に短し、恋せよ乙女」

 


挿絵(By みてみん)




 ■ ■


 


 かくしてツヅミとママは、1泊2日の禅寺修行を終えて帰宅した。


 いきなりふたりが家から消えたもんだから、パパとお兄ちゃんは、昨日からパニックになっていた。だってスマホにかけても留守電だし、ラインは既読にならないし。

 もし禅寺から連絡が来なかったら、警察に捜索願いを出していただろう。



「だまって家を空けてごめんなさい。それより、ツヅミのビックリ箱づくりを許してあげてほしいの」


 帰宅したとたん、どういうわけか、ツヅミの味方をするママ。話の前後がぜんぜんつながってないが、ママはとても真剣な顔だった。


 こうなるとパパもお兄ちゃんも、しぶしぶ認めるしかなかった。


 そして、パパとママの監視のもとで……という条件でだが、市役所から依頼されたビックリ箱の製作が許されたのである。

 正確に言えば、依頼されたのは募金箱の作成なのだが、この場合はどっちでもいいだろう。


 ツヅミは感謝していた。

 神様に感謝していた。


 自分のビックリ箱が、とうとう社会の役に立てるのだ。




 それから、しばらく日後(にちご)


 しばらく(にち)が経過した。



 いまツヅミの部屋には、おじいちゃんの作業机が置かれている。

 おばあちゃんがくれたのだ。


 武骨で巨大で、女の子の部屋にはふさわしくないけれど、ツヅミは死ぬほど感激した。うれしいことに、(そな)えつけの蛍光灯がLEDに交換されていた。



「うぎゅうぎゅ……ここをこうして、と」


 さっきからツヅミは、なにやら難しそうな本を参考に、ヘンテコな部品を組み立てている。

 小学生が、よくもこんな複雑な作業をテキパキとこなせるものだ。



 机はもう、すっかりツヅミ専用にカスタマイズされている。

 改造したのは、もちろんツヅミ自身だ。


 宿題もここでするし、勉強もここでする。

 不思議なもので、この机を使うようになってから、ツヅミの成績はすこしずつ上がっていった。


 もちろん工作もここでする。かつて歯科技工の道具でいっぱいだった引き出しは、もう勉強道具と工作部品でいっぱいだった。

 ほんの2冊だけ、大人向けの恋愛マンガを隠してあるのは家族にもヒミツだ。


 ツヅミは燃えている。

 情熱に燃えている。

 急がねばならない。

 だってこのあと、学習塾に行かねばならないのだから。


 当り前だが、ツヅミの(ばつ)が無くなったわけではない。今後もビックリ箱を作るうえで、両親から次の条件を出された。


 ① 完成したビックリ箱は、パパとママのチェックを受けること。

 ② 使用する際は、その目的と設置場所を明らかにすること。

 ③ 自室以外での製造を禁ずる。

 ④ 不定期的に自室の立ち入り調査を受けること。

 ⑤ 学習塾に週3日通い、勉強を優先すること。

 ⑥ 月1回、家族全員でボランティア活動に従事すること。



 最初に提示された(ばつ)とくらべれば、はるかに軽い刑と言えよう。いや、ビックリ箱の製作を許されたんだから、ツヅミはなんの異議もなかった。


 というわけで、ツヅミは学習塾の宿題を終えてから、空いた時間でビックリ箱作りを進める毎日である。だらだらネットを見る時間など、もう完全になくなっていた。


 ツヅミはそれでも満足だった。

 というか、なんか以前よりも毎日が充実してるから不思議だ。



「でけた! でけたでけた!」


 ついにビックリ箱667号は完成した。

 自信作の募金箱である。


 なんというか、えらいデカい。

 大まかに言うと、上下ふたつの箱で出来ている。


 まず上が募金箱のようだ。

 すべての面が透明のアクリル板で、なかのお金が目視できるようになっている。


 本来、募金箱とは中身が見えるべきだった。その反省を踏まえ、市役所から透明の募金箱をもらってきたのだ。


 しかし、下の箱はなんだろう。


 箱というか、まるで台座だ。腰の高さくらいある台座のうえに、さっきの募金箱がガッシリと固定されている。



 ところでこの募金箱、お金の投入口が無い。


 台座の下部には踏み板があり、これを踏むと、募金箱の上蓋(うわブタ)が開く。お金の投入口は、そこに隠されているのだ。

 つまりペダルを踏んでもらわないとフタが開かず、お金を入れられないようになっている。


 その理由は、あとで説明させていただこう。

 まずは、投入口のほうから解説したい。


 投入口の真下には、回転車みたいな部品がセットされている。

 透明の募金箱だから、この回転車は外から丸見えだ。



 さて。

 ここに硬貨や紙幣が入れられると、当たり前だが回転車にぶつかる。つまりお金の落下で、回転車がかならず回るわけだ。


 この回転の角度(・・)によって、台座の装置はいろんな動作をする。


 360度回転すれば、パターンAの動作。

 180度、つまり半回転なら、パターンBの動作。

 25度以下の回転なら、パターンCの動作だ。


 パターンAの場合、台座の前面が開き、市のゆるキャラ「さといにゃん」が飛び出すしかけだ。

 市の名産、サトイモとネコが合体した化け物である。


 さといにゃんの人形には、募金ありがとうのメッセージカードを持たせてある。人形がお礼のメッセージを見せて、1秒後にまた台座へ戻る仕組みだ。




挿絵(By みてみん)




 この動力は、前述の踏み板によって(たくわ)えられる。


 ペダルが踏まれるたびに、台座のなかのゼンマイが巻かれる。チョロQみたいなおもちゃと、まったくおなじ仕組みだ。

 蓄えられたゼンマイの力で、さといにゃん人形を登場、退場させる構造である。



 これが投入口に、フタをかぶせた理由だ。

 動力源のペダルを踏んでもらうために、あえて投入口を隠したのだ。


 募金するには、フタを開ける必要がある。

 そのフタを開けるには、ペダルを踏まねばならない。


 そのペダルは、フタを開けるついでに、ゼンマイも巻くというわけだ。



 悪い言いかたになるが、募金者は、お金といっしょに運動エネルギーも寄付することになる。

 良く言えば、動力に電気を使わないので、とてもエコロジーだ。


 さすがに透明の募金箱に、ビックリ箱のしかけを入れることはできない。だからその下に台座を置いて、そこに動力装置を隠すことにしたのだ。



 それから、紙幣の問題にも注目した。お札の軽さによる作動不良には、666号でさんざん痛い目を見せられたからだ。

 なにより、せっかく大金を入れてくれたのに、それが原因でビックリ箱が誤作動するのでは申しわけない。


 そこで作動スイッチを、車輪の回転距離に応じるようにした。

 この構造なら、1円玉でも1万円札でも、かならずなんらかのギミックが作動するわけだ。

 


 ツヅミワールド全開の、667号である。




「パパ、ママ、お兄ちゃん! 来て来て!」


 階下の家族を大声で呼ぶ。

 やがて1階から、パパとママとお兄ちゃんがやってきた。


「……はあ……」

「ふう……」

「…………ちっ」


 ツヅミのはしゃぎよう(・・・・・・)に対し、家族の冷ややかな反応よ。667号を見た家族は、大いにため息をついた。


 たしかに完成したビックリ箱を検閲(けんえつ)する約束だが、べつに好きで見たいわけじゃない。なんだったら、永遠に完成しなくてよかったのに。

 みんなの冷たい目が、そう語っているようだった。



「これに俺の進退がかかってるわけか。見るのもイヤになる」

「なにもこんなバカでっかい……まさかガソリンは使ってないわよね」

「いまのうちに家中(いえじゅう)小銭(こぜに)入れてブッ壊せばいいんだ」


 さんざんな批評。

 とくにママはこの数日、ビックリ箱づくりを許したことを心底後悔していた。



「それではご覧ください。この100円玉で実験していただきましょう。どなたかお願いできますか」


 ハイテンションのツヅミは気にも()めない。

 マジシャンのように、お客さんたちに協力を願い出る。だがツヅミの差し出した100円玉を、誰も受け取ってくれない。


「どうされましたか。ど、どなたか……」



 誰も受け取ってくれない。




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イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

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