第24話 「女は弱いが母は強し」
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帰宅後。
市からビックリ箱製作の依頼を受けた件について、家族会議が開かれた。しょっちゅう会議してるな、この家族。
娘がまだビックリ箱を作りたがってると聞かされたママは、絶望で声も出なかった。よもや、ツヅミがまだ懲りてないとは思わなかった。
その夜、ママはツヅミを車に乗せた。
関西の山奥にある禅寺へと向かうためだ。テレビの特集で見た、高名な修行寺である。
ママは、ツヅミとともに出家する覚悟を決めたのだ。
もう完全に正気じゃないんだぜ。
一晩中、東名高速を走り、到着したのは翌日の明け方近くだった。
「お願いいたします! どうかお願いいたします!」
山門に座りこみ、泣きながら母子での滝行を申しこむ。
滝行とは、落下する滝の水に打たれる精神修養である。ママは白装束に着替えると、水温12℃の川へツヅミを引きずっていった。
すべて娘のためだった。
ツヅミが憎くてやってるんじゃない。その証拠に、ママもいっしょに滝に打たれてあげる。
ママはツヅミを抱きしめて、谷川へ入っていった。
眼前にせまるのは、恐るべき滝。
なんという大きな滝だろう……この世のものとは思えない。
垂直。
天から垂直に、川が落ちている。
たかが水だなんてとんでもない。
落差30メートルの激流は、まるで巨大な裁断機のようだ。
ごうごうと落ちる水の音は、岩々にぶつかって雷鳴のように轟く。
ドドドドドドォ!!
こ、こ、この滝に打たれる!?
「わぃいいいいい! ふぁぃいいいい!」
ツヅミは恐怖で泣き叫んだが、すさまじい滝音は、少女の悲鳴を冷酷にかき消した。
山はまるで、親子の命など無関心であるかのごとく。
森も、岩も、空も川も、人間の母子を拒絶しない。
歓迎もしない。
死ぬなら勝手に死ねば?
山も、川も、滝も、無慈悲にそう告げているようだった。
「あああああああ! いやだああああああ!」
ツヅミは恐ろしさのあまり絶叫した。
人生ではじめて、ふつうの人とおなじような悲鳴をあげた。
自分はいま、川のなかにいる。
まちがいなく、ママに抱かれて川のなかにいるはず。
そして叫び声をあげているはず。
それなのに、滝の音で自分の声が聞こえない。
ママの体温も、水の冷たさによって感じない。
感じるのは、裸足で川底の小石を踏みしめる感触だけだ。そしてその感触も、だんだん感じなくなってきた。
自分はたしかにここにいる。
いるはず。
なのに、自分がいないかのようだった。
さあ滝へ―――
「ああ、ああ……」
色即是空。
空即是色。
水の一滴一滴に名前などないが、その一滴一滴が集まって、こんな激流を作っている。
このときツヅミは、自分も川を流れる水の一滴になってしまう。
そんなふうに感じていた。
も ち ろ ん 錯覚だった。
ドドドドドドドドォ!
「寒い死んじゃう! く、首が折れ……」
「愛してるからねツヅミちゃん。ママはあなたを愛してる」
すさまじい水量、水圧が、ツヅミとママを上から押し潰す。
凍えそうな冷たさ……




