第2話 「びっくり仰天ホトトギス」
■ ■
「ふう、あとすこし」
ツヅミは緊張した表情で、バネを突っついたり縮めたりする。この動作確認テストを怠ってはいけない。さもないと、本番でとんでもない作動不良を起こすことがある。
やがてツヅミの表情がやわらいだ。
安堵感に満ちた顔だ。
作動テストは、どうやら問題なく完了したらしい。
筒から飛び出したバネのてっぺんに、コーヒー仮面の人形を接着する。
言わずと知れた、子供向けアニメのキャラクター「怪傑! コーヒー仮面」だ。
ゆっくりと人形を筒のなかに押しこみ、いったんフタ代わりに国語辞典をかぶせた。そのまま、そろりそろりと辞典をずらし、すこしだけ筒のなかを覗ける状態にする。
ツヅミはそこに、コーヒー豆をざらざらと流し入れた。
もう入らない、というところで辞典をどける。
もちろんコーヒー仮面が飛び出さないよう、細心の注意を払ってだ。バネをマイナスドライバーで押さえながら、慎重に作業する。
ツヅミはこの技術の達人だった。
「でけた! でけた!」
茶筒に本来のフタをかぶせて、ようやくビックリ箱665号は完成した。
お番茶を入れようとしたら、コーヒー仮面とコーヒー豆が飛び出すというジョークだ。
これこそ真の番茶劇だ、とツヅミは自信満々だった。
さっそく台所に持っていく。
うきうきと飛び跳ねたくなるくらい、ツヅミの心は舞い上がっていた。
ああ、誰が引っかかってくれるかな。
楽しみだなあ。
しかし、すべてはムダになった。
階段を下りてる途中、お兄ちゃんのすさまじい声が家中に響いたのだ。
いつの間にか、お兄ちゃんも帰宅していたらしい。
キッチンから絶叫がとどろく。
「エミリア―――!」
お兄ちゃんの悲鳴もどこかおかしい。箱崎一族はそういう特殊体質なのだ。いや、今はそんなのどうでもいい。
「ほんがにゃい!」
ツルリ!
お兄ちゃんの悲鳴に驚いたツヅミは、階段を踏みはずした。さらに、665号を放り投げてしまう。
なんということだ。
空中で茶筒のフタが開き、コーヒー仮面が飛び出した。
ビヨヨヨーン!
そろそろコーヒータイムにしない?
そんな主人公の決めゼリフが聞こえてくるようだった。
コーヒー仮面と同時に、コーヒー豆も飛び出す。
バラバラバラ!
コーヒー豆の散弾!
「痛い痛い痛い!」
ツヅミの小さな体が、たちまち階段の下に転がった。コロコロ。
「しばくぞツヅミ!」
やがて高校1年生のマモルが、ブチキレながらやってきた。全身がバラの花びらだらけだ。どうやら、リビングにしかけた662号にひっかかったらしい。
「ビックリ箱やめろって言ってるだろ、お前はボンバーマンか!」
華麗にバラの花弁が舞う。
まるで芳香剤のCM……とにかくバラの花びらが舞う。
お兄ちゃんは慣れたもので、犯人が誰だか即座に見破ってしまった。それにしても、階段から転げ落ちた妹を心配する様子がまるでない。
薄情と思うかもしれないが、無理もなかった。
ツヅミのビックリ箱に、家族の心労はもう限界だった。
ツヅミがその晩、パパ、ママ、お兄ちゃんからさんざん怒られたのは言うまでもない。
ビックリ箱のために買いそろえた材料は、すべて捨てられてしまった。
コーヒー仮面の人形は、八つ裂きにされた。
ツヅミは過呼吸を起こすほど泣いた。
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
いま生まれたわけではない。
ツヅミは、過呼吸を起こすほど泣いているのだ。
これで懲りてくれるようなら、まだ可愛げがあるんだが……




