第18話 「油断大敵、火がぼうぼう」
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「ちゅっ! き、貴様……!」
舌打ちするツヅミ。
よけいなことを……キッと村井くんをにらむ。小5の女の子とは思えない、憎悪に歪んだ醜い顔だ。
となりでそれを見た富山さんが、ドン引きしている。
「え? ああ、そうか。いいよ」
財布を取り出すお兄ちゃん。
小銭入れから10円を出したと思ったら、やっぱり引っこめて……すこし悩んだ顔で、100円玉に変えた。
マモル兄には、ちょっとこういう見栄を張るクセがある。
「ちゅっ、ちゅっ!」
「お前、なに舌打ちなんかしてんだ。ほら100円やるよ」
ツヅミに100円硬貨が近づいてくる。
対してツヅミは、募金箱の投入口を両手でふさいでしまった。絶対拒否だ。
「や、やだ! いらないいらない!」
「なにやってんだ、手ぇどけろって!」
アホみたいな攻防。
ザワつくほかの子どもたち。
箱崎さん、いったいどうしたんだろう。ていうか、さっきの舌打ちだったのか。投げキッスかと思った。
ざわざわ。
「家族のあたしに募金したら、不正金券になる!」
「それを言うなら不正献金だろ。なってたまるか。それともお前、募金を着服でもすんのかよ」
「服ならちゃんと着てる! 脱がない!」
「バ、バカ! 駅前で誤解されること言うな!」
ツヅミは真剣に抵抗していた。もしお兄ちゃんがお金を入れたとたん、666号が作動しようものなら大変なことになる。
いや……待てよ?
うっかりしていた。
安全装置のこと忘れてた。
心臓発作起こしかねないようなお年寄りや、赤ちゃんを抱いた人とかまで驚かせたらたいへんだ。
そうならないように、念のために作ったセーフティー。
いまこそ使うときだ!
一見、飾りにしか見えないリボン。
右にぐいと引っぱると、今度は左のリボンが短くなった。
これでビックリ箱はロックされた。
お金を入れられても安全だ。
「これでよし。さあ、100円入れて」
ズイ。
募金箱を押し出す。
しかし……
「だれがお前になんか入れてやるか! きみに入れさせてよ」
ツヅミを無視し、村井くんの募金箱へ入れるマモル。
チャランチャラン!
ポンポコポン。
ピンポーン。
「ちょき! なんだ、いまの音は!?」
箱から派手な音が鳴ったことに、マモルはビビってしまった。だがすぐさま、小学生の前でうろたえた自分に気づき、ゴホンと咳ばらいをする。
「ゴホン。あー、み、みんながんばってね」
募金箱をつき出したままの妹を無視し、お兄ちゃんは去っていく。そりゃ、あんだけ拒絶したら、シカトもされるだろう。
ありがとうございます。
ありがとうございまーす。
ツヅミも、きわめて儀礼的にお礼を言った。
アリガトゴザマース。
ふう。
ツヅミはひとまずホッとした。とりあえず、家族に666号がバレる悲劇は回避できた。
まさか、お兄ちゃんに遭遇するとは思わなかった。
しかし、ようやく平穏が戻る。
どうにか帰ってくれた。
ホッとした。
そのとき。
プツンッ!
ツヅミの募金箱の、首ヒモが切れた。
とつぜん、プチンと。
金具とヒモをつないでた部分が、ねじれて切れてしまったのだ。
ツヅミの両手に、いきなりズシリと箱の荷重がかかる。
それと同時に、首にかかっていた重さが消えた。
「おすろ!」
バランスを崩したせいで、募金箱はツヅミの手からすべり抜けた。
落っことす―――
「あ、お、ちょ、ちょ!」
ツヅミはあたふたしながらも、どうにか箱を落とすまいと前進した。
なんとか捕まえないと!
だが模造紙でくるまれた箱は、つるつると掴みどころがない。
「あぶない!」
「キャッ!」
みんなの悲鳴。
ツヅミがなんとか箱に追いついたとき、もう目の前には、歩道のガード柵が迫っていた。
しかしツヅミの足はもう止められず、よろよろと前に進み続ける。
ガードレールに頭を打つ……
いや、もっとヤバい!
ガードレールをこえて、車道に倒れこむ!
「ぼあ!」
悲鳴を上げながら、ツヅミはどうにかして倒れる体勢を変えようとした。なんとか手をつこうと、募金箱を放り捨てる。
しかしもう、どうにもならない。
ツヅミの上半身は、もうガードレールを超えてしまった。
ガシャン!
ゴロンゴロン!
放り投げられた募金箱は、ワンバウンドして車道に転がり、ツヅミは……
お兄ちゃんに両脇をかかえられていた。




