第16話 「思慮ある者は獣の数字を解くがよい」
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しかし、ちょっと不満だ。
ぜんぜん666号が反応しない。
社会奉仕のために募金箱をビックリ箱に改造したのに、これでは張りあいがない。せっかく寄付してくれた人たちに、申し訳ない気持ちだった。
沈黙の666号。
いつ作動するか、どんな動作をするかはツヅミにもわからない。今度こそか今度こそかと、ドキドキしていた。
お金を入れられるたびに緊張したが、あまりにも作動しないもんだから、さっきはつい、ボケっとしてしまった。
どうせなら、あのタイミングで作動してくれたらメチャクチャ驚けたのに。残念。
しかし、どうも変だ。
いくらなんでも、反応しなさすぎじゃない?
2分の1の確率で作動するはずのビックリ箱が、14人連続でハズレるなんてことあるのかな。
念のため、ツヅミは箱の側面を見てみた。募金箱の右側からは、リボンが2センチほど垂れ下がっている。
これは666号の、セーフティースイッチだ。
箱の左側にも同じようなリボンがあるが、そっちは5センチくらいの長さだ。右のリボンを伸ばすと安全装置がかかり、ビックリ箱は作動しなくなる。
左のリボンのほうが長いということは、安全装置は解除されてるってことだ。
ということは、いまはロックされてないわけで……
やっぱり、14回つづけて動かないのは不自然だった。
ツヅミはちょっと計算してみた。
えーっと……確率は14÷100だから、14%。
あ、ちがう。
666号のスイッチは8個中4個だから、半分の7%か。
そんなこと考えてるあいだに、おじいちゃんが村井くんに募金してくれた。村井くんの箱には、鈴と太鼓がしかけてあるらしい。
募金箱が、チリンチリン、ポンポコポンと音を立てる。
チャランチャラン、ポンポコポン。
ピンポーン!
どうやら、早押しボタンまで入っているようだ。
「ありがとうございます」
「ありがとうございまーす!」
ツヅミもみんなといっしょに、ありがとうございますとお礼を返す。
さて……
賢明な読者諸氏はお気づきだろう。
14人連続でハズレる確率は、7%などではない。
小学5年生のツヅミは、まだ累乗をならっていないため、カンチガイしてるのだ。
2分の1の「14乗」なんだから、確率は16384分の1。
じつに、約0.0061%だ。
ソシャゲの運営も驚きの、天文学的可能性である。
おっと。
これは発生したあとの結果だから、確率は50%のままだろという指摘は間違いだぞ。
" ギャンブラーの誤謬 ″ と混同しないように。
とにかく、ウソみたいなことが起こっていた。ツヅミの募金箱は、もうとっくにビックリ箱と化していなければならないはずだった。
でもまだ、そうはなっていない。
ツヅミはこんなこともあるかな、くらいに考えているが冗談じゃない。
こんな奇跡は、なかなか無い。
―――ここからは、ツヅミも知らない事実である。
666号はいま、故障している。
2番目のおじさんに募金してもらった、千円札。
これが、部品のなかで引っかかってるのだ。
4つ折りにされていた千円札が摩擦で開き、筒のとちゅうで詰まっている。それが、あとから投入された硬貨12枚の落下を阻んでいた。
堤防のように、いや、受け皿のようにだ。
あ、13枚になった。
チャリンチャリンチャリン!
ツヅミのビックリ箱に、また募金をいただいた。
美しい音が響き、ツヅミたちが元気にお礼を言う。
ありがとうございまーす。
ありがとうございます!




