第15話 「静かなること動かざること」
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そして、金曜日はやってきた。
5年生たちが、おのおの力作の募金箱を首にさげ、10班にわかれて現地へ向かう。
ツヅミは仲良しのミキちゃんや広瀬くんたち、クラスの8人とともに駅前に向かった。引率するのは、担任の石原先生だ。
石原先生とツヅミたちが活動するのは、市の主要駅だ。通行人がもっとも多いロータリー道路の前に、みんなは一列に並ぶ。
そして、募金にご協力お願いしますと、かわいい声で唱和した。
ほほえましい小学生の姿に、行き交う人たちも足を止める。さっきも作業着の若者が、わざわざ自転車から降りて募金してくれた。
毎年行われている行事だけあって、町の人にはおなじみの光景なのだろう。もしかしたらさっきの青年も、小学生のころに募金活動をしたのかもしれない。
10時を回ったばかりなので、主要駅といえども、そんなに混雑していない。さすがに今の時間、通勤通学をする人は少ないようだ。
だが、そのほうが募金活動に適してると言える。
あんまり人通りが多い時間に募金活動をしても、駅利用者の妨げになってしまうだろう。
実際、よほど急いでる人はともかく、けっこうな人数が募金に協力してくれた。
「はい、がんばってね」
老婦人が中村くんの募金箱に、100円を入れてくれた。
チャランチャランチャラン。
とたんに、募金箱から鈴の音が聞こえてきた。
婦人が目を丸くする。驚いた様子で子どもたちの顔を見回すと、今度は富山さんの募金箱にも100円を入れてくれた。
シャランシャランラララ♪
やはり、金属の美しい音が鳴る。
みんながツヅミに笑いかける。
大成功、と言わんばかりの笑顔だ。
ツヅミの考案したチェーンのしかけが、全員の募金箱に装着されているのだ。ツヅミは照れくさくて、てへてへと笑う。
と。
石原先生と駅長さんが、列から離れた場所で談笑していた。
「むかしは券売機の前で募金活動してもらってたんですけどね。いまどきはみんな、ICカードで電車に乗られるでしょう。募金のために、わざわざ財布出してくれる人は減りましたねえ」
「私も小学校のときに、駅前で募金活動しましたね。そのころはスマホで改札抜ける人のほうが、ぜんぜん少数派でしたっけ」
……?
子どもたちにも会話の内容は聞こえたが、みんなキョトンとした表情を浮かべていた。
自分たちが電車に乗るときは、たいてい子供料金のキップを買ってもらうことになる。
けど大人は、みんなスマホで改札を抜けるのが常識じゃないの?
大人はみんな、ICカードを利用するものだと思ってた。事実、ここにいる子どもたちの親のなかに、キップで電車に乗る大人などひとりもいなかった。
だからキップを買っている大人を見るのが、彼らには新鮮だった。意外なことに、3人にひとりくらいの割合で券売機を利用している。
いちいちメンドくさくないのかな、それともスマホ持ってないのかな、と子どもたちは思った。
ツヅミたちは知らない。
乗降客の8割以上がICチケットを使っているが、その人たちはこんな時間に電車に乗らないことを。
ICを利用するようなヘビーユーザーは、もうとっくに会社や学校に行っちゃってるのだ。
対して、あえてICを利用しない大人だっている。
交通費の申請のために、キップ購入の領収書が必要なひと。
年に数回しか電車を利用しないから、ICを使うまでもないひと。
単に、電子決済を敬遠してるひと。
いろんな事情でキップ派のひとがいるわけだが、小学生にはそれが理解できない。
理解できないから、大人がわざわざ、券売機なんか利用してるのが不思議だった。
……たいへん世間知らずなお子ちゃまの視点、と言わざるを得ない。
まだまだ社会経験の足りない、かわいい子どもたちだ。
と、考えてる最中にまた募金。
「はい。がんばってね」
「ぎょ!」
チャランチャラン。
チャランチャランチャラン。
ツヅミの募金箱が、軽快な音を奏でる。
ベビーカーを押す若いお母さんが、お金を投じてくれた。ツヅミは券売機をぼんやり見てたせいで、せっかく募金してくれようとする人に気づけなかった。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
「あ、ありがとうございます!」
周りの友達が女性にお礼を言う声に、遅ればせながらツヅミも返礼した。
不覚である。
余計なことに気を取られて、集中してなかった。
いけない、いけない。
ツヅミは気合を入れなおした。
駅前で活動をはじめて、1時間半くらい経っただろうか。給食の時間には学校に戻るそうなので、あと1時間くらいで活動は終わりなはずだ。
けっこうな人たちが募金をしてくれ、なかには8人全員の箱にお金を入れてくれる人もいた。
ツヅミは自分の募金箱に入れてくれた人数を数えていた。
じつに14人である。
ふたり目のスーツを着たおじさんは、千円札を入れてくれたものだから驚いた。千円と言えば、ツヅミの毎月のおこづかいと同額だ。
すごいお金持ちだなあと思った。
このお金が社会の役に立つんだと思うと、みんなのがんばりが報われる気持ちになって嬉しかった。
しかし、ちょっと不満だ。
ぜんぜん666号が反応しない。




