第11話 「無能な働き者は銃殺にせよ」
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ではマインマイン作戦について解説しよう。
ま、解説ってほどじゃないけど。
ようするに、作動スイッチを機械に任せてしまおうという作戦だ。
ビックリ箱は、フタを開けたときに作動するのが常識だ。
これがいけない。
ツヅミが作るビックリ箱は、そんなに幼稚じゃない。ここにある101号から150号は、まさにその傑作集である。
奥に傾けたときだけ作動する132号。
フタを開けて、閉じたときに作動する136号。
踏むと箱がジャンプして空中で破裂する147号。
いずれも自信作だ。
これらを合体させ、もっとシンプルで高性能なビックリ箱を作るのだ。
どのタイミングで作動するかは、仕掛け人のツヅミにさえわからない。スイッチを、ビックリ箱自身に任せてしまうからだ。
そういう機構を作ろうと考えたのだ。
危機一髪のおもちゃと、まったくおなじ原理だ。
セットするのはツヅミ自身だが、そのときにはもう、どうすれば作動するのかわからなくなっている。
なぜならスイッチの場所は、ランダムに変化するから。
起爆のスイッチは、機械仕掛けの神だけが知っているのだ。
ツヅミは机に向かい、一心不乱に設計図を描きはじめた。
おじいちゃんの机の引き出しには、すごい道具がたくさん詰まっていた。小数点以下の角度まで測れる分度器や、木材にもプラスチックにも書ける鉛筆など。
ツヅミには、魔法のアイテムのコレクションに見えた。
それに、巨大な電卓を3つも見つけた。
これは本当に役に立ってくれた。
プロ用のデスクで高度な道具を使っていると、自分も一流の職工になったような気がする。
引き出しが5段もある職工机は、作業台の角度だって変えられる。その作業台には、直接ものさしが埋めこんであって便利だし、アームのついた拡大鏡もある。
さらに、腕を疲れさせないためのヒジ掛けまであるではないか。
プロの歯科技工デスクとは、なんと機能的なのだろう。
残念ながら蛍光灯は壊れてるらしく、豆電球しか点灯しなかった。
ツヅミは100均で買ってきたいろいろを、惜しげもなく切断したり接着したり。家にあった不要品をバラして加工したり。
おじいちゃんの机は、一連の作業スピードを大いに早めてくれた。
こうなるとツヅミはトイレにも行かない。
時間がたつのも忘れて、夢中で作業に没頭できた。
ちなみに、ツヅミのビックリ箱にはひとつの禁忌事項がある。
遠隔操作しないことだ。
たとえばターゲットが近づいたのを見計らい、ヒモを引いて起爆させるとかがこれにあたる。
ましてや、リモコンやラジコンなどで仕掛けを作動させるなど、最悪の邪道だ。
と、ツヅミは考えていた。
仕掛け人がタイミングを見てスイッチを押すなど、ハンティングとおなじではないか。それではまるで人間狩りではないか。
それではまるでブービートラップではないか。
それではまるで、対人兵器ではないか。
そうじゃない。
ビックリ箱とはラブレターなのだ。
親愛のメッセージなのだ。
ただその方法が、サプライズであるというだけだ。
だからこそビックリ箱とは、仕掛け人が作動させてはならないのだ。愛する人に、フタを開けてもらうべきなのだ。
フタを開けるも相手の自由、フタを開けないのも相手の自由。だからこそ、いかに真心をこめて偽装するかが大切なのだ。
「ふだん隠しているけれど、驚くほどあなたを愛してる」
ツヅミがビックリ箱にこめる想いである。
……断っておくが、この子は本気でこう思ってる。それが証拠にツヅミは、キライな相手にビックリ箱をしかけたことなど一度もない。
嫌いなやつに大切なビックリ箱を触られるなんて、考えただけでも不愉快だった。
あたしがビックリ箱をしかけるのは、好きな人にだけ。
なぜならビックリ箱とはラブレターだから。
狂気である。
「うなうなうな」
ギコギコギコ。
ノコギリの扱いも見事なツヅミちゃん。あっという間にプラスチックを3等分してみせる。
なにしろ張りきらなければならない。
来週までに、まったく新しいビックリ箱を作らねばならないのだ。
なぜ、来週なのか?
理由もなにも、とにかく来週までなのだ。
急がねばならない。
一心不乱、一心不乱である。
大変なスケジュールだが、まったく苦しくない。
むしろ、楽しくてしかたがない。
あと6日。
あと5日。
ツヅミは毎日おばあちゃんの家に通いつめた。
そして締め切り前日、とうとうビックリ箱666号は完成をみたのである。
「びえええええん。チュ、チュ、チュ……」
ツヅミは感激のあまり号泣し、666号に何度もキスをした。
将来が不安でたまらん。




