第10話 「先達は、あらまほしきこと」
■ ■
翌日は祝日だった。
ツヅミは昼からおばあちゃんの家に行き、昨日のお礼を言って作業所に入らせてもらった。
本当は朝からお邪魔したかったが、昼食に誘われたのではたまらない。さすがに2日連続であの食事量は耐えられないと思った。
作業所に行くなりツヅミは、子どものころに遊んだおもちゃを分解しはじめた。
その名も、コーヒー仮面危機一髪。
押し入れに入ってたのを、何年ぶりかに引っぱり出してきたのだ。
「コーヒー仮面 危機一髪」
コーヒーのカップに見立てた台がある。形こそコーヒーカップだが、大きさはビールジョッキくらいだろうか。
そのてっぺんに、コーヒー仮面の人形をセットする。そのあとカップの側面の穴に、剣を挿していく。
というオモチャだ。
剣と言っても、これは剣のかたちをしたプラスチックの板である。
剣を挿しこむ穴は、ぜんぶで20個。
上段、下段の2段にわかれて、カップを一周するように穴は配置されている。このどれかに剣を挿したとき、人形がぴょんと飛び出すのだ。
いつコーヒー仮面が飛び出すかを競う、エキサイティングなゲームである。
面白いことに、どの穴が人形を発射するスイッチなのか、わからないのだ。コーヒー仮面をセットするたびに、どういうわけだか当たりの穴が変わる。
ツヅミは子供のころから、この仕掛けが不思議でしかたなかった。
なんで発射の穴が、いちいち変化するんだろう。
その不思議の正体は、意外にもシンプルだった。
分解してみれば、一目で構造が理解できる。
コーヒー仮面を乗せる台座にはバネが仕込んであり、セットするたびに、バネが圧縮された状態になる。
このバネが一定の位置まで押しこまれると、カチンと突起に引っかかる。つまり、バネのストッパーだ。
ストッパーが外れると、引っかかっていたバネが解放されて、てっぺんの人形が発射される。
この発射スイッチを押すのが、剣というわけだ。
20個の穴にどんどん剣を挿していけば、いつか発射スイッチを押すことになるわけだ。
そう。
それは誰でもわかる。
そうじゃなくて、なんで毎回毎回、発射スイッチの位置が変わるのか?
危機一髪のすごいところは、内部の台座がルーレットみたいに回転することだ。だからスイッチの場所が、360度くるくると移動する。
この回転がとても敏感で、コーヒー仮面を押しこむときの力加減や、ほんのちょっと傾けただけでも動いてしまう。
だからスイッチの場所が、しょっちゅう変わってしまうのだ。
スイッチの向きが変わるのはわかった。
じゃあ、高さまで変わるのはどういうわけか?
上段、下段と、穴の高さは2段にわかれている。上段の穴が当たりのときもあれば、下段のときもある。
高さは、どうして変わるのか?
答えはムチャクチャ単純だった。
発射スイッチが、上下どちらの穴でもカバーできるくらい長いのだ。
発射スイッチは、まるでピストルの引き金のような長い板だ。ただしピストルのそれとは違って、下から上に向かって伸びている。
本体の底から、カップの曲線に沿うように、カーブしながら立ってるのだ。
そして穴は、チグハグに配置されている。
たしかに穴は上段と下段に分かれてるが、縦にそろってるわけじゃない。むしろ、ズラしながら空けられている。
角度18度にひとつの均等な間隔で、上、下、上、下と20個の穴が空けられてるのだ。
その内側では、発射スイッチの引き金が待ちかまえている。
引き金の幅がまた絶妙で、どれかの穴にかならず重なるが、ほかの穴からはかならず外れてしまう。
どう回転させても、たったひとつの穴だけに引き金があわさる。逆にどの穴にもカブらないようには、どうしても出来ない。
絶対に、ひとつの穴だけに重なるのだ。
内部機構の回転、引き金スイッチの長さと幅、穴の配置、この3つの工夫によって、発射穴がいちいち変化するのだ。
たかがオモチャと侮れない、計算されつくされた構造である。
「すごいなあ、すごいなあ」
ツヅミは危機一髪の内部を見て、ため息をついた。電池も使わず、部品の組み合わせだけで、完全ランダムなスイッチシステムを実現しているのだ。
驚くほどシンプルな機構。
これ以上、なにも減らせないであろう究極の形。
こんなものを作った人は天才だ。
偉大なエンジニアに、ツヅミは深い敬意をはらう。
「これこそが、これこそが」
これこそが。
このコーヒー仮面危機一髪こそが、ツヅミの考えた「ビックリ箱マインマイン作戦」の要だった。
忘れてはいけない。
ツヅミの目的は、自分の作ったビックリ箱で、自分が驚くことだ。
自分のビックリ箱で、はたしてどうやったら驚けるのか……
ツヅミには自信があった。
ツヅミには作戦があった。
マインマインとは、ツヅミの英語力で考えた作戦名である。
自爆、という意味のつもりで命名した。
残念。
マインマインを直訳すると「私の地雷」って意味になる。ぜんぜん自爆じゃない。ははは。




