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第1話 「好きこそ物の上手なれ」


 


 ■■


 ギリシア神話に『パンドラの箱』の伝説がある。


 あらゆる災厄が詰まった箱を、パンドラは開けてしまった。

 そのとたん、箱からは病気、貧困、戦争など、あらゆる災いが飛び出したという。


 

 それとはぜんぜん関係ないんだけどさ。


 自分のしかけたビックリ箱で、自分がびっくりするってできると思う?


 できたんだよ、ツヅミちゃんには。


 ■■






挿絵(By みてみん)




 ■ ■



 箱崎ツヅミちゃんは、小学校が終わったとたん、家に飛んで帰った。


 1分1秒がもったいない。

 小さな体のどこにこんな馬力があるのか、鉄砲玉のように走る、走る。


 郵便局を曲がれば、家までもう100メートルもない。ツヅミのスピードはさらに加速する。

 加速しすぎて道を曲がれなかった。


 ガシャ―――ン!


《 バイク自転車盗難・チカン・のぞき・ひったくり多発 注意 》の立て看板にぶつかった。

 


「ひにゃが痛い! あ、い、いけない……」


 べっしょり。

 看板を(どろ)だまりに倒してしまった。


 ぶつけたヒザをさすりながら、ツヅミは看板をもと通りに立てかける。よかった、どこも壊れてないみたいだ。

 ついでに誰にも見られなくてよかった。

 痛む足をひょこひょこさせながら、必死に家路をいそぐ。


 どうでもいいが、看板。

 めちゃくちゃドロがついて「バチカンのひったくり発注」にしか見えなくなってしまった。




挿絵(By みてみん)




「ほうほうほう、た、ただいま。ヘえヘえ」


 紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、ツヅミは帰宅した。

 息が切れる。


 ツヅミの生理現象による発声には、どうにも変な個性がある。クシャミや泣き声、悲鳴やいびきも、やたら変わった珍妙さがあるのだ。


 さっきからヘーヘーほーほー言ってるのは、自宅に感心してるわけではない。ただ息が乱れてるだけだ。

 ツヅミは大急ぎで洗面台に向かう。



「おにょおにょおにょ……ぺっ」


 うがいの音さえおかしい。


 2階の自室へ()けあがると、ランドセルを放りだして勉強机に向かった。机の上には、ゆうべ遅くまで作業をしていた部品がそのままになっている。


 ツヅミはさっそく、ハサミや画用紙を使って製作のつづきに取りかかった。


 ツヅミはもう小学5年生だ。

 だから大切なことをちゃんと理解している。


 素人は、とにかく見た目のインパクトのことばかり考えてしまう。そのため、やたらと箱に()ってしまいがちだ。

 しかし、それではいけない。


 大切なのは、いかに箱を日常生活に溶けこませるかだ。


 部屋にあっても不自然ではない、ふつうさ(・・・・)が重要なのだ。まちがっても、ド派手なビックリマークなど書いてはいけない。

 それだと、事前に中身を教えてるようなものだ。


 箱はただのダンボールとかでいいのだ。通販で届くような、ふつうのダンボールのままでいいのだ。

 いかに違和感のない箱にカモフラージュできるかが重要なのだ。



 もっと言えば、箱である必要すらない。


 タンス、クローゼット、やかん、冷蔵庫……ようするに、ドアやフタのある家具ならなんでもいい。そこにギミックをしかけるという方法もある。

 むしろそっちのほうが「まさか!」という意外性があって、面白かったりする。



「うーん、どれがいいかな」


 ツヅミは引き出しを開けて、うーんと(うな)る。


 引き出しには、大小100本くらいのバネが入っていた。太い針金のやつ、短いやつ、バイクに使うような強力なやつ。

 まるでスプリングの見本集だ。


 そのなかから、今回の作品にふさわしい1本を選び出す。ツヅミほどの腕前になれば、見ただけで適切なバネがわかるのだ。


 バネの先っぽに瞬間接着剤をつけ、すかさず(から)っぽの茶筒(ちゃづつ)に挿入する。こないだ使い切った、お番茶の筒にだ。


 きわめて慎重を要する作業だった。

 筒の直径は、わずか10センチに満たない。この筒の底に、バネを固定したいのだ。


 素手では困難な作業だ。

 専用のわりばしを使って、そうっとバネを接着する。


 どうやら上手くいった。


 お茶筒のなかから、ピンと誇らしげにバネが直立している。いや飛び出している。

 当たり前だ。

 バネのほうが筒より長くなければ、意味がない。




 もう説明しなくても大丈夫だと思うが、ツヅミはビックリ箱を作っている。


 小学2年生からはじめたビックリ箱製作は、本品で665号になる。

 今年のお年玉は、すべて材料費に消えた。






キャラ紹介だ。




挿絵(By みてみん)





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イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

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がんばれ、ツヅミちゃん!
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