【09】計画
「全部聞かせてもらったよ、あつあつだったね~!」
「え、ええ……?」
この前の文音ちゃんとのやり取りは、繋ぎっぱなしだった電話から全て聞こえていたという。そのせいか、私はすぐにドリームテイルのみんなから歓迎してもらえた。
「みなさん、ご心配をおかけしてしまい、何とお詫びしたらよいか……」
文音ちゃんはこの世の終わりのような様子で皆に平謝りしていた。その背中をゆめみちゃんがそっと撫でる。
「ううん。私たちも、もっと早く気付いてあげられたらよかったよ。ごめんね……って言葉じゃ足りないか。私もなんて言ったらいいのか分からない」
「きっと、私の魅力を引き出そうとしてくれた、ということですよね。過去の苦しみに打ち勝てなかった私のほうが、大いに非がありました」
結局、『新月宵祭』は封印されることになった。封印前最後の披露はまた別のTV番組だった。色々サポートをしたのち、本番ではカメラの後ろでみんなに支えられながら、私はぐっしゃぐしゃに泣きつつペンラを振っていた。
「澪さん。具体的には、どのように私の印象を元に戻すのですか?」
「う――――ん。咄嗟に言っちゃったからいまいちこれだ!っていうのは思いついてなくて。でも、とにかく文音ちゃんの普段の様子を発信したら何かが変わるかもって思ってる。どうせみんなステージ上の『文音さま』しか知らないだろうし」
「私の普段の様子……。ですか」
「うん。そうだなー、本読んでるところとか、いつも練習頑張ってるところとか?」
文音ちゃんは口に手を当てる。そして、眉をひそめた。
「それをすると、皆さんからやはり失望されてしまうのではないでしょうか……」
「いやいや、そこがミソだよ文音ちゃん!それで生き残った人たちが本物の文音ちゃんオタクだよ!私はもちろん生き残る!」
そう堂々と言い張る私。それはもう苦笑いされた。
そして、文音ちゃんを人に戻す大作戦が始まった。
慣れないダンスに足がもつれてすっ転ぶ文音ちゃん。
小説の原稿を真剣に書いている文音ちゃん。
色々ノートを広げたまま疲れ果て、練習室で行き倒れてる文音ちゃん。その手にはマリンきゅんのぬいぐるみがいて声が出そうになった。「こいつに触れるな」と言われているみたいだ。
私は文音ちゃんのキャラを打ち壊すことと守護ることを使い分けて、「文音さま」のイメージと戦った。グループ全体のアカウントを借りていたが、アカウントはやっぱりボヤ騒ぎを起こした。
『文音さまが踊っている最中に転ぶなんて……!?』
『うわあ……』
『こんな姿見たくなかった』
失望のコメントが殺到。当然、私はグループから大目玉を食らった。
「ちょっと……。これはまずいよ澪ちゃん……」
「平気だって、想定内だよ。フォロワー1回減るけどまた増えるよ!」
「澪さん、あなたは恐ろしい人ですね……」
ぐんぐん減るフォロワーを気にせず私は本来の姿な「文音ちゃん」の動画を投稿し続けた。文音ちゃんはそのままでも魅力的だって、分からせてやる。
『文音ちゃん可愛い!』
『永遠に観察できる』
『マンガも好きなのマジじゃん!仲間!?』
よし。計画通り、好意的なコメントが増えてきた。これでも私はまだ隠し玉を持っている。絶対に「文音さま」から文音ちゃんを取り戻してやる。




