【08】真相
文音ちゃんは、私に全てを打ち明けてくれた。
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文音は、小学校でたった1年だけ所属した和太鼓部をやめた後も、ある時期までは時々楽しく太鼓を演奏していた。地域のお祭りに混ぜてもらって、他の人と一緒に楽しい演奏、激しい演奏もたくさんしてきた。当然、そんなことは学校内では秘密にしていた。
ただ、中学2年生ごろに状況は変わってしまった。ある時、盆踊りの太鼓をやらせてもらった週末が明けた月曜日のことだった。
「あ、七星さん!太鼓やれるってほんと!?」
「……え」
「本当だって!あたし見たんだよこの前のお祭りでさ!誰だろう?って思ったら七星さんだったんだよ!」
「そ、それは」
「へー、七星さんそんな特技あったんだ!」
最初は、まだ思わぬ形で秘密が露呈してしまっただけだった。事実、文音はクラスの輪になじむことができた。しばらくすると、状況は悪化していく。
「最近七星さんしゃしゃってない?」
「わかるー。和太鼓部1年でやめて逃げたくせに楽しいとこだけ持って行って」
「陰キャちゃん、太鼓で人生大逆転ーっ♡とか、ラノベかっての。気持ち悪」
次に参加させてもらったお祭りで、もう思い出したくないほどの酷い冷やかしに遭った。それ以来、文音は学校自体に行けなくなった。嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。結局卒業間際まで人間関係は回復せず、文音はそれを断ち切るために通信制高校を選んだ。
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「そんなことが……起こっていたなんて……」
「興味本位で、練習場所にあった太鼓を叩いていたら少し楽しくなってしまって……。仲間に見つかってしまいました。『かっこいいから、次の曲は太鼓を活かした曲にしよう』と決まり、皆の悪気のない言葉に私は頷いてしまったのです」
文音ちゃんはまた涙をこぼす。とりあえず持っていたハンカチを渡すと、静かに涙をぬぐっていた。
「最初はまだ大丈夫だったんです。まだ、楽しい気持ちが勝っていた。回数を重ねるごとに、何より大勢の人に見られることにより、あの頃の苦い記憶が蘇ってしまって……」
「あれができあがっていた、と」
「はい……」
確かに、1年の頃にショート動画で太鼓を叩く文音ちゃんはまだ可愛げがあった。
「前々から、私を神のように考えている人はいたようです。陰気な人間でも、輝ける。そんな道を私は知らず知らずのうちに示していた」
確かに、文音ちゃんの人気急上昇っぷりは正気の沙汰じゃなかった。前髪大騒動のときにはもう「文音さま」呼びする人がいた。
「私は、そんなものにはなりたくなかった。『綺羅星』を歌っていた頃のように、穏やかに暮らしていたかった。なのに、世間は私をどんどん神のような何かに押し上げていく……。ずっと、ずっと、怖かった……」
私も、文音ちゃんには平穏な生活を送ってほしい。太鼓はやりたいときに、ひっそりやってくれればいい。あんな苦しそうな所、見てるこっちも耐えられない。
「あなたにしか頼めないことがあります」
文音ちゃんは、私の手をちょっと痛いくらい握った。
「私を、あなたの手で、神の座から引き摺り下ろして……」
え?
意識が宇宙に吹っ飛んだ。
「ごめんなさい、無理な話ですよね……。やはり時間の経過を待つしか、解決策は……」
「待って」
「……?」
「私、文音ちゃんみたいにうまい言葉使えないけどさ、たぶん……。簡単に言えば……。いや余計複雑になるか……」
「うーん。ファンの選別、なんてどう?文音ちゃんの本来の魅力をこれでもかと発信するの。そうしたら、文音ちゃんが好きな人は残って、『文音さま』信者たちはガッカリして離れていく。それは私たちの勝ちに……ならないかな。方法はまた、穏便な感じのを探すとしてさ」
文音ちゃんは、それだ!と言いたげに顔を上げた。
「それ……いいですね……!」
「うん。もう文音ちゃんに辛い顔させないから。ずっと文音ちゃんのこと、守護りたいって思ってたから。何ができるか分からないけど、守護るから!」
「ありがとう……ございます」
文音ちゃんの平和な日々を取り戻すために、私はついに文音ちゃんの「最古参オタク」「友達」そして「守護者」になった。表向きには、ドリームテイルの助っ人、あるいは裏方さんとして活動を支える人になった。




