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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -守護-
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【07】守護

 文音ちゃんの大躍進が止まらない。多分自分の意思じゃないよね。だってインタビューに呼ばれたって前みたいにはにかんだ笑顔見せてくれないもん。だからと言って凛とした顔でもない。前みたいな儚さが何とか残っていて、時々憂い交じりに流し目してくれるくらい。文音ちゃん、褒め言葉言われるたびにあたふたしてたのに今は最低限の反応しか示さない。無感情というか何というか。文音さまに全ての感情を掻っ攫われて、今の文音ちゃんは空っぽに見えた。


 ついに音楽番組とか呼ばれてやんの、文音ちゃん。普通なら誇らしいけれど、この状況でそうはいかない。

 

「続いては今話題沸騰中の、ドリームテイルから七星文音さんに来ていただきましたー!」

「はい、文音の声にめろめろきゅん、七星文音といいます。よろしくお願いします……」

「文音さんにはCMの後、今回だけのスペシャルパフォーマンスで『新月宵祭』を歌っていただきます!」

 

 何らかの奇跡が起こって披露されるのは『綺羅星』ならいいのに。『新月宵祭』なんだよな。悔しい。CMがあと10分くらい明けなきゃいいのにって本気で思ったけど、数分もしないうちに本編へ切り替わった。文音ちゃんが第3形態になってる……。さらに大きな太鼓を背に、文音ちゃんは『新月宵祭』を歌い続けた。くるっと後ろを向いたと思えば一心不乱に大きな太鼓を打ち鳴らす。華奢な身体には似つかない演奏を必死にこなす姿に私の胸はひどく痛む。人間不信になりそう。もうこの番組、推しが呼ばれても見ないからね。


 それでも、私はそんな文音ちゃんの姿を録画で何周も見てしまった。微かに残った「文音ちゃん」の部分を探してしまった。少しくらいはあるはずだ。文音ちゃんの歌は普通だったら大事故なくらい音が外れてた。これは「生歌になった途端下手」とか言われて炎上しそうだなと思いつつ、SNSをそっと覗いたら、とんでもない状態になっていた。


 『文音さまこそ神!』

 『あの叫びが焼き付いて今日眠れないかも』

 『あんなに太鼓叩いてるのにごつくないのは奇跡。これは神がかってる』

 

 ループ5回目くらいで私はやっと異常事態に気づいた。最後の1音、もう音を外すとかの領域も超えていた。もうこれは悲鳴だ。文音ちゃんが、文音さまに飲み込まれる、その瞬間のような悲鳴。文音ちゃんがぶっ壊れる瞬間を垣間見た。気がした。したくなかった。そんなこと、受け入れたくなかった。


 あの衝撃の音楽番組からしばらくすると、ゆめみちゃんから電話がかかって来た。1年生の頃以来初めての電話だった。文音ちゃんのことだったら大変だ。いや、超高確率でそうだ。恐る恐る応答ボタンをタップする。

 

「も、もしもし……?」

「あ、出てくれた、よかった……。もしもし!?今、大変なんです!」

 

 ほら言わんこっちゃない!絶対そうだ!文音ちゃんのことだろ!?

 

「文音ちゃんが練習に来てないんです、何日も!電話には出てくれるんだけど、話しかけても返事がなくて……。澪さんなら話を聞いてくれるかも、行ってあげてもらえませんか!?」

「う、うん……!」

 

 勢いでOKしてしまった。でも、私に何ができるというのだろう。

 

「ありがとうございます、えーっと、住所は……」

 

 軽率に文音ちゃんの住所を話し始めるゆめみちゃんに冷や汗が出たが、文音ちゃんの家は意外と近かったので私は自転車に飛び乗った。


 文音ちゃん、文音ちゃんっ……!夢中でこぎ続けて、たどり着いた場所にはそれなりのサイズ感の一軒家が建っていた。いきなり来た私に家族はびっくりしないのか不安だったけれど文音ちゃんが最優先だった。インターホンをそっと押すと、通じたような音がしたが返事は返ってこない。その代わり、ものすごい足音が聞こえて来た。ばんっ!とドアが開けられ、文音ちゃんが私に飛びついた。

 

「ううっ、ぐすっ、ぁあっ……」

 

 声を上げて泣くことを最初から知らないような声だった。

 

「つらかったね、本当に……。頑張ったね……」

 

 オタクとかアイドルとかそんな関係は吹っ飛んで、ただの1人の友達として抱きとめてあげるしかなかった。文音ちゃんは、無言で私を自分の部屋に連れて行った。


「す、すみません急に、お邪魔します……」

 

 家族と会釈を交わしながら、暗い階段を上っていく。

 扉を開けると、文音ちゃんの部屋には小さなテーブルや勉強机、ベッドなど普通の女の子と変わらない家具が並んでいた。ただ、本棚には小説がぎっしり詰まっていて異質な空気を放っている。


「……。どうして、私を部屋に上げたの……?」

「こんなことは、他の人には話せない。けれど、誰かに聞いてもらいたかった……。私がなぜ、あのようになったのか、誰かに話したかった」

 

 例のあれの答え合わせを、こんな唐突にさせられるとは思わなかった。

 

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