【11-4】刹那
季節はさらに流れ、夏に公開した『新月宵祭』は一躍有名となった。何度も人前で和太鼓の演奏を披露することになったが、私にはあの頃のような迷いはもうない。
むしろ、回数を重ねるたび和太鼓部にいたときよりもずっと良い演奏ができるようになっていた。澪さんも2曲目の動画が人気になり地域の催しものに単身で飛び込んでいくようになっていた。
忙しくなければ、澪さんの頑張る姿を観客として見てみたかった。
卒業ライブが迫る中、私は書いていた小説を一度中断し新しい歌詞を1から書き始めた。
――刹那なる世界で 君に捧げるよ 永久のきらめきを
歌いだしを書いてみたものの、その後はなかなか出てこなかった。『綺羅星』も私の物語から生まれたが花乃さんに手直ししてもらったものにすぎない。
卒業ライブには澪さんも出ると言ってくれた。それならば、最後は2人で歌いたい。
卒業ライブの時期については、そのせいで行える時期は後ろにずれ込んで行ったがお互いの都合を考え慎重に考えていた。ある日、電話越しに話す中で澪さんがこんな話を切り出した。
「文音ちゃん。昨日のイベントでMCめっちゃどもって詰んじゃった。澪さんの1番のアピールポイントを教えてって言われたけど……ちゃんとした場面で言えることが思いつかなくて」
「……っ。忘れてしまったのですか。私の、えっと、告白太鼓……」
何もやましいことは言っていないはずなのに、頬が熱くなる。
「あの時、あなたの好きな所は全て口にしました。あなたの自由なくせに無責任で、何より素直なところが……。私はあなたが思っている以上に、あなたのことを覚えていますよ」
「それ、「素直」以外は欠点じゃない……?」
白紙のノートに向かいながら、そんなやりとりを思い出していた。やはり、最後の1回しか歌わない歌だ。題材は普遍的すぎるが、2人で作り上げたこの2年間についてにしよう。
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そして、ゆめみさんたち10人にとっては今年が高校生活最後の1年になる。
双葉総合高校にあった全日制課程と通信制課程の生徒たちの深い溝は、10人によって改善されつつある。その集大成としてゆめみさんたちは10人の卒業ライブをプロ顔負けのホールで行うと決めた。
進路のこともあり、この夏をもってゆめみさんたちはドリームテイルを離れる。日に日に上がる気温の中、彼女たちは勢いを全く緩めなかった。
「ゆめみさん、卒業ライブに向けて私と澪さんにできることはありますか」
「ううん。大丈夫。2人には、自分たちの卒業と向き合ってほしい。これは私たちの話だし、文音ちゃんには私たちを書く小説を作るって目的があるでしょ?」
傍から見ればやりすぎな程の放任主義だが、ゆめみさんの頼もしい表情は全てを可能にしてしまいそうなものがあった。
結局澪さんが「何もしないのは嫌だ」と言って聞かないので、2人で初代ドリームテイル卒業ライブの設営を手伝っていた。
舞台上では演目の確認も進められ、MCの時間の代わりにゆめみさんは私たちに語りかけた。
「あのね、文音ちゃん。ドリームテイルはずっとバラバラだったし、1つになろうだなんて考えたことすらなかった。ただ、何かしらを変えたいって『夢』があった。それは自分でも、学校でもなんでも」
私はゆめみさんたち10人が1年生の頃、どれだけの逆境に立たされていたのかまるで想像がつかなかった。これまで話こそ聞いてきたが、話せないような苦しみも多く背負ってきたのだろう。
「バラバラだけど、根っこが同じだから走ってこられたんだ」
通信制課程と全日制課程、2つの校舎の間には憩いの場として中庭があるもののいつも光が届かない。そんな所で初代ドリームテイルは最初のライブをしたらしい。両者の溝は確かに埋まりつつあった。
「文音ちゃんも抜けるなら、ドリームテイルは誰もいなくなってこれでおしまい。だけど、それでいい!終わりがあるからそこに向かって頑張れるし、今まで積み重ねたものを爆発させられる」
10人は練習着のままだったが、不思議と衣装を纏った姿が重なって見えた。
私は彼女たちの迫力に立ち尽くしてしまっただけなのだが、ゆめみさんには自分たちの卒業を私が悲しんでいるように取られたようだ。
「大丈夫!3月まではみんな双葉総合にいるから!困ったら何でも言って。文音ちゃんの卒業ライブも全力でサポートするし!」
「……ありがとう、ございます」
ゆめみさんたちの卒業ライブはこれまでの10人の活躍を労い、称える舞台となった。




