【10-4】祝福
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加入順に公開されていった今年のMVでも、期待値が特に高いのはと聞かれたら満場一致で澪と文音の2期生コンビだった。
日頃からもはやカップルというほど和気藹々としている2人が本気を出した時、どんな顔を見せるのか?ということはファンの議論を白熱させた。
文音推しのファンたちは、彼女が『綺羅星』の次はどんな世界観を見出すのか知的な考察を繰り広げていた。
文音のMVが公開された。曲名は『新月宵祭』。前の『綺羅星』とは真反対の、ライブで流れたらペンラを振り回さずにいられない曲だ!ただ、それを遥かに上回る衝撃がファンを襲った。
文音が、華麗に和太鼓を叩いている。その様子は楽しげで、時々思い出したかのようにはにかむ姿に心を鷲掴みにされた。
澪へのラブコールとしか思えない歌詞も取り入れられ確実に自分たちをダメにしてくる。黒と赤と金色で構成された和風の衣装が、とても似合っていた。
ただ、ファンの誰もが全力で首をひねった。
文音はなぜこんな強力すぎる武器を丸1年隠し続けたのか。その理由は彼女のSNSで明かされた。
『私が和太鼓を叩ける、ということを隠してきたことには理由があります』
『昔、和太鼓を演奏する自分の姿を第三者に揶揄われ、私は深く傷ついてしまいました。それ以来、太鼓の音が私の苦い記憶と結びついてしまったのです』
『今回そんな和太鼓ともう1度向き合えたのは、ほかの誰でもない澪さんのおかげです』
澪と文音の間に何が起きたのか、考えるだけ野暮というものだ。ファンの想像を超えるラブラブな出来事があったに違いない。
2人のただならぬ関係を信じる者・そこまでではないだろうと感じる者、色々なファンがいたが否定する者はいなかった。
一方で澪推しのファンは、ボンキュッボンな体型を生かしてセクシーな衣装が来たらどうしよう!とあらぬ妄想を繰り広げた。
澪推しのファンは彼女の奔放な姿にあてられてハイテンションな人間が多かった。ただ文音推しのファンと共通していた気持ちは、どんなMVが飛び出してきても受け止める覚悟だった。
そんな煩悩まみれな想像は、MV最初の1秒で吹き飛んだ。大方が澪に抱く健全で明るいイメージが保たれたからだ。
和風な文音とは逆の、ネオンシアンの縁取りが今にも光りだしそうな未来風の衣装だ。腰にはプラグとコードのような、しっぽのようなものがついていて可愛らしい。
これを振って自分たちを煽ってくれないかなぁと想像したファンは多かった。
軽快なダンスやノリが良い曲とは裏腹に、歌詞は重かった。こんなに澪と文音の関係に合いそうな曲がこの世に元から存在していたとは、前回といいこれといい澪の選曲センスには目を見張るものがある。
『私のMVはあとでいいから、文音ちゃんの本気を見てください!あの子、めちゃくちゃ頑張りました!』
澪のあまりにも謙虚で、ある意味ではあまりにも我儘な投稿は瞬く間に拡散されて人々のタイムラインを駆け回った。




