【09-4】一歩
年度が替わり、私たちは2年生になった。私がアイドルを始めて1年が経とうとしていたが、肝心の小説はほとんど書けていない。
学業とアイドルと小説執筆、全てを同時にこなせるほど器用ではなかった。
実にアイドルとしての練習が学校からの課題をこなす時間を大幅に削っており成績は下がった。そんな状況で小説執筆をできるはずがない。時間を確保するためにはアイドル活動を諦めるしかない。
「ええっ!?今年いっぱいで辞めたい!?」
新年度最初のオンライン会議は、ゆめみさんと私の2人から始まった。大切な話なので個別に話す時間を取ってもらったのだ。彼女は目を見開いて画面外まで身を乗り出した。
最初に伝えるのは澪さんでもよかったが、なんの予告もなく伝えたらあの人の心臓が止まってしまいそうだ。
「ええ、こんなに手を尽くしていただいた中恐縮なのですが、本来の目標である小説執筆に専念したいのです。2年生で終わりにしたいと考えています」
「うん、そうだね……。分かった。皆にはどうやって伝える?もう少し先にしておく?」
「いえ、今日お話しします」
「……という理由から、私はアイドル活動を早期に切り上げさせていただくことになりました」
その瞬間、私以外の11人は動きを止めた。
皆すぐに納得してくれたが、1人だけ「案の定」というべきか。澪さんだけは画面の向こうで項垂れていた。
それぞれの窓からカップを置く音や、姿勢を正す音が聞こえてくる。
「ひとまず、今日の議題は12人のソロ曲をどうするかだね」
夏菜恵さんの一言で、会議が始まった。私は今日、何度発言することになるのだろう……。
「そうだ!文音さんには、その……。ぜひ、あれを!」
まほろさんがここぞとばかりにあの案を持ってきた。
あの日はほとんどの人が既に帰っていたため、この中で和太鼓ができる私を知っているのは澪さん・まほろさん・ゆめみさんの3人だけだった。あとの人は何も知らない。
「ええ、『あれ』ですね……」
肝心なところが言えず、言葉を濁してしまった。すると、私の携帯が震えだした。こんな時に着信か。
手元にあったので切ろうとしたが、その相手はほかでもない。澪さんだった。意図が全く分からない。私が携帯を見たことを確認したかのように電話が切れて、次はメッセージアプリの通知が鳴った。
『大丈夫!今の文音ちゃんの太鼓は、とびきり可愛い告白太鼓だから!』
澪さん、いつもあなたは察しが良すぎます。その間、皆は『あれ』の正体について大いに盛り上がっていた。
「やりましょう。もう『あれ』だなどと誤魔化さなくていいですよ」
まほろさんは私が和太鼓の演奏という特技を持っていることを、それは楽しそうに話していた。あの時居合わせたゆめみさんもそれに便乗する。
これでよかったのだ。もう隠す必要はどこにもない。どうせ、そう遠くないうちに世へ放つことになるのだから。
この会議で、私の曲は和太鼓を使った曲、澪さんは昨年と変わらず既存の曲を歌うということに収まった。
今年の澪さんは自ら曲を選んだ。「文音ちゃんを想って選んだ曲だ」と豪語された。
私の曲は『新月宵祭』という曲だ。古めかしい歌詞と激しい曲調が耳に残る。これは……。私にできるものなのか……?ましてや、太鼓を叩きながら歌うだなんて想像もつかない。
梅雨が明けたころ、私たちの曲は無事に完成した。特に私は太鼓の演奏技術を大幅に上げる必要が出てくるため作詞・作曲は花乃さんと美優さんによって最優先で進められた。




