【05-4】新曲
私の『綺羅星』の発表からさらに遅れる形となったが、澪さんも1人で歌う曲を出すことになった。
とはいっても、新しく作っているほどの余裕もなかったため、既存の曲を澪さんが歌うという方式をとるそうだ。
ことある毎にドリームテイルを収益化しようとする至田紗矢さんは『カバーじゃお金にならない』とぶつぶつ文句を言っていた。紗矢さんの方がよっぽど守銭奴じゃないか、という争いもやはり起きた後らしい。
本来は澪さんが選ぶことになっていたが、私に選んでほしいと直々にお願いされたので私は頭を悩ませることとなった。さらに紗矢さんの圧力は強く、発表の頻度を落とさないため1週間以内に決めてくれと念を押された。
最初の候補を出すのに丸2日、最終的な決定には3日かかった。その間私は学校からの課題もそこそこに、音楽配信アプリに入り浸っていた。
曲を聴くだけでなく歌詞を書き取ってみたり、自分でも口ずさんでみたりと様々なやり方を試して、最初から10曲にも満たなかった候補はやっと4曲まで絞られた。
1曲目は、現役のアイドルが歌う有名な曲で、流行りものに疎い私でも、少し耳にしたことがある。
耳に残る可愛らしいセリフで、何万人というファンを虜にしてきたはずだ。この曲なら澪さんも知っているだろう。
2曲目は、私が最近書いている小説がこの曲の世界観を少し借りている縁のある、激しいロックの曲だ。2人きりの少女によるバンドが、小さな会場で常識を超えた演奏を繰り広げる。
もし澪さんがこの曲を歌ってくれたら、まさにあの小説の再現になる。……しかし、それだと私の心の方が持たない。
3曲目は、私の救いとなったマンガ『クリミナル・クリスタル』がアニメになったときの曲だ。いわゆるヴィジュアル系という雰囲気の衣装で、艶やかな黒髪をなびかせながら歌ってくれたら……。
きっと私は舞台裏で、澪さん色のペンライトを点けて見とれてしまうだろう。
4曲目は、ありふれた少し前の流行曲だった。歌詞をまじまじと見つめていると、澪さんの笑顔が頭をよぎってしまった。澪さんの声で聴きたい言葉があまりにも多すぎた。
ドリームテイルで様々な振り付けを覚えるうちに、私も頭の中で組み立てるくらいはできるようになった。澪さんがこの曲を歌って踊る姿がはっきり浮かんでくる。これ以外、考えられない。
その週末、4曲を提示すると澪さんは大きなため息をつき、お手上げだと言わんばかりにごろんと大の字で練習室の床へ転がった。
「どうしよう、4つ目以外歌える気がしない……。だって、地上アイドルの歌なんて尊さがど直球すぎて私向きじゃないし、2曲目はまず知らないし、3曲目も今から覚えるのは……。色々考えてくれたのにごめん」
澪さんが、あの歌を歌ってくれる……!澪さん、ありがとうございます……。
そう言いたかったけれど、こんな気持ちを知られては澪さんを驚かせてしまいそうだったため胸にしまい込んだ。
澪さんは、私が想像していたよりもずっと本気でこの活動と向き合っていた。
「自分で選んだ手前、アイドルっぽくなかったよな……。どうすれば可愛くなるんだろう。いいや、文音ちゃんがただならぬ理由で選んでくれた曲だ!頑張ろう!」
そう言いながら、澪さんは練習室の鏡に向かって、きらきらとした笑顔と歌声をぶつけ続けていた。この時点で季節は8月。汗だくでも笑顔を絶やさない澪さんの宿題は大丈夫だったのだろうか。
澪さんも歌の動画を撮影することになった。澪さんの衣装は、ドリームテイルが最初に歌った曲の衣装に沿ったもので、左右非対称のスカートが特徴的だった。
あの人が自分のメンバーカラーに選んだ、蛍光色の水色が目に眩しい。まほろさんこだわりの艶消しの生地がそれぞれのメンバーカラーを鮮やかに強調している。
私の色である黒の衣装だけは未だに作られていない。その理由は私がまだドリームテイルに溶け込める気がせず、違う衣装にしてもらったからだ。それが『綺羅星』の衣装だ。
サラさんの浪費癖が止まらず、ブローチの一部には本物の小さな宝石が散らされている。
完成した曲の動画の内容も澪さんらしく、自分の制服やアイドルの衣装を使い分けて歌い踊っていた。軽やかな踊りと、見ている方までつられてしまいそうな笑顔が本当に可愛らしかった。
有名な歌詞が澪さんと重なって聞こえてしまうのは、私だけで十分だ。「意外な選曲だ」という声が動画には多く寄せられていた。
きっとそれは時代遅れ、あるいはアイドルらしくない選曲を画面の向こうであざ笑っていたいのだろう。上手く行くかは私たちにはまだ分からないままだった。




