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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -創世- (※『守護』~『白日』読了後推奨)
40/53

【01-4】創世

 元々、私は目立つことが大の苦手だった。


 幼いころから、写真を撮られそうになると顔を背け、周りの子とお話することすら最小限に留めて本ばかり読んでいた。

 今となっては思い出せないが、あの頃もまた様々な物語を頭に思い浮かべていたのだろう。

 当然、お遊戯会の歌や踊りは恥ずかしくて仕方なかった。


 最初は澪さんもただの同級生だった。出席番号順に座れば、澪さんは私の真後ろになる。それが変わったのは、4年生の頃だっただろうか。

 担任の先生は席替えが好きなようで、新年度になってすぐ席替えがあった。その時に澪さんが私の隣になったのだ。澪さんの熱い視線を、私は少し脅威に感じていた。

 

 その頃に受けた音楽の授業で、私の世界は根本から作り変えられてしまった。音楽の授業で皆と演奏した和太鼓が、とても楽しかった。

 教室の窓すらガタガタと震わせる大きな音に、身を委ねることが幸せだった。この日、澪さんは学校を休んでいた。

 私は太鼓を叩いたときの全身に響く振動や、普段の自分ではできない力任せな動きをする快感が忘れられず翌年から和太鼓部に入部した。

 

 有難いことに、そこで私は「七星さん」と気にかけてもらえる存在だった。


「ねえ七星さん、今度の演奏、笛吹いてみない?七星さんなら絶対かっこいいよ!」


 そう手渡された篠笛を、試しに少しだけ吹いてみる。ただそれだけなのに。皆に見られている、聞かれていると感じた途端視線は泳ぎ、手が震えた。綺麗な音こそ出せたものの、断ってしまった。

 私だけがこの楽器を手に取ったら、たとえたくさんの太鼓に混ざる微かな笛の音でも目立ってしまうから。


 またある時は、部活動の練習の中で皆がなかなか掛け声を出せないので先生に注意を受けてしまった。

 私も目立ってしまうことが怖くてうまく声を出せずにいたため、先生の言葉が耳に痛かった。

 その時の先生の言葉は、強く心に残っている。


「皆でせーので出したら、どれが誰の声かなんてわからないから!昨日あったムカつくことでも、つらいことでも何でもいいからぶつけていこう!」


 先生。私がつらい気持ちを太鼓にぶつけたら、余計につらいことが次々起こってしまいました。私は……。どうすればよかったのでしょうか。


 児童集会での演奏は、最も不安な瞬間だった。人前で太鼓を叩く初めての機会だった。今までかいたことがない量の手汗を、何度もハンカチで拭った。

 観客は私に近しい存在ばかりで、もし見つかってしまったら同級生に何と言われるか。恐ろしくてたまらなかった。


 いつも教室で本を読んでいるメガネの少女が、舞台上では太鼓に情熱を燃やす。そんなことは絵に描いたような話題の種だ。どうか声をかけられませんように。

 そっと教室に戻った時、がやがやとお喋りをする同級生たちに交じって席に戻ろうとすると、その中の1人と目が合った。それが、澪さんだった。

 水色のきらきらとした瞳で、私のすべてを覗きたがっている。これ以降もずっと変わらない目つきだった。あの人は、知らないふりをしてくれた。それは何にも代えがたい幸運だった。


 舞台で太鼓を叩いていたメガネの少女と、今ここに戻って来た少女が同一人物だと気付いたのが、あなた1人で本当に良かった。澪さんに悪意はないと分かったのは、この時だった。


 澪さんが私を恋愛的な意味で気にかけていたことは、薄々感づいていた。同級生が観に来ることは無いに等しい週末の演奏に、毎回訪れていたのだから。

 あの人の視線が、私だけを捉えていたことは恥ずかしいのであまり信じたくなかった。


 こうしているうちに本の世界から私は離れてしまったが、離れていたことでまたそこへ没入したい気持ちが高まった。だから、和太鼓部は6年生の初めごろにやめてしまった。

 私は小説執筆と和太鼓部の活動を両方できるほど器用ではないはずだ。

 

 私が覚えている中で、最初に書いた物語は太鼓を叩く人ならざる少女の物語だった。

 普段は人里離れた場所に住んでいるその少女は、猫耳を生やしお面をつけて、お祭りの夜だけは太鼓を提げて打ち鳴らしながら里に降りてくる。

 そんな心温まる……ような、そうでもないような人ならざるものと人間のお話を書いていた。今思えば、ただの設定資料と構成止まりの拙いものだった。


 幼い頃の澪さんは、思い返せば本当に「澪さん」としか言いようのない、めちゃくちゃな行動が絶えない人だった。

 授業中は平気で居眠りをするくせに、テストの点数は中の上を維持していた。

 クラスの音楽発表会で1人悪目立ちすることへの恥ずかしさから複数人で演奏するリコーダーを選んだ時も、澪さんは1人タンバリンを手にきらきらとした音色を響かせていた。


 私は、そんな澪さんが羨ましかった。きっと、生まれた直後は誰もがあの人のように目立つことを恐れずに楽しく生きられる素質があったに違いない。

 一体私はどこでそれを落としてしまったのか……。


 仮に中学生になる前から、あの人と繋がるすべを持っていれば、この後の災難は回避できたのだろうか。

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