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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -白日-
33/53

【07-3】破壊

 来る、9月7日。私の不安がそのまま形になったかのように、積乱雲がこの街へ忍び寄って来た。でも、傘なんか持って行ったら何だか失礼になる気がして持ってこなかった。昼下がりなのに、不自然に薄暗かった。

 私が公園に着いたのが、14時50分。文音ちゃんはもっと前から、ブランコに座り私を待っていた。いつもと変わらない、ひらひらした黒いワンピース姿だった。強い風に煽られて左右に靡いている。天気のせいか周りは誰もおらず、静まり返っている。


「遅いです。裏切り者の癖に。どうせ私の暗号を見て、口角を上げて解きながらここと日付を割り出したくせに」

「そんな、裏切ってなん……て」


 いいや、とんだ裏切り者だ。

 文音ちゃんより先に、あの日の私を責める自分が、私の言葉を頭ごなしに弱らせていく。


「件の動画を、私も見ました。見せられました。ドリームテイルの皆さんも、1度は私にそういった意味で興味を持ちました。しかし、彼らは分かってくれた」


 文音ちゃんはそっとブランコから降り、私の前に立つ。ずっと、文音ちゃんの声は抑揚のない声色だった。


「私が望んだ、小道具を使ったパフォーマンスは、私を元から知る人の記憶を呼び起こさせないためだった。なのに。あなたのように思い出した人が現れた……」

「待って、私はあの動画に関わってない!」

「いいえ。絶対に関わっている。本当に見ましたか?最後の数秒まで」

「いや、そこまでは……」

「いいから聞きなさい」


 ずっと虚ろな目をしている文音ちゃんにイヤホンを付けられ、あの動画を再生された。シークバーが、最後の10秒ほどまで飛ばされる。観客の拍手に混ざって、女の子の声が聞こえた。明らかに近くにいる。


「もっと、もっと好きになっちゃう……!」


「は……?」


 私の声だった。問題の動画が撮られたそばに、私がいた。


 まるで演出かのように、雷が轟く。短く悲鳴を上げて、耳を塞いでしまう。


「目を背けないで!」


「でも、私……。こんな頃は動画撮れるカメラなんて持ってないしネットすら触ってないよ!ここ見て。投稿日は私たちが子どもだったころで……!だから今回の騒動の発端は私じゃない!信じてよ!」

「あなたが広めたくせに!あなた以外、私の元の姿を覚えているとは考えられない」

「そんなことしてないって!そんなに疑うなら私のアカウント見てよ……」


 文音ちゃんは、私が差し出した携帯をスクロールし始めた。どれだけ遡っても、私はあの動画に一切触れていない。


「……それでも発端があなたであることに変わりはありません」

「どうしてそうなるの!?」


 たった今疑いが晴れたと思ったのに。


「6月、ゆめみさんと会ったことは覚えていますか」

「うん、それは分かる……」

「その時の会話を、よく思い出してください」


 あの時、文音ちゃんの過去についてはゆめみちゃんに耳打ちで話した。まさか他人の耳打ちを聞き取れる超人がいたとでもいうのか。


「ドリームテイルの仲間に、私の過去が露呈した当時の様子を細かく聞きました。一体どこから漏れてしまったのか、どうしても確かめたかった」

「もし、もし今日私と話した結果、原因が私って分かったらどうするの……?」

「……考えていません。あなたでなければどれほどいいことか」


 雨は強まっていく。光を失った文音ちゃんの赤い瞳に、すべてを見透かされているような気がした。でも、これ以上思い当たることがない。


「ゆめみさんに耳打ちで、私が元和太鼓部であることを告白した。それは確かですよね」

「うん」


 ということは、文音ちゃんが疑っているのはそれより後。後……。確か、ゆめみちゃんに「大事な話だから慎重に扱え」みたいなことを言った気がする……。


 言った……?


 そうだ、耳打ちしたのは一言だけだった。そして、その前後は店員さんから注意されるほどに熱く話し込んでいた。


「皮肉なものです。あの時2人の近くに座っていた人がたまたま私を気にしていたファンの方だったそうで。近年和太鼓部がある小学校は、それ以外に比べればずっと少ないでしょう。私が高校1年生と分かっているなら簡単に年も導き出せる」


 記憶がみるみるうちに蘇ってくる。確かに、私が耳打ちしたのは「文音ちゃんが元和太鼓部」という肝心な部分のみ。しかしその前では2人が「文音」という言葉を連呼し、耳打ちを挟んで会話の後半では「和太鼓部」という言葉を確かに口にした。


「さあ、言い逃れてください。本当にできるのなら」


 間違いない。私がすべての元凶だったんだ……。


 私が、文音ちゃんの世界をめちゃくちゃにした。もう文音ちゃんに合わせる顔がない。

 だけど、私はわざと周りに聞こえるよう話したんじゃない。あれは事故だ。しかも、ほぼありえないレベルの偶然が積み重なった結果にすぎない。頭がどんどん真っ白になっていく。私は必死になって言葉を紡いだ。


「わざとじゃなかったんだよ……。私の、不注意で。本当に、ごめ」


 ぱちん!


 私の頬に、鋭い痛みが走った。


 嘘でしょ。


 文音ちゃんに、ひっぱたかれた。


「ふざけるな……っ。私が、どれだけあの日あの場所でバカを見たか、あの後どうなったのか知らないくせに!アイドルの、きらびやかな面しか見ないあなたに、何が分かるというのですか!」


 そんなこと、ないのに…………。

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