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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -白日-
31/53

【05-3】嘲弄

 東京の街のひとつ。秋葉原と双璧をなすオタクの街、池袋。ここには、アイドルたちの登竜門……と呼んでもいい場所がある。私も、この特徴的な背景は幾度となく見てきた。実際に目にするのは今日が初めてだ。聖地すぎて、近寄りがたかった。いくつかのアイドルユニットと合同とはいえそんな所を勝ち取るなんて、ドリームテイルは何者なんだ……。


 初めて訪れた池袋は、全ての建物が想像の倍以上に大きくて、アニメの広告がそこら中に掲げられていた。今日は雲ひとつない晴天だった。


 ただ、私の心はどこかどんよりとしていた。フリーライブはご新規を取り入れる大チャンスなのはある。それ以上に、フリーライブは騒ぎたいだけの輩が集まりがちなものだから、私は「フリーライブ」というものがいつも少し辛かった。


 必要以上のMIXは入れられるわ、禁止だって言ってるのに高輝度ペンラの束を振り回す奴はいるわで地獄の様相になってしまった……。そんな話をネットのドルオタ仲間からよく聞いていた。


 文音ちゃんの目を、そんな薄汚い奴らで汚したくない。だけど、いちオタクの私では手が出せない。


 頼む。何も起きないでくれ。私は黒……いやグレーのペンラを固く握りしめた。前の方に入れてステージがよく見えたけれど、今日は何だかとてつもなく嫌な予感がして全然嬉しくなかった。背後から聞こえてくるざわめきのひとつひとつが聞き取れそうなくらい、神経が張りつめている。

 

 ドリームテイルはオープニングアクトとして登場したが、異変は早速起きていた。サビへ入るたびに、後ろの方で高輝度ペンラが踊っている。ここの背景は鏡のようになっているから、振り返らずともすぐに分かる。目の前のアイドルよりも、不規則な光を放っている後ろに目が行ってしまう。

 

 ゆめみちゃんの明るい声とともに、MCが始まった。いやもう今日はMCなしでいい!何かが起きる前に済ませてくれ……。私はただ祈るしかなかった。

 

「みなさーん!こんにちは――!私たち、ドリームテイルです!」


 端から順番に、自己紹介とコーレスをしていく。推しの番が来ることに、こんなに恐れをなす日はもう来ないでくれ。

 そして、満を持して文音ちゃんの番が回って来た。


「は、はいっ……!こんにちは……。七星文音です……」


 普通なら、歓声が返ってくるところだった。


「文音――!太鼓やってたって本当――!?」


 今日は違った。完全に終わった。


 どこからか飛んできた第一声に、オタクたちは一斉に文音ちゃんの心の深いところ、最も脆い所に飛び込んだ。


「え、あ、それはっ……」


 他のメンバーも、突如浴びせられた好奇の声に顔を見合わせている。


「文音ちゃ――ん!本当の本当は何が好きー!?」「太鼓やってたんでしょ!?」「なんで黙ってたのー?」


 あちこちから上がる、悪気があるのか分からない声。でも、あの文音ちゃんの戸惑う様子を見てやめないなんて、100%悪だ。

 文音ちゃんは、突然の、見ず知らずの人からの、1番触れられたくない部分の暴露に震えていた。


「もう、やめて……」


 マイクに乗っていたけれど、会場中の大騒ぎにかき消されそうな声だった。もう、誰にも止められない。


「え、やば、ビビってるのも超かわいい、推せる……」

 

 すぐ後ろから聞こえた言葉に、最古参オタクの懐も我慢の限界だ。


「ちょっと!文音ちゃん嫌がってるのわかんないんですか!?好きなんでしょ文音ちゃんのこと!気ぃ使ってあげなよ!現在進行形で傷ついてるんだから!」


 すぐ後ろのオタクにつかみかかる勢いで私は怒鳴ってしまった。自分でも何を言っているのか分からない。だけど何か言い返さなければ、文音ちゃん最古参オタクの名が廃ると思った。だから、叫んだ。これ以上文音ちゃんを、傷つけないで。


 結局、文音ちゃんはその場で調子を崩してしまい、せっかく考えていたであろうコーレスも言えずじまい。そのまま、バックステージに引っ込んでしまった。じゃあ私もここにいる必要はない。帰ろう。


 ここが本当に「アイドルの登竜門」だというのなら、それはあまりに酷な異名だ。


 帰りの新幹線まで、あと5時間もある。もう、1秒でも早く帰りたかった。

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