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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -道連-
26/53

【13-2】未来

 時は流れ、私は高校の卒業式を終えた。そんなことは別にどうでもよかった。送辞だの答辞だの、合唱だのでなんでみんなが大泣きしているのか、私にはさっぱりわからなかった。

 文音ちゃんとはこの後、卒業旅行と題して新幹線に飛び乗り静岡まで爆速移動する予定で、そっちの方がずーっと大切だ。


 わざわざ東京や大阪でなく静岡なのは、文音ちゃんの本来の趣味が関係していた。その昔とても有名な文豪が泊まったらしい旅館の予約が取れたのに、一緒に行くはずだった小説仲間が風邪を引き行けなくなったそうだ。

 だから私に権利が移ったのだという。そこで、『夢物語の片隅で』の最終回を撮ろうという話になった。

 

 最終回、という事実に私はさほどショックを受けなかった。スクールアイドルは長くても3年間しか生きられない、とても儚い存在なのは確かだ。でも、文音ちゃんとは1年の秋から今日まで本当に濃い時間を過ごしてきた。

 もしこれっきりになったとしても寂しくなかった。


「澪さん!」

「お、文音ちゃーん!」


 今日の文音ちゃんは黒いロングのワンピ姿だった。その上にカーディガンを羽織っている。

 スカートがひらひらとよく舞う私服のひとつで、1度も言ったことはないけれど、私が大好きな恰好だった。あの子のわずかな動きにも、軽めの生地がついてくる。

 相変わらず前髪でよく見えないけれど目もとには、濃いめのアイシャドウがついていた。いつもよりずっとあの子のダークな雰囲気を後押ししている。もちろん、マリンきゅんに変身するためのそれだ。

 

「そういえば、文音ちゃんって卒業式はどんな感じだったの?」

「私は……。オンラインでした。通信制ですから」

「へぇー。他に行事とかは?」

「ありません。いや、「全員参加ではない」と言った方が正しいでしょうか。しかし、家からお化粧をしてくるのは、こんなにも緊張するのですね……」

「ふふっ、頑張った頑張った!じゃあ、行こうか!」

 

 新幹線独特の匂いが、心を一気に旅模様へ変えてくれた。きっと私は卒業式のことなんて将来1ミリも思い出せないだろう。


 旅館に着くなり、私たちは動画撮影の準備を始める。心地よい畳の香り、襖やお茶菓子、少し古いテレビ……。そこに現れる、マリンきゅんとサンドさん。よく許可が下りたもんだ……。

 

「はい。コスプレは、この部屋の中だけ、ですね。大丈夫です」

「お食事までには、終わらせていただけると助かります」

「はい。夕方までには終わらせます。この度はご協力いただきありがとうございます」

「いえいえ。よろしければ、うちの魅力もぜひ発信してくださいね」


 文音ちゃんは女将さんと綿密に注意事項を確認している。私はその様子をぼーっと眺めていることしかできなかった。本当にあの子は『クリミナル・クリスタル』がらみになると人を言いくるめるのがうまい。


 こうして、『夢物語の片隅で』37本目にして最終回 『動画を全部振り返ろう』の撮影が始まった。


 -----

 文音が卒業すれば『夢物語の片隅で』は活動を終える。ファンは皆覚悟していたが、いざ言われると寝込みたくなる。

 最後の祭りは年明け前の11月。文音が早いうちにスクールアイドルを卒業して以来止まっていた『夢物語の片隅で』のアカウントが突如目を覚ましたことから始まった。

 

 今日までこの劇的な、もう「男装百合」だけでは片づけられない何かを見届けられたことを、ファンの誰もが仲間たちと肩を組みたい気持ちだった。

 残りの数本が投稿されたのち、これまでの36本すべてを振り返るという動画が今日、公開された。


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 あの静岡旅行から3カ月が経った。今日は文音ちゃんのお誕生日祝いでただカフェに2人で来ている。それだけの、穏やかな集まりだった。

 私はこの前、『夢物語の片隅で』が大好きだったというファンの人が、すべての動画の内容をブログに残しているのを見つけた。

 その人は律義にスクショや切り抜き動画ではなく文字だけでまとめている。ネットの記事としては滅多にない長さだ。

 それを2人で読んで、思い出話に浸っていた。2人で1つの画面をつつくのは、どこかむず痒くて心地よかった。


 文音ちゃんは結局、ハロウィンライブでやった方と本気でやった方、2回の『閃光の向こう側』と『澪の1日』以外の動画は新年度になると同時に全て非公開にしてしまった。撮ったばかりの37本目もだ。


 個人的には、猫耳仮面をつけた文音ちゃん……。いや『朱音』ちゃんの本気の太鼓演奏、残しておいて欲しかったな。やっぱり、あれは秘密の姿だったのかな。


「消さなかっただけ、ありがたいと思ってください。私たちだけは、いつでもこの思い出を見られますから」

「もうっ。文音ちゃんってば、恐ろしい子!あははっ」


 あれから文音ちゃんは大学で勉強しながら、たまに『朱音』ちゃんとして近所のお祭りでちびっこ泣かせの太鼓パフォーマンスを見せつけている。最初は小さな太鼓だったけれど、今はちゃんとしたサイズの太鼓を叩けている。


「そういえば、スクールアイドル経験を生かした小説って無事書けたの?あの頃は動画制作で忙しくて聞けなかったからさ。ねえ、どんな話?」

 

「ああ、それが……。卒業までに書き上げるつもりが、半分も書けていなくて……」


 ……文音ちゃんが当初に語った、最大の目的が達成されていない。


 それなのに、文音ちゃんは少し照れたような笑みを浮かべて、ミルクだけ入れたコーヒーを飲み干した。


 これで、本当にいいはずがない。

 それに気づいてから、せっかく頼んだアイスが喉を通らなくなった。スプーンに乗ったアイスが、どろどろと溶けてテーブルに落ちる。


「澪、さん?」

「い、いや、何でもない!」

  






 ――その結末が、破滅だとしても。

 

 ――君の隣で、未来を見たい。



 創世記と恋物語 -道連- 


 おわり


 

*今回も最後まで2人を見守ってくださり、ありがとうございました。


*澪も文音も、高校の3年間をループしているわけではありません。あくまでも、それぞれを「1つの可能性」として捉えていただければ幸いです。


*次は、秘密の扉が開かれるタイミングが、ほんの少し違っていたらどうなるのか?そんなアンバランスな物語です。

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