【09-2】道連
コスプレライブは終わった。そして、私はドリームテイルの裏方として会場の準備やら衣装担当で大忙しの日々を送ることになった。
ある時は会場設営をする中で身体がバキバキになったり、またある時はみんなのレッスンに付き合って、体調管理をしたり。
このグループの全てを目撃させてもらえることは、つらいけれどありがたかった。
寒さもピークに達しそうな12月。
「あの、澪さん」
私が練習室の片隅で、皆の衣装の靴を磨いていた時のことだった。
「文音ちゃん。どうしたの?」
「私、あれから自宅で何度かトルマリンのコスプレをしてみました。それが、とても楽しくて。あなたとやってみたいことがあるのです」
文音ちゃんの携帯には、1本の動画……。おそらくライブ配信のアーカイブが映っていた。『クリミナル・クリスタル』の主人公、ダイヤのコスプレで雑談配信をしている。
へぇ。尖ったことをする人がいるもんだ……。まって。まさか。
「この動画を見て、私は可能性を感じました。あなたと2人で、トルマリンとアレキサンドの魅力を届けたいのです……!もう1度、あの衣装を着てもらえませんか……?」
マリンきゅんコス文音ちゃんの再来!?それは見たい。思わずうなずいてしまった。また文音ちゃんに押し切られた。あのマンガの事になると、文音ちゃんはとてつもなく積極的だ。
こうして、動画サイトにドリームテイルのサブチャンネル『夢物語の片隅で』が誕生した。
そこに上げられる動画の内容は、ただ2人がいちゃついているだけというコアな需要がありそうなものばかりで、初回はいきなりマリンきゅんのお誕生日会だった。
動画でも、文音ちゃんのなりきり具合は完璧だった。
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12月中旬投稿『マリンの誕生日』
舞台はドリームテイルお決まりの練習室。折り畳み式のテーブルに、小さなチョコレートのホールケーキが置かれている。先に切り分けておいたそれを、マリンは少しずつ食べている。
ファンは「文音は甘いものが苦手らしい」ということを小耳に挟んでいた。そんな彼女が『トルマリンの誕生日会』を実現するために頑張っている。
それだけでファンは胸が締め付けられた。一緒に映るサンドもきっとそう感じていることだろう。
「マリン、誕生日おめでとう」
「ああ」
「おいしい?」
「全然だめだ。そもそも甘いものは受け付けないと言っただろ」
「マリン、厳し~~っ……」
BGMやテロップなしに、淡々と動画は進んでいく。あまり凝った編集はしないでくれというお達しが、文音から編集担当にあったようだ。
「あ、俺からもう1つプレゼントがあるんだ。開けてみて」
サンドがどこからか取り出したのは、プレゼントの包み。マリンが開けると、グレーのクマっぽい小さなぬいぐるみが顔を出した。
「サンド、お前、こんなので俺が喜ぶと……!?」
「まあとりあえずもらってくれ。事情は後で話すから、な?」
マリンは無言でうなずく。そこで、動画はフェードアウトした。
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カメラを止めると、文音ちゃんはさっきまでの反動かのように大人しくなった。
「あの……。これは一体……?」
マリンきゅん姿のまま文音ちゃんに戻られるとまだ頭がバグを起こす。コスプレのクオリティがさらに上がっていて、マリンきゅんのキャラが迷走しているようにしか見えない。
「それ、ドリームテイルのみんなが初期にフリーライブをした時に買ってたおみやげ……と同じやつ。文音ちゃん色もあったからさ。あの時、まだステージ出てなかったじゃんね」
それは、11人目として文音ちゃんの存在が明らかになっただけの頃だった。私は、文音ちゃんはまだ出ないだろうと思いつつ、諦めきれなくて大阪まで遠征してそのライブを観に行った。
こういう所はさすがオンライン中心の学校、という感じだった。メンバーは全国に散らばっているらしい。その大変さを思い知らされた。全員が顔を合わせることは、年に数回の大事な時くらいだ。
「まさか、わざわざ大阪に?」
「ふふん。私、そのイベント行ってたもん。お客さんとして。文音ちゃんまだいないな、寂しいなって思ってこれを買って帰ったってわけ」
「もう、あなたという人は……」
ドリームテイルのサブチャンネルは、投稿頻度が大体10日に1度のみという超スローペースにも関わらず、あのコスプレライブを観た人々を中心にフォロワーを少しずつ伸ばしていった。
2人の命日だという日に、ハロウィンライブのパフォーマンスをやり直す動画を投稿すると再生数はそれまでの動画をあっという間に抜き去った。
マリンきゅんがコートを脱ぎ捨てるあの部分も、本来の難しいダンスもやりきることができた。
それと、サンドさんのお誕生日動画を『クリミナル・クリスタル』の初心者なりに撮ってみたら、文音ちゃんから苦い顔をされた。投稿のタイミングはよかったんだけどな……。
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2月上旬投稿『サンドの誕生日』
「あー、あー。よし」
以前に投稿されたマリンの誕生日は2人で撮られていたが、今回はサンド1人らしい。
サンドはマイクチェックをして、そっとカメラの位置を直すと、画面外からショートケーキを持ってきた。ろうそくを立てて火をつける。
ハッピーバースデートゥーミー。そう口ずさみ、最後まで歌い切ると火を吹き消す。当たり所が悪かったのか、ろうそくはパタッと倒れてしまった。
「あ!あーあ……。え、ケーキ焦げた?いや、大丈夫か。よかった」
どうもこの数か月の内にSNSの「中の人」が敏腕だけど明らかに文音推しになったらしい……。という噂はあった。
まさかその「中の人」がこの人なのか?と、ファンたちは顔を見合わせる日々が続いていた。
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