【05-2】急転
あの『綺羅星』が発表されてすぐ。1日に何度もそれを聴いては文音ちゃんに思いを馳せていた。
……知らない携帯番号から電話がかかって来た。やっぱり条件反射で出ずに切ってしまう。相手は留守電を律義に残していったので興味本位で聞いてみたら、話は大事故必至の蛇行運転を始めた。
「あ……。突然のお電話、すみません、七星文音です……」
待って、待って待って待って!?文音ちゃんからお電話!?なんで!?と、思ったけれど、あの日一方的に「困ったら電話して」と私の連絡先を渡したことをすっかり忘れていた。それを使ってかけてきたんだ。ゆめみちゃんが私にいきなり電話してきたのもきっとそれだろう。
「少し時期が早くなってしまうのですが、10月にハロウィンのイベントと題して、コスプレをして舞台に立つことになりました」
文音ちゃんはそこで大きめに息をつく。
「ただ、問題が起きてしまい……どうしていいのか分からず電話してしまいました。時間のある時で構いません、助言を……お願いします」
とんでもないことになってきた。文音ちゃんがコスプレライブ?見たいに決まってる。あとこれは正式な発表が来るまで絶対黙っていないといけないあれだ。文音ちゃんがハロウィンコスプレか……。
やっぱり魔法使いかな。ステッキをくるくるして魔法かけられたい。トリックオアトリックでいい。お菓子をどれだけ捧げても悪戯されたい。
文音ちゃんの和太鼓スキルを思えば、和風なお化けも似合うかな。ってダメだそれは。自分からあの記憶を掘り起こしてどうする。
話が長くなりそうなので、十分時間を確保してから文音ちゃんに電話をかけた。
「も、もしもし……?澪だよ。急にかかって来た知らない番号だから切っちゃった、ごめんね」
「いえ、それは気にしていません」
「それで、コスプレライブ!めちゃくちゃいいじゃん……!絶対何でも似合うよ!」
「それが、メンバーごとに被らないようにと話し合って決めていたのですが、11人もいるせいか私だけ取り残されてしまい、未定なのです……」
「先客が10人いるとしたら、もう魔法使いなんて埋まってるよね……?」
「はい、真っ先に」
困ったな……。私を頼って来た理由は11個目のコスプレ案欲しさだった。せっかくの和太鼓も、見せたくない理由があるのか、頑なに避けて通るように活動していた。そうなると私の案はとても話せない。
「本当に、何にも思いつかない?多分無理だろうなって思っていても、1ミリくらい着てみたいなって衣装、ない?」
「少しでも着てみたい衣装……ですか」
長い溜息ののち、文音ちゃんはぽつりとつぶやいた。
「私は……。もし許されるのなら、トルマリンとおそろいの衣装を着てみたいです」
叫びだしたい気持ちを堪えた私を褒めてほしい。マリンきゅんは私にもわかる。文音ちゃん、本気なの……?文音ちゃんのマリンきゅんコスなんて100%尊いに決まってる。
きっと、強烈な違和感を発する華奢な姿に耐えられず逃げ出そうとするんだ。それを私が必死でフォローすることになるんだ。
まさか伝説級の妄想シチュエーションが目の前に現れるとは!その役割、私が受け持とう。こんなにありがたい話はない。
「最高!マリンきゅんいいじゃん!絶対かっこいいよ!」
「そうだとしたら、私1人では不安です。あの、無理なお願いですし皆さんから許可してもらえるかもわからないのですが……」
「何?何でも言って!」
文音ちゃんがどんな無茶を言い出すのか少し怖かったけれど、今は文音ちゃんの背中を押すためなら何でもする覚悟だった。
「あなたには、トルマリンのかけがえのない相棒、アレキサンドのコスプレをして欲しくて」
アレキサンドさんか…………。私も文音ちゃんの自己紹介をきっかけに『クリミナル・クリスタル』のアニメを見返したけれど、それでも印象が薄い。出番がものすごく少ないのに、「サンドさん」という愛称をつけられて好きな人がやけに多いとは聞いているけれど……。
「澪、さん?」
「ご、ごめん!私、初心者で……サンドさんって改めてどんな人だっけって思ってさ……」
「澪さん、アレキサンドを……知らないと!?」
「ほんとごめん……」
文音ちゃんの愛を数十分聞かされて、私はそのお願いを受けることにした。大丈夫、さすがに校外の人は巻き込めないとなれば吹っ飛ぶ話だ。きっといい感じにこの話はなくなってくれる。
その時は私が11個目を捻りだそう。そう自分に言い聞かせた。




