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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -道連-
15/53

【02】名前

※別ルートと共通の内容が含まれます。

物語が変化するのは【05-2】からです。既読の方は飛ばしていただいても構いません。

 中学生になると、和太鼓部はなかった。クラスも別になってしまって、もう前髪にメガネのあの子がどこで何をしているのかわからなくなった。時々図書室に行ったけれど、いなかった。賢かったから、違う中学校に行ってしまったのかな。秋が近づき、もう限界になった私は友達にあの子の行方を聞くことにした。

 

「ねえ、小学生の頃にいた前髪が長くて、いつも本を読んでた子……覚えてない?」

「ん?ああ!いたね確かに。なんて言ったっけあの子」

「もしかしてナナセさん?」


 あ。


 そうだ。 私、こんなに前髪の子が好きだったのに最後まで名前を覚えられなかった。な行がいっぱいあったのは覚えてるんだけど……。

 

「ななせ……ふみ……なんて読んでたっけ、あれで。ちょっと変わった読み方だよね。苗字も」

「たしかこんな字じゃなかった?」

 

 そう書いて渡されたメモに、私の目は釘付けになった。


 七星(ななせ) 文音(あやね)


 これで、「ななせ あやね」……。

 あやね、ちゃん。あやねちゃん、文音ちゃん……。



「ど、どうしたの!?泣くほど知りたかったの!?」

 

 そう言われてはっと顔を上げると、涙が私の顔を伝っていく感覚があった。あの子は、そんなに可愛い名前だったんだ……。

 

「あの子は、文音ちゃんは今何をしてるの!?どこのクラス!?」

「わ、私と同じところだけど、最近学校来てないんだよね。にしても、なんでそんなに七星さんのこと知りたかったの?」

「私が……あの子のこと好き……だったから」

「女の子に恋?あつあつだね~」

 

 ちょっとおかしいのは分かってる。でも、気持ちの止めようがなかった。ずっと文音ちゃんの名前すら知らなかった。それなのにこれは、恋と呼んでいいのか。小学生の頃に見たあの子の姿に「文音」という名前を重ねるだけで、また新鮮な気持ちになれた。同時に悔しさで胸がいっぱいになった。


 中学卒業目前まで、私は文音ちゃんと話ができなかった。図書室でそれらしい女の子を見かけても、別人だったらどうしよう……。と怖くて話しかけられなかった。もしかすると何度か本物の文音ちゃんを見ていたのかな。もう、今となってはわからない。

 

 

 それは卒業式が間近に迫った2月末のことだった。読んでも結局よく分からなかった小説を返しに図書室へ立ち寄ったとき、文音ちゃんに声をかけられた。聞き間違える訳がない。大好きなあの声だったから。そこから私たちの関係は、あらぬ方向に動き出した。


「あ、あの」

「えっ……!?あや……ね……ちゃん……!?」

「何故あなたがわたしの名前を……?名乗った記憶は、ないのですが……」

「いやいや!どうして私を呼び止めた……の……ですか……?」

 

 心臓がバクバクして、私の頭はうまく回らない。文音ちゃんは相変わらず前髪が長くて、あまり表情がわからない。

 

「あなたは私を……ずっと見ていましたよね」

 

(あ、まずい……)

 

 そうだ、私のしていたことなんて実質ストーカーだ。高校に入って言えなくなる前に私を叱りに来たんだ。ごめんなさい文音ちゃん。私あなたのことがずっと大好きで……なんて言えたら苦労しない。


「私をずっと見ていたあなたに、1つ聞きたいことがあります」

「え、うん……何?」

「私、このままでは高校生となった途端、アイドルにされてしまいます。本当に引き受けて良いものか、私にはわからないのです……」

「高校生で、アイドル」

 

 もう少し事情を聞いてみる。文音ちゃんはこのままだと、進学先でアイドル……。正確には配信とライブの2つに絞った活動をする。そういったものにされるそうだ。今高1の子に、試験の帰り道でスカウトされたという。え、アイドル!?文音ちゃんが……?


 私は想像してみた。文音ちゃんが可愛い衣装を身につけて、ファンに手を振る姿を。懸命に歌って踊る姿を。とてつもなく可愛い。宇宙がひっくり返るくらいかわいい。でもそれが、みんなに見つかってしまう……。複雑だった。

 

「私に、アイドルはできるでしょうか」

 

 私の答えで、きっと文音ちゃんの人生は変わってしまう。そんな責任、私には負えない。でもここで「無理」と言ったらこの子はどうなってしまうのだろう?ずっと日陰で本を読んだまま暮らしているのかな。太鼓も、もうやってないだろうし……。だからといって「できる」とも断言したくない。こんな大事なことは本人が決めるべきだ。だけど答えないままはもっと嫌だ。

 

「私は、見たいな。文音ちゃんがアイドルしてるところ」

「それは……どちらなのですか。はっきり言ってください」

「私は見たい。文音ちゃんが可愛い衣装で歌ってるところ」

「だから……」

「文音ちゃんがファンサしてるところを1番近くで見たい」

「はいかいいえで、答えてください……」

 

 文音ちゃんは私の袖をつかんだ。どんなに願われても、私が決めることじゃない。

 

 「答えは「どっちでもないけど、見たい」かな。きっと文音ちゃんの人生をひっくり返しそうだから、はっきりは決められない。でも私は、文音ちゃんのアイドル姿が見たい!」

 

 ものすごく遠回しに「できるよ」と言うしかなかった。

 

「ちょっとでもやりたいって思ったら……片足突っ込んでみたらいいんじゃないかな。無責任で、ごめん」

「……あなたは、そのような人なのですね」


 私も駆け出しのドルオタとして、アイドルの酸いも甘いも味わってきたはずだ。だからこそ、今私の脳内では警報がガンガン鳴っている。好きな子に、辛い思いはできるだけしてほしくない。

 私は自分の生徒手帳のページを、1枚破り取った。


「私現役、いや一生ドルオタしてるから、もし行き詰まったら相談して!」


 それが本当に正しいのかは分からないけれど、それに私の名前と連絡先を書いて文音ちゃんに渡した。字を書くのは、昔から下手くそだった。

 

「西木、(みお)さん……?」

「あー、それね……。それで(れい)なんだ。変わってるでしょ」

(れい)、さん……。ありがとうございます。急に、失礼しました」


 文音ちゃんは図書室を静かに出て行った。私はその背中を、見送ることしかできなかった。

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