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創世記と恋物語  作者: みいみ
創世記と恋物語 -守護-
13/47

【13】終幕


 文音ちゃんと私は、無事それぞれの高校を卒業した。今度こそ文音ちゃんと私は音信不通になった。私はまた、大して何かしたいことがあるわけじゃない。ただ、高校を選んだ時とは少しだけ違った。アイドルの裏方として、ステージを作った時間が忘れられなかった。だから、大学ではそういう職の人になるか分からないのに舞台だのメディアだのについての講義ばかり受けている。文音ちゃんは、きっと文学にどっぷり浸かった生活を送っているんに違いない。知る手立てはないけれど、確信に近かった。


 文音ちゃんの思い出が何カ月たっても消えない。気温が上がるごとに、きらきらしたあの卒業ライブの文音ちゃんを思い出してしまう。もしかしたら、文音ちゃんはどこかのお祭りに呼ばれて太鼓を演奏しているんじゃないか。夏休みに入った途端、私は取りつかれたように、行ける限りのお祭りに足を運んだ。日によっては何か所もはしごした。文音ちゃんを助けに行った時と変わらない自転車だ。しばらく乗っていなかったせいで結構さび付いていた。


「はあ、はあ……。ここもダメか……」


 どこに行っても、お祭りの太鼓担当は屈強そうなおっさんか、よくて男子の学生ばかり。まれに綺麗なお姉さんだと、文音ちゃんかと思い見とれては別人で、肩透かしを食らう。もうここで妥協してしまおうかと思ったけれど、やっぱりやりきれない。時間や体力が許す限り、文音ちゃんを探し続けようという決意はより強くなった。


 文音ちゃんが出そうなお祭りをどこまでカバーすればいいのか分からない。次はバスや電車に乗りまくって文音ちゃんを探し続けた。そのせいで最初に限界が来たのは交通費だった。行けたとしてせいぜいあと1回。より可能性が高いものを探さなければ。


 最後の望みをかけたのは、夏の終わりにやるという近所のお祭り。思い返してみれば、文音ちゃんが大きなお祭りに出るタイプとは思えない。やっぱり、出るとしたら小さなお祭りだ。これでだめなら今年は諦めよう。


 いざ会場についても、文音ちゃんがそこにいる気はほとんどしなかった。かき氷をぐさぐさしながら、道行く人をぼーっと眺めていた。浴衣姿の女の子たちに、自分たちを重ねて空しい思いでもして帰ろう。


「やっぱりいないよな――……」


 盆踊りの時間になると、私はそこに混ざることもなく櫓に向けた双眼鏡を覗いた。傍から見たら一種の変態だ。


「……え、まじ……?」


 綺麗なお姉さん……というより幼気な女の子という雰囲気の人が櫓で太鼓を叩いていた。気分が乗って来たのか、がんがんアドリブを効かせて皆を混乱させている。まっすぐ前を見る訳でもなく、俯きがちに演奏している。


 あの頃の文音ちゃんと比べると色々違うけど、こんなことをする人間が文音ちゃん以外にいてたまるか。


 もう私はその人から目が離せなかった。

 盆踊りが終わると、皆が帰っていく中でもお辞儀をして櫓を降りていく。いつからか、文音ちゃんはバチをそろえるだけでなく、それをぎゅっと抱きしめるようにしてお辞儀をするようになっていた。アイドルとして頑張っていた時間の賜物だ。もう間違いない!あの人、絶対に文音ちゃんだ。


 櫓から降りてくると、その人は私のもとに駆け寄って来た。


「澪さん、来ると信じていました」

「嘘!?本当に文音ちゃん!?」

「はい。お久しぶりです」


 久々に顔を合わせた文音ちゃんは、急に大人びていた。髪を伸ばして、メガネも太くて四角いそれから細いフレームに変えている。そんな中で大きなうさぎの前髪クリップがよく目立っていた。


「それ、かわいいね。買ったの?」

「こ、これは……。皆さんから「演奏の邪魔になるといけないから」と付けられてしまっただけです、私の意思では……」

「恥ずかしがることないよ。視界良好じゃん」

「ぅ……。それは、そうですが……」


 赤い瞳がはっきり見えて、破壊力マシマシのビジュアルだ。


「そんなことはもういいんです。あなたがここに来ると信じて、伝えたいことを考えてきました」

「伝えたいこと……?」


 まさか、ここに来て私たちお付き合い開始とか!?期待に胸を踊らせた。




 


「もう、終わりにしましょう」




え……?




「ここまで追いかけてくるとは、私を好きでいることを前提に考えても重すぎます。もう、やめにしましょう」

「そんな……どうして……?」


 私の焦りを無視して、文音ちゃんは続ける。


「確かに、私はあなたの計画で救われました。そのことは心から感謝しています。一生ものの恩人です。だからこそ、これ以上は私たちの物語において蛇足です」

「だから、ここで終わりに……?」

「はい。もう、これからはそれぞれの世界で暮らしましょう。私たちは十分すぎるほど交わることができました」


 気づくと、私の目からは涙がぼろぼろ零れていた。


「今まで、お世話になりました。さようなら」


 お祭りの法被をひらりとはためかせ、文音ちゃんは行ってしまった。





「こんなの、あまりにも……。ずるいよ……」


 私はここまでのうち、何か間違えてしまったのか。それとも、どれだけ私と文音ちゃんが寄り添っても、結局こうなる運命だったのか。別れを突き刺し、全てを自ら終わらせた文音ちゃんは、本当に綺麗だった。



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創世記と恋物語 -守護- 


おわり

 

*皆さん、最後まで2人を見守ってくださり、ありがとうございました。


*次は文音ちゃんがひそかに愛しているあの世界をきっかけに、大きく物語が動き出します。

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