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処刑目前の元王女、元聖騎士、元宰相ーーーーーーーーー牢獄ドタバタ生活

断罪された三人のその後と看守の日々

 地下牢の朝は早い。 だがフェリシアにとっては、「寝坊した王女の朝」だった。

──つまり、目覚めた瞬間から世界が彼女を中心に回っていないと不機嫌になるタイプ。



(ベッド代わりの藁の上で目を覚まし、周囲を見渡す)



フェリシア 「……なにこれ?空気、重くない?流れが悪いのよ。 ルーク、私のために動かない奴ら、全員クビにして。看守も、隣の囚人も、あと空気も。 朝から“王女の気分”を損なうなんて、国家反逆よ」



(ルーク牢の外に向かって叫ぶ)



「おい看守! 王女様がご立腹だぞ! 朝食を持ってこい! クビにされたくなけりゃな!」



(看守、無言で干し肉を投げ入れる)




フェリシア(干し肉を見て絶句しながら)

「……なにこれ? 食べ物? 私、王女よ? 王族の朝は金箔入りのオムレツから始まるの」



(干し肉をつまんで持ち上げる)

「この硬さ、食べ物じゃなくて武器でしょ? 」



(自分の服に目をやる)

「……で、なんで私、まだ、こんな麻袋みたいなの着てるの? ドレスは?レースは?光沢は? 王族の肌に麻布って、拷問よ。 朝食もドレスもないって、使用人として怠慢よ?」



(ルークに詰め寄る)




「ルーク、今すぐ動いて。 ご飯を用意させて。ドレスも。あと香水と鏡と、できればバラの花束。 私不機嫌なの、わかる? このままだと、看守も牢屋も、あなたも、全部クビよ」



看守、鼻で笑いながら一言。


「お前ら、罰受けてる最中だろ。干し肉は、むしろ“ご褒美”だと思え」



「はぁ? 王冠はなくても、私の気品は永遠なの!」



「俺も元・聖騎士団長だぞ? この牢の中じゃ最強だ!」


──その日、ルークは隣の囚人(元・図書館司書)に腕相撲で瞬殺された。



「ねえ、ルーク……指先でページめくってた人に負けるって、どういうこと?」



「たぶん、あの人の握力、辞書並みに分厚いから……」



「ルーク、あなたの拳、聖騎士のくせに“豆腐”レベルなの?」


「………ぐぬぬ……」



看守、鉄格子越しに冷たい目。

「お前ら、うるせぇんだよ。静かにしろ」



「うるさい? 王族に向かって、その口の利き方は何よ!」


「もう王族じゃねぇ。元だろ、“元”。何度言えばわかる」



フェリシア、即座に反論。

「“元”って急にB級感出るからやめて。私、常にAランクだから!っていうか、それメモして壁に貼っといてくれる?」



看守、目を細めて一言。

「貼る価値ねぇよ。“元王女の名言集”なんて、トイレの壁にも使えねぇ」



──牢屋の朝は、今日も騒がしい。


そしてフェリシアのプライドは、今日も無傷。

周囲の神経だけが、着実にすり減っていく。




◇◇◇


 牢屋の中での会話は、だいたい“脱獄”か“朝食”か“自分語り”の三択。

今日は──よりによって“脱獄”の日。



フェリシア(笑顔で)

「ルーク、そろそろここ出ない? 王国が私なしじゃ退屈でしょ?」



ルーク(キメ顔で)

「任せろ!俺の拳で鉄格子をぶち壊す!」



フェリシア(じと目で)

「また拳?ねぇ、たまには脳みそ使ってみない?」


(ルーク、気合いを入れて拳を振りかぶり、鉄格子に全力パンチ)

「ぐあああああっ!! 痛ってぇぇぇぇぇ!!!」



(鉄格子は無傷。ルークは床に転がる)



フェリシア(ため息)

「……ねぇ、あんた一応、“聖騎士”なんでしょ? で、鉄格子ひとつ壊せないってどういうこと? 称号だけで中身スカスカって、いちばん恥ずかしいやつよ?」



ルーク(うめきながら)

「いや……俺の拳は“聖騎士の拳”だから……」



フェリシア「その拳、名乗るだけで強くなるなら、私だって“世界最強姫”って名乗るわ」



ルーク「………ぐぬぬ……」



看守、鉄格子越しに冷たい目で一言。


「お前ら、王族の皮かぶった騒音発生装置。中身は空っぽの自尊心と、体臭でできたくさい香水まとってるだけ」


フェリシア(うっとりした顔で微笑む)

「……“王族”って言った? やっぱり私って、気品が漏れちゃうのよね」




──脱獄計画は、今日も進展ゼロ。



◇◇◇


 そしてルークの“最強伝説”は──もはや伝説ではなく、ただの黒歴史になっていた。



「俺の拳はまだ衰えてない。 腕相撲なら負けない」



そう豪語して始まった“腕相撲チャレンジ”。


結果、10戦9敗1分け。

すべて瞬殺。


最初の敗北は、隣の囚人──元・図書館司書。痩せていて、眼鏡の奥に眠そうな目。


「本より重いものは持ったことがない」

と言いながら、ルークの腕を机に沈めた。

開始3秒。無慈悲。



次は──

①元・薬草売り。手首に包帯を巻いたまま、利き手ではない手でルークを完封。

②元・折り紙講師は、指先だけでルークを沈めた。

③元・盆栽職人は、根を引き抜くような粘りでじわじわ押し切った。

④元・茶道家は、茶筅を握る繊細な力でルークをねじ伏せた。

⑤元・猫カフェ店員は、猫を持ち上げる片手の力で秒殺。

⑥元・公文式の先生は、赤ペンの握力で沈めた。

⑦元・団地の管理人は、鍵を回す手首のひねりで敗る。

⑧元・手芸クラブ会長は、毛糸を引く指の力で完封。

⑨そして唯一の引き分けは──72歳の盆踊り師匠。握力ゼロ、リズムのみで耐え抜いた。




フェリシア(腕を組んで、冷たく言い放つ)

「ねぇルーク……“本より重いもの持ったことない司書”に瞬殺されてたけど、他の人たちもだいたい似たような経歴よね。 本当に“元・聖騎士”だったの?」



ルーク(顔を赤くしながら)

「ち、違う! 俺は本気出してなかっただけだ! ほら、応援がなかったし……女の声援がないと力が出ないんだよ!」



フェリシア(目をぱちくりさせてから、ふっと笑う)

「……は? ここに“世界一かわいい私”がいるんだけど?」



ルーク(真顔でうなずく)

「そうなんだよ……。だから逆に緊張して力が出なかったんだ……!」



(看守、無言でポケットから耳栓を取り出す。ゆっくり装着しながら、鉄格子越しにぼそり)

看守 「……恋とバカは、牢でも育つんだな」




──牢の鉄格子より硬いのは、二人の自意識とメンタルだった。




◇◇◇


 王都地下牢・隔離房。

そこには──元王女フェリシア、元聖騎士団長ルーク、元宰相グランツの三人が収容されていた。

理由は単純。うるさすぎて、他の囚人から苦情が殺到したからだ。


結果、彼らは“隔離”された。



看守(鼻をつまみながら)

「お前ら三人、騒がしすぎて隔離された。ある意味、VIP待遇だ」



フェリシア(目を輝かせて)

「やっぱりね! 私って特別なのよ!」



ルーク(胸を張って)

「VIPか……つまり、俺たちは牢の中でも主役ってことだな!」



グランツ(壁に頭を打ちつけながら)

「……つく相手を間違えた……」



看守(干し肉を投げ入れながら)

「今日のVIPメニューは、干し肉と昨日のパン。腐ってないだけマシだと思え」



フェリシア(絶叫)

「なにこれ!? 何度も言うけど、 王女に出す食事じゃないわ!!」



ルーク(パンをかじって)

「俺の拳より硬ぇ……」



フェリシア(怒り心頭)

「看守! これは何のつもり!? VIP待遇って言ったじゃない!」



看守(無表情)

「VIPってのは“Very Irritating(とてもイラつく囚人) Prisoners”の略だ。お前らみたいな騒音源を隔離するための特別措置だよ」



フェリシア(感嘆)

「……へえ、そういう意味だったの?」



ルーク(拳を握りしめて)

「俺の拳でこのパンを柔らかくしてやる……!」



看守(冷たく)

「お前の拳、昨日、干し肉に負けただろ?」



フェリシア(ふてくされながら)

「でも、私たちって華があるわよね?」



ルーク(自信満々)

「牢の中でも輝いてるよな!」



看守(耳栓を取り出しながら)

「響いているのは騒音だけだ。お前ら三人、まとめて“雑音”」



グランツ(壁に向かって)

「……つく相手を間違えた(2回目)」




◇◇◇


 王都地下牢・隔離房。

朝の騒音が限界を超えたその瞬間、元宰相グランツがついに立ち上がった。目は血走り、声は震え、威厳だけは全力だった。



グランツ(怒鳴りながら)

「いいか貴様ら! 国を動かすのに責任と覚悟がない!」



フェリシア(パンを食べながら)

「それ、干し肉食べながら言うセリフじゃないわよ」



ルーク(筋トレ中)

「俺の拳にも責任と覚悟があるぞ!」



看守(鉄格子越しに冷静)

「拳に責任があるなら、昨日の腕相撲で負けんな」



グランツ(無視して続ける)

「私は宰相として、国の安定のため、魔族と契約した! それは外交的配慮だ!」



フェリシア(眉をひそめて)

「つまり、悪事ってことね?」



ルーク(うなずきながら)

「俺らと同じじゃん」



グランツ(必死に否定)

「違う! 私は“戦略的判断”をしただけだ!」



看守(無表情)

「でも牢にいるよな?」



フェリシア(ニヤリ)

「しかも私たちと同室」



ルーク(拳を握りしめて)

「つまり、仲間だな!」



グランツ(震えながら)

「……黙れ」



看守(干し肉を追加で投げ入れながら)

「VIP待遇だろ? 特別室、特別追加メニュー、特別騒音。お前ら三人、牢の中で一番目立ってる」



フェリシア(ドヤ顔)

「特別!やっぱり、私って華があるのよね」



ルーク(パンをかじりながら)

「俺たち、牢の中でも主役だな!」



看守(耳栓を装着しながら)

「主役じゃねぇ。ただの“粗大ゴミ”だ」



グランツ(壁に向かって)

「……つく相手を間違えた……(三回目)」




──牢の中でいちばんうるさい三人。

今日も死刑囚とは思えない元気さだ。





◇◇◇


 王都地下牢・隔離房。

朝。騒音。異臭。

そして──限界を迎えた看守の理性。



看守(鉄格子を叩きながら)

「お前ら三人、まとめて聞け。もう王族でも騎士でも宰相でもない。今はただの“元気な罪人”だ」



フェリシア(目を輝かせて)

「元気な罪人! なんか響きがいいわね! ちょっと貴族っぽい!」



ルーク(胸を張って)

「俺たち、牢の中でも風格と威厳がすげぇよな!」



看守(鼻をつまみながら)

「違う。すげぇのは、体臭のひどさと騒音だ」



グランツ(壁に頭を打ちつけながら)

「……つく相手を間違えた……(四回目)」



看守(干し肉を投げながら)

「今日のVIPメニューは、干し肉とスープ。腐ってないだけマシだと思え」



フェリシア(ため息まじりに)

「また干し肉? ……王女に対してこの扱い。貴方なんてすぐクビだから」



看守(冷たく)

「王女じゃねぇだろ。“Very(自己中心的) Insufferable Prisoners”──VIPだ。お前らみたいな騒音源を隔離するための特別措置だよ」



フェリシア(キョトンとしながら)

「でも“VIP”なんでしょう?つまり、私ってことでしょう?」



看守(無表情)

「そうだよ。“とても耐えがたい存在”って意味だ」



フェリシア(うっとり)

「耐え難いって、そりゃ私たちは王族だし、あなたからしたら雲上の人よね。そんな人と一緒なんて緊張するわよね」



ルーク(拳を握りしめて)

「俺も天下人か……!」



グランツ(絶望の声)

「頼む……辞書を与えてやってくれ……」




看守(耳栓を装着しながら)

「お前ら三人、まとめて“廃棄物”だ。反省ゼロ、理解力ゼロ、羞恥心ゼロ。」



──そして今日も牢の朝は、静寂の方が逃げ出した。




◇◇◇


 王都地下牢・処刑場。

処刑当日。空気は重い――はずだった。だが、牢の中はいつも通りうるさかった。



看守(ため息)

「……今日が処刑日だってのに、なんでこんなに元気なんだ」



フェリシア(水たまりを鏡代わりにしながら)

「ルーク、私の髪型、今日の舞台にふさわしいかしら?」



ルーク(拳を握りしめて)

「バッチリだ、フェリシア。お前は今日も可愛い!!」



フェリシア(うっとり)

「やっぱりね。民衆の視線が痛いほど感じるわ」



ルーク(拳を振り上げて)

「俺は拳で処刑台を壊す予定だ。見てろ、民衆!」



グランツ(処刑台の階段で立ち止まりながら)

「……もう終わりだ……」

「……つく相手を間違えた……(五回目)」




看守(耳栓を外しながら)

「お前ら三人、処刑台に立つ前に、せめて“人間”になれ」 



フェリシア(微笑みながら)

「人間って、私はそれ以上に華やかよ?」



ルーク(拳を握りしめて)

「俺は拳で語るタイプだからな!」



グランツ(処刑台の上で天を仰ぎ)

「……この国に必要なのは、知性と、沈黙。やつらの騒音と無能は害悪でしかない……」




民衆(怒号)

「王女のくせに騎士団全員と関係持ってた女だ!」

「英雄を陥れた偽騎士め!」

「魔族と契約してた宰相が何を偉そうに!」



フェリシア(手を振りながら)

「そんなに私を見つめないで。照れるわ!」



ルーク(叫びながら)

「俺のファンクラブか!? ありがとな!」



グランツ(小声で)

「……つく相手を間違えた……(六回目)」






鐘が鳴る――が、処刑は執行されなかった。新王アルフレッドの命令で、三人は“永久牢獄”へ。



新王の命令

「処刑する価値もない。 反省しない者に、終わりは与えない」



こうして、バカ三人は今日も牢獄で元気に騒ぎ続ける。



看守は耳栓を新調した。

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― 新着の感想 ―
宰相は後悔すれども反省せず。 他の2人は・・・。 まあ新王の反省もしてないのに処刑してもする価値も無いは一理有る。
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