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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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だいたいバッドか、メリバか、ビターか

永劫の首が語るには

作者: あかね
掲載日:2026/03/03

 それがあるのは博物館の奥にある展示室。


『語る首』


 そうかかれたものだけがある一室。

 目と口を縫われた女の頭。長くうねるような髪だけがつややかだった。銀の盆にのせられそこにある。

 魔法使いが、一度だけ問うことが許されるというのはただの噂だ。ただの一度、知恵を貸してくれる。

 見返りは秘密を一つ。そんなものにすがるほどにイサリは追い詰められていた。


「我が主を助けてください」


 冤罪で死を待つばかりの主を助けるために夜更けの博物館に入り、口をきくはずのない頭部に願う。それが表ざたになればイサリもただではすまない。

 それでもと結界の一つを外す。


「……愚かだなぁ」


 聞こえた声は若い女のものだった。あたりを見回しても声の主はいない。

 その首以外になにもない。


「しかしまあ、百年に一度もないことだね。聞いてあげよう」


 頬を撫でるような風にイサリはびくりと身を震わせる。なにかが、いるとはっきりわかる。それは頭の主だろうか。


「我が主が冤罪で死を賜ろうとしています。

 助けてください」


「不明瞭だな。夜明けくらいまでは時間があるだろう」


 それでは語りたまえと尊大に言い放った。



「ほうほう、嵌められて悪役令嬢か。

 身に覚えもなくもない」


 首が嗤うように口元が引きつった。

 イサリの主はある日、熱病に冒され生死の境を彷徨った。そして、その後目覚めたが、記憶を失い性格も一変していた。

 わがままを言わず、争うこともせず、ただ、微笑んで肯定する。

 それだけのことしかしていない。


 それなのに、罪を問われた。

 王を弑逆することを扇動したという。彼女に肯定されたからと計画したものは言った。それだけで投獄され、死を賜ることになる。


「ならば、よく聞くといい」


「はい」


「主と駆け落ちしろ」


「は?」


「冤罪の釈明? 正義を語ればいい? そういうのは後回しだ。

 まず、逃げろ」


 イサリが驚いている間に首は逃走計画を流れるように語る。何もかも知り得ているように。


「警備の時間などどうやって」


「十全に知る。それが与えられた権能だ。問われれば、という限定能力だが、今なら知り得る。

 それでなお聞きたいのだが」


 そう言って少しだけ首はためらう。


「果たして彼女は、それを望むだろうか」


「当たり前です。このような恥辱耐えられません」


「よろしい。

 では、言われたとおりにやりたまえ。答えは出した」


「引き換えに秘密をでしたね」


「いや、もうもらった。問われれば知れる。誰の奥底も」


 つまらなそうに首は言う。イサリはよくわからぬままにその場を去った。


 言われたままに着いた先は、牢獄だった。


「ああ、我が主、お迎えにあがりました」


 その声に応えるのは微笑みだけ。


 がしゃりと牢獄の鍵が閉まる。


「私はもう死んでるのよ。殺されたの。

 恨んでないとは言わないけど、もう無意味よ。

 ねぇ、もう、おしまいなの」


 彼女の声が響いたのを最後に、彼女であったものは崩れ落ちた。ただの塵に。


「あなたは、生きて」


 それはなぜか首の声に似ていた気がした。

「ああ、本当にあの王家ときたら、私の首を落とした時と変わらない」

 首はつまらなそうに言い、崩れた結界の一部へ髪を伸ばした。

「生きて。

 呪いだな、呪い。ああ、わかっている。心配心配と周りをまわらんでも。気がつきもしない鈍い男のどこが、あー、存分に惚気たらいいよ。

 そうしたら、成仏したまえ。

 安心したまえ、君を殺した王子以下数名は失墜するであろう。まあ、すでに報いは受けているかもしれないねぇ。

 熱病を装って毒殺したはずの女が、生き返り、自らを陥れようとするなんて、最悪だ。本当に動かしていたのは、取るに足らないと思っていた魔法使いなのにね?

 君の死が受け止められないかわいそうなかわいそうな……え、純愛。あ、そう……」

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― 新着の感想 ―
短編はこの、短い中に背景を描きつつ、いくらでも解釈や想像の余地が残されてるところ、が美味しいですね。 成仏する前の彼女が、惚気ながら純愛と喜んでいたので、ビタースイートな読後感でした。 イサリに全てを…
純愛を捧げられてイサリの主的にはまあまあ満足なのかもね…イサリも恋心を自覚できてよかったね(?)…自覚したから終わらないよ! 首的には惚気聞かされた案件なのかしら…
投稿感謝です^^ 生前は身分と義務に殉じ死後は仮初めの生に殉じたイサリの主にとっては、あるいはハッピーエンドと呼べる結末だったのかもしれない(~_~;) ダークで悲恋な純愛劇をありがとうございました…
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