永劫の首が語るには
それがあるのは博物館の奥にある展示室。
『語る首』
そうかかれたものだけがある一室。
目と口を縫われた女の頭。長くうねるような髪だけがつややかだった。銀の盆にのせられそこにある。
魔法使いが、一度だけ問うことが許されるというのはただの噂だ。ただの一度、知恵を貸してくれる。
見返りは秘密を一つ。そんなものにすがるほどにイサリは追い詰められていた。
「我が主を助けてください」
冤罪で死を待つばかりの主を助けるために夜更けの博物館に入り、口をきくはずのない頭部に願う。それが表ざたになればイサリもただではすまない。
それでもと結界の一つを外す。
「……愚かだなぁ」
聞こえた声は若い女のものだった。あたりを見回しても声の主はいない。
その首以外になにもない。
「しかしまあ、百年に一度もないことだね。聞いてあげよう」
頬を撫でるような風にイサリはびくりと身を震わせる。なにかが、いるとはっきりわかる。それは頭の主だろうか。
「我が主が冤罪で死を賜ろうとしています。
助けてください」
「不明瞭だな。夜明けくらいまでは時間があるだろう」
それでは語りたまえと尊大に言い放った。
「ほうほう、嵌められて悪役令嬢か。
身に覚えもなくもない」
首が嗤うように口元が引きつった。
イサリの主はある日、熱病に冒され生死の境を彷徨った。そして、その後目覚めたが、記憶を失い性格も一変していた。
わがままを言わず、争うこともせず、ただ、微笑んで肯定する。
それだけのことしかしていない。
それなのに、罪を問われた。
王を弑逆することを扇動したという。彼女に肯定されたからと計画したものは言った。それだけで投獄され、死を賜ることになる。
「ならば、よく聞くといい」
「はい」
「主と駆け落ちしろ」
「は?」
「冤罪の釈明? 正義を語ればいい? そういうのは後回しだ。
まず、逃げろ」
イサリが驚いている間に首は逃走計画を流れるように語る。何もかも知り得ているように。
「警備の時間などどうやって」
「十全に知る。それが与えられた権能だ。問われれば、という限定能力だが、今なら知り得る。
それでなお聞きたいのだが」
そう言って少しだけ首はためらう。
「果たして彼女は、それを望むだろうか」
「当たり前です。このような恥辱耐えられません」
「よろしい。
では、言われたとおりにやりたまえ。答えは出した」
「引き換えに秘密をでしたね」
「いや、もうもらった。問われれば知れる。誰の奥底も」
つまらなそうに首は言う。イサリはよくわからぬままにその場を去った。
言われたままに着いた先は、牢獄だった。
「ああ、我が主、お迎えにあがりました」
その声に応えるのは微笑みだけ。
がしゃりと牢獄の鍵が閉まる。
「私はもう死んでるのよ。殺されたの。
恨んでないとは言わないけど、もう無意味よ。
ねぇ、もう、おしまいなの」
彼女の声が響いたのを最後に、彼女であったものは崩れ落ちた。ただの塵に。
「あなたは、生きて」
それはなぜか首の声に似ていた気がした。
「ああ、本当にあの王家ときたら、私の首を落とした時と変わらない」
首はつまらなそうに言い、崩れた結界の一部へ髪を伸ばした。
「生きて。
呪いだな、呪い。ああ、わかっている。心配心配と周りをまわらんでも。気がつきもしない鈍い男のどこが、あー、存分に惚気たらいいよ。
そうしたら、成仏したまえ。
安心したまえ、君を殺した王子以下数名は失墜するであろう。まあ、すでに報いは受けているかもしれないねぇ。
熱病を装って毒殺したはずの女が、生き返り、自らを陥れようとするなんて、最悪だ。本当に動かしていたのは、取るに足らないと思っていた魔法使いなのにね?
君の死が受け止められないかわいそうなかわいそうな……え、純愛。あ、そう……」




