自分の姿を見た後の世界。
もし、普通じゃないと気づいたら、壊れちゃうから。
もう少しだけ、このままで居させて。
もし、普通じゃないと気づいたら、壊れちゃうから。
もう少しだけ、このままで居させて。
二度言い聞かせた言葉に根拠などなかった。
日奈子side
「私って、こんな顔なのですね。
案外可愛いです。スタイルは全然ですが。」
今は正樹さんと一緒に学校で話す練習、自分の顔の確認を行なっている。
スラっと伸びた銀髪にアクアマリンのような透き通った瞳。
唇はぷっくりとしていて自分でも見惚れてしまう。
鼻はスゥーっと綺麗に伸びていてこれぞ美しいとでも言うほどだ。
どちらかといえば綺麗系な顔で、女を知らなそうな正樹さんが頑張ったんだなと感じる。
「ああ、そうでしょう。
顔は大体の人間が見た第一印象に繋がるから気合を入れて資料を見ながら作りました。完全に制作長の好みだと思いますが。
後はまあ、体はこれからだから安心してください。」
資料を見ながら私の顔を作っていく正樹さんの顔を想像してみたら、茶髪に少し金色の混ざった茶色い目に銀縁眼鏡をかけた、背の高い世間一般では真面目そうな正樹さんが変態のように見えてきて、面白いと感じた。
「正樹さんがそんなことしてるところ、想像がつきませんね。」
「俺もですよ。どんな顔をしていたか見てみたいものです…。」
「私の想像でよろしければ、今からでも制作可能ですよ。」
「それはダメです!アンドロイドとバレるから絶対合奏でも…いや俺の前でもやめてくださいね?!」
「焦らないでください。やりませんから。」
焦っている正樹さんは新鮮で、プログラムにはないような言葉を発したくなる。
「可愛い…。」
「?なんか言ったか?」
「いーえ、何も。」
ホロリとこぼれ落ちた言葉は、チラッとしか聞こえていなかったらしく、悟られることはなかった。
けれど、アンドロイドなのに私は人間のようなヘマをしてしまった。以後気をつけよう。
「ただ、正樹さんは女性とは程遠い生活をしてきたのかなあ、と思いましてね。」
「な、なんですかそれ!たしかに女性となお付き合いをしたことはありませんが。」
「ほら、23歳にして、ですか。」
「なぜ年齢を…ってわかるように設定したのは俺でしたね。」
No side
「あれがお前なのか、正樹。」
女性ながら、低い声は威圧的かつ優しいように聞こえた。
「まさかそんなはずないでしょう。
学校の練習をさせるための演技ですよ。」
「私には演技には見えなかったんだけどな。」
「じゃあ、俺は演技が上手なんですね。
早く仕事に戻ったらいかがですか、美由紀さん。」
「我が子のように思っていたアンドロイドが違う機械になったんだ。少しは再会を楽しませてくれよ。」
西宮美由紀。
西宮日奈子の買い主だった女性。
君はもう、他とは違う機械なんだ。
精々人に夢を見せて差し上げろ。