無感情少女の見る世界。
もし、普通じゃないと気づいたら、壊れちゃうから。
もう少しだけ、このままで居させて。
日奈子side
ありきたりの人生を歩んできた。
西宮日奈子。15歳。
父親も母親も兄もいて憧れで目標もある。
それなのに、何かが足りない。
虐められても大丈夫。
心配されなくても大丈夫。
一人でも大丈夫。
友達がいなくても大丈夫。
ずっとこのままで大丈夫。
全て揃ってて、全て大丈夫なのに。
何かが足りない。
「何が足りないと思う。えーちゃん。」
「アタシに聞かれても、答えようがないっていうかわかんないのよね。」
幼馴染で唯一の友達。私をひぃ、と呼ぶ。
「えーちゃんは充実した人生を送ってる。」
「もちろん!彼氏もいて、ひぃもいて、パパとママもいる!
充実した人生…。あれ、ひぃに足りないものって感情じゃない?」
「感、情。」
「今だって真顔だし、髪をずっと切ってない。彼氏も作ろうとしたことない。友達もいらないって言ってる。親にも何も求めてない。
それって、そういう感情がないんじゃない?それが足りないんじゃない?」
「そっ、か。」
たしかに、私は全てが大丈夫だと思うんだ。
髪を切ろうとしない。好かれようとしない。
たとえば、誰かから見たら羨ましいこともできるけど羨ましいと思われたいとも思いたいと思わない。
でも、それって私が人間じゃないみたいじゃない。
やることはやる。
感情があるのが人間。
感情がなかったらロボットと一緒。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね。」
「わかった。いってらっ、しゃい…!」
「ゲホッ、ガハッ、。」
トイレの個室。吐き気が催して咽せてしまう。
でも、「別にいいや。」「困るのは私だけだし。」
なんて思ってしまう。
おカしい。怖イ。こノ気持チもニセモノ。
『感情が芽生え始めまシタ。プログラムを停止シ、早急にアの方ノ元へ向かいマす。』
私はその機械的音を最後に意識を途絶えた。