太平洋決戦(前編)
「たった一人か。見逃してやる。さっさと消えろ」
アメリカ軍の紋章をつけた男は言った。確かに今の状況を見れば俺は勝てないのは当たり前か…そんなことを緑の軍服の男は思っていた。20対1それに付け加えて男は軽装。数の不利と質の不利どちらも兼ね備えていた。そう、周りから見れば勝つことは不可能。生きて帰れたらいいほうだ。いや、生きて帰ることができたら奇跡とも言えるだろう。ただし、一つ訂正しておこう。あくまでこれは周りから見た話。この男にとっては少し違う様だ。
(最悪互角よくて勝てるぐらいか。)
この男はただ一人、負けることを知らなかった。20対1と言う圧倒的な戦力差に置かれても、男は笑っていた。のちに人々は悪魔の笑いというようになるのだが、今のアメリカ軍はまだそれを知らない。
「おい!何とか言ったらどうなんだ!」
「別になにもいうことがないから黙ってんじゃん」
「チッ、これだから日本人は面白くねぇ。」
「何を言っているんだ?本気にさせないお前らが悪いんだろ?」
「クッ、つくづく気に触るやろうだな。」
「何とでも言えばいい。」
そう、ほんとに何とでもいえばいい。目の前の軍人は、少しずつ苛立ちを覚え始めている。苛立ち。戦場においてこれほど恐ろしいものはない。戦闘における敗因の多くが油断と苛立ちだ。油断は言わなくても大体わかると思うが、どれだけ鍛えた人間でも、油断している場合では死に至ることがある。次に苛立ちだが、苛立ちは何と素晴らしいことに集中力と普段のポテンシャルの両方を一気に下げてくれる。苛立ちを覚えたものから少しずつ感覚がずれ始め、集中力を削ぎ、一気に死に至るときもある。これを踏まえてもう一度言おう。目の前の軍人は苛立ちを覚えていた。これ以上の言葉は必要ないだろう。
次回からは月曜日の今日と同じ時間にアップします。次回もご視聴よろしくお願いします