第8話 食堂にて
「…起きましたか」
病院のベッドで目を覚ました弦に一人のナースが話しかけてくる。
「夢蔵弦さん。この後すぐ、学園の医務室に向かってください。津原先生にあなたの腕を治療もらってください。ナースはそれだけ言うと病室から出て行く。
「腕の治療って…これ、治るのか?」
弦は無くなった左腕を見つめながらつぶやく。
「まぁ、とりあえず行ってみるか」
弦は病衣から私服に着替えた弦はナースに言われたように学園へと向かう。
◇◇◇
「…失礼します。夢蔵です。津原さんに用があってきました」
学園の医務室に来た弦が入室すると、部屋の中心で白衣を着た若い女性が目に留まる。
「ん?あぁ、あたしが津原裏子だけど…どんな用事?」
「いや、俺はあんたが治療してくれるって言われて来たんですけど…」
「ちょっと待っててねえ。治療する人が多くて誰に声かけたか分かんなくてね」
裏子は机の上に積まれている書類を手に取り確認する。
「えーっと…夢蔵くんだよね?確か、左腕の治療が必要だね」
金庫のようなパスワードがある冷凍庫を開けて、そこから綺麗に保存された左腕を取り出す。
「これだね。はい、ちょっと失礼」
裏子は左腕の断面と、弦の肩の断面をくっつける。
「はーい。終了でーす」
「え、な、治った?この数秒間で?」
斬られた腕は完璧に治っており、しっかり弦の命令通り動かすことができる。
「アタシの異能で治したんだよね。部位させあればどんな怪我も治せるんだよね」
「そいつはすごいな。…おっと」
弦のスマホが唐突に鳴りだす。
「由佐から電話が来たか」
弦は医務室の外に出ながらスマホを耳に当てる。
「はい、もしもし。どうしたんだ?由佐」
『弦ちゃん!生きてる!?なんで病院に居ないの!?』
スマホの向こうから由佐の慌てた声が耳に響く。
「あぁ、学園の医務室に来たんだよ。すごいぞ。左腕が治ったんだよ」
『左腕って…斬られてたよね?治って良かったじゃん…って話じゃなくて。みんな心配してるよ~』
「あぁ、悪い悪い。今からそっち行くよ。病院か?」
『いや、アタシたちがそっち行くよ~。学園の一階にある食堂で待ってて~』
由佐はそれだけ言うと、電話を一方的に切った。
「…とりあえず行くか」
医務室から食堂までの距離が短かったため、弦は迷うことなく到着した。
「病院はこっから遠いし、適当に場所取りでもしとくか。アタシたちって言ってたし、ここでいいか」
弦は空いている六人席に腰を下ろす。
「ていうか俺、半日寝てたのかよ」
弦がスマホの時計に目をやると、丁度十二時で食堂は昼食を食べに来た人々で賑わっていた。
「危ないな…席が無くなるところだった」
弦は由佐たちがくるまでの時間を潰そうと思い、スマホを取り出すと、横から声をかけられる。
「あ、あの…ここの席…座っていいですか?」
弦が顔をあげると、僅かに整えられていない銀髪で目を半分隠したの女性が少し遠慮気味な姿勢で、トンカツ定食をのせたトレイを持って弦の隣に立っていた。
よく見ると、周りの席はすでに埋まっていた。
「あぁ、いいぞ。すまないな。六人席を俺一人が占領してしまって」
「え?だ、大丈夫です!誰かを…待ってるんですよね?それまで、座れせてもらえたら嬉しいです」
席に座った女性は割り箸を割ると、黙々と食事をとり始めた。
「…えっと。夢蔵さん、あなたは…この学園をどう思ってますか?」
「…?どういう意味だ?つかなんで俺の名前を知ってんだ?」
「あ、すいません。同じクラスでしたよね?なので…」
「あぁ、そうか。すまないな。お前のこと覚えてなくて」
弦はスマホから目を離し、すまなそうに女性を見つめる。
「いえいえいえ!数日しか経ってないなので覚えてなくても大丈夫だと思います!えと…あ、オトネは、朽矢野音音っていいます」
音音は僅かに笑いながら自己紹介をする。そして、再度同じ質問を口にする。
「あの…夢蔵さんはこの学園をどう思ってますか?」
「どうだろうか。別に…どうも思ってないんだよな。ただ叶えたものがあるからここに来ただけだしな」
「そう、ですよね。皆さん、ここには願いのために来ています。しかし…」
音音は食事の手を止め、弦の目をジッと見つめ、話を続ける。
「今年は、きっと荒れます」
「荒れる。と言ってもなぁ」
少し腑に落ちない、といった感じで首を傾げる弦にスマホを見せる。
「これを見てください。今年の集団神隠し事件の記事です」
集団神隠し事件とは、三年の一度のペースで約百人の人間が忽然と消え、その年の夏に消えた者の半数が一斉に現れる事件である。
そして、消えた者たちの証言で原因は流星学園であると、判明している。
「今年の失踪人数は百八十人と言われてます。つまり、今年は例年に比べ、生徒の数が多いことになります」
「そうなのか」
「はい、そうです。その上、例年はほとんどが一般人が生徒として選ばれていました。しかし、今年の生徒の過半数が入学前から殺しの経験を持っています」
「…どこからそんな情報仕入れたんだよ」
「その道の人に聞きましたから。それでです。夢蔵さんはこの学園の黒い噂を聞いたことがありますか?」
「そうだな。噂は山ほどあるよな」
流星学園は「願いを叶えられる」という点以外が謎に包まれており、学園の場所も、死んだとされる人々の行方も、何故願いが叶えられるかは誰も分からない。
そのため、人々の憶測でありとあらゆる噂が世に流れている。
「オトネはこの学園では人体実験が行われてるのでは、と思っています」
「…なんでだ?」
「はい。この学園の元住民とのコンタクトが取れたんですよ。その人から…」
「あ、見ぃっけ!」
音音が話をしている途中で、背後から女性の無邪気な声が聞こえてきた。