第6話 血みどろ深夜徘徊
「こいつは放置で…いいのか?」
弦は目の前にある首と胴の離れた隼人のことを気にしながらも、屋上の扉を開ける。
「うわぁ!?」
扉を開けると、清掃服を着た初老の男性とぶつかってしまう。
「おっと、驚かせてしまったな」
「はっ!?な、なんでこんな所にいるんだ?」
自身の頭をポンポンと叩きながら笑う清掃員に死体を見られないようにと、弦は扉をそっと閉める。
「はっはっは。俺は見ての通りただの清掃員だ。で、お前の作った粗大ゴミを片付けに来たんだ。ほれ、どいてくれ。今年の死者は例年より多いからとっとと片付けないと間に合わないんだよ」
清掃員は手に持っていたモップで弦を横にどかしながら豪快に屋上の扉を開ける。
「うへぇ。血が飛び散る戦い方をするタイプかよ。もっと、綺麗に殺してほしいな」
清掃員は弦に聞こえるようにぼやきながら、床についた血をモップで拭く。
(…なんだ、あのおっちゃん。つか、変に死体を隠す必要なかったな)
弦は軽やかに階段を下りていき、寮への道を進んでいく。
「やっべ。行くときに考え事しながら来たせいで道が分かんねぇ。てか、俺はどうやってボーッとしながら学園に来れたんだ?」
無意識で歩いていたため帰りの道は分からず、昼見た学園の景色と照らし合わせながら道を歩く。
「当たり前だが、昼と夜では景色が違うな」
弦は迷いながらそれらしい道を進んでいく。
「あれ、こっちだっけ?もっと街灯があった気がしたが…」
早速道を間違えた弦はそれでも突き進んでいく。
ほんの数分程歩いていると、弦の足に固い物体があたる。
(…石、にしては大きい。それに血の臭いも充満している)
街灯が一つなく何も見えないためスマホのライトで照らし、足元の物体を明らかにする。
「…っ!?人の頭。って、バラバラにされてる」
道には人の腕や足、頭などがそこら中に散らばっている。それも一人や二人ではない。少なくとも十人分の死体は転がっている。
「来た時にはこんなことになってなかったな。やっぱり道を間違えたか」
弦が踵を返して、来た道を戻ろうとする。
「お主。帰ろうと、するでない」
ベンチで胡坐をかく老人が弦に話しかける。
(このじいさんも学園の制服を着ている…てことは生徒か)
骨と皮しかないような体つき、しわくちゃな顔をしており、右手には長めの刀が握られている。
「…お前がこれの犯人か?」
弦は地面に広がる死体を指さすと、老人はベンチから降りて弦に近づく。
「いかにも…おぬし、名は?」
「夢蔵弦だ」
弦が警戒しながら名を名乗ると、老人が一歩ずつ一歩ずつゆ~っくりと近づいてくる。老人は近づきながらスマホを操作する。
「夢蔵、夢蔵…こいつか。おぬしは、楽しませてくれるか?」
老人がスマホを操作し終えると、弦のスマホが振動する。
「…いや、お前とやる意味がないんだよ。俺は」
スマホには『尼崎郷火から決闘の申し込みがあります』と表示されていた。
弦はスマホをポケットにしまい、郷火を無視してその場を離れようとする。
「そうか。では、避けろよ?」
「は?何を言って…」
弦が言い終える前に、郷火は高速で近づき、背中を軽く斬りつける。
「チッ。決闘とか関係なしにやり始めるのかよ。この戦闘狂がっ!」
弦は跳ね上がり、郷火の顔めがけて蹴りを放つ。しかし、その攻撃は郷火の細い腕によって止められてしまった。
(そんなほっそい体のどこにこんな力があるんだよ)
それなりに力をこめたハズだった弦は心の中で悪態をつく。
「それ。投げるぞ」
郷火はそのまま真上へと投げ飛ばす。
(やっばい。最悪の状況だ。真下には刀を構えたじいさんがいるし…決闘でもない戦いでは異能を見せたくないが、やるしかない)
弦は真下で待機している郷火の間合いに入ると、手を広げて叫ぶ。
「名刀・正宗!」
弦は郷火の腹部を狙う。重症にはなるが、致命傷にはならない。そんな斬撃を食らわせる。
「…ほう。おぬしも、剣士か」
郷火は弦の攻撃を軽く受け止めると、ニヤリと笑う。
(つっよいな。こいつ)
弦は刀をはじきながら後方へと距離を取る。
「おぬしが、異能を明かしたなら…わしも、異能を明かさんと、フェアでは、ないじゃろう」
老人は納刀しながら、弦との距離をさらに作る。
「嘘言うな。異能なしでじいさんがそんな動けるわけないだろ。本当に異能を使ってないなら規格外すぎるだろ」
「ふはっ、なら、わしは、規格外なんだろう」
老人は姿勢を正し、呼気を整える。
「…冥蓮華」
郷火は刀の持ち手を軽く握り直した刹那、数メートルもあった距離は一瞬で縮まり、神速としかいいようがない一閃が弦を襲う。
「ぅ。まじ…かよ」
郷火の刀が弦の左肩をすり抜ける。その数秒後、弦の左腕がゆっくりと体から離れていく。
(お菓子みたいな技で腕を一本持ってかれたよ。そのうえ、こいつの異能が良く分からなかった。スピードがバカみたいに増した。まるで瞬間移動だったが、それが異能か?)
片膝をつき、怪訝そうな表情で郷火をみつめる。
「はぁ、おぬしには、少々、期待して、おったのだがな。やはり、あれを避けれぬか…」
郷火は刀を鞘にしまうと、弦への興味を無くしたようで、ベンチの上へと戻っていく。
「くっそ。知らん間に期待して、勝手に失望しやがって…バカにすんなよ」
ここでそのまま敗走していればいいものを、くだらないプライドが弦を突き動かす。マサムネをフッと消してから、手を広げて叫ぶ。
「妖刀・村正」
弦は顕現させた禍々しい雰囲気を帯びた刀を郷火に向ける。
「おい、こっち向けよ。第二ラウンドだ」