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流星学園  作者: 森宮寺ゆう
一学期『願いを叶えに』
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第4話 惹かれ合う

 深夜となり、弦は寮を出ようとする。

「弦ちゃん、なんでこんな時間に起きてるの?」

 深夜というのに制服を着た由佐が玄関に立つ弦を見て、不思議そうな顔をして問いかける。

「起きてるのは由佐もだろ。少し野暮用だよ」

「?」

 由佐は弦の言葉にほんの少しの疑問を持ちながら笑顔で手を振る。

「じゃーね。早く帰ってきてよ~」

 弦は由佐の手を振り返しながら、寮の扉を閉じる。

「さぁて、あの野郎は来てるかな」

 弦はゆっくりとした足取りで、学園の屋上へと向かう。

「十先隼人…お前には期待してるからな。変わっててくれよ」

 弦は少し緊張しながら学園までの道を歩く。

(しかし、こうも静かで、学園までの距離が長いと色々なことを思い出してしまうな)

 目を閉じると、弦の脳内にあるシーンが浮かんでくる。

 ◇◇◇

「おーい。陽平(ようへい)、飯だぞ」

 弦が目の前の扉を優しくノックする。すると、扉の向こうから小さな声で返事が返ってきた。

「…いらない」

「はぁ?今日は俺が仕事で上手くいったからいい肉使ってお前の好きな唐揚げを作ってやったんだぞ」

 弦がそう言うと、扉の向こうからベッドのきしむ音がする。

「じゃあ、食べる」

 扉からでてきた陽平は俯いたまま、リビングへと向かっていく。

「あ、そうだ。母さんたちのところにご飯を置いておいてくれ」

「分かったよ」

 陽平は小さめのおわんに米を盛ると、仏壇に置くと、一瞬だけ目を閉じ、手を合わせる。

「よし、冷めないうちに食うか」

 弦は唐揚げが積まれた取り皿と数品の副菜を机の上に置き、席に座る。

「「いただきます」」

 二人は唐揚げを掴み、黙々と食べ始める。

「…お前、最近部活が大変だったりするのか?」

「え!?なんで…部活?」

 陽平はなぜか動揺を見せ、箸から唐揚げを落としてしまう。

「あ?だって最近帰りが遅いだろ?それに帰ってきたら即ベッドだろ」

「あ、そ、そうなんだよ。バスケが大変で…」

「そうだったか。まぁ、練習もハードそうだしな。ここ一週間は随分疲れた顔をしているし、アザも増えてるし」

「ア、アザ!?なんで兄ちゃん分かるの!?」

「ん?あぁ、何となくだよ。俺は雰囲気で分かるんだよ。そういうの。…やっぱりボールをぶつけてしまうのか?」

 驚きで腰を浮かす陽平とは対極に、弦はのんびりと唐揚げを頬張る。

「そ、そうなんだよ」

 陽平は席に座り直すと、唐揚げを箸で掴んだまま、硬直する。

「…食わないのか?」

「え?あ、食べるよ。ただ…」

「ん?どうした」

 陽平は何かを言いたそうに弦の顔を見つめる。

「あの…えっと、バスケ…やめていい?」

「なんでだ?お前昔からバスケ好きだろ?」

「す、好きだけど…上手く無いし、練習もハードだし…」

 陽平は焦った様子で弦に部活を辞めたいことを述べる。

「うーん。まだ入って二ヵ月だしな。それ以外に嫌な事があるって訳じゃないだろ?例えば…イジメとか」

「ッ!…あぁ、いやいや!無いよ。そんなことは…」

 陽平は大袈裟なくらい手をブンブンと振り、歯切れは悪いが否定する。

「なら、ちょっと無理かもな。夏休みに入っても無理だって言うなら考えるよ」

「…分かったよ」

 陽平は食事を終え、食器を片付けると、即座に自室へと戻っていく。

「元気ねぇな。ホント少し前までは楽しそうにやってたのに」

 弦は陽平の背中を見ながら、不思議そうにつぶやく。

 ◇◇◇

「…あの時、陽平の話を了承してたら…あいつはどうなってたんだろうな。俺が違和感に気づいていたら…どうなってたんだろうな」

 無意識のうちに学園の階段をのぼっていた弦は屋上の扉に手をかける。

「…チッ。遅ぇんだよ。待たせやがって」

 深夜だというのにカギはかかって無いらしく、先に隼人が屋上にポツンと立っていた。

「あぁ、悪い悪い」

 弦は軽い笑顔を作りつつ、隼人に近づく。

「それと、てめぇ。夢蔵弦って言うのか?」

「…知ってたのか?」

「いや、スマホで調べただけだ。しかし、夢蔵ってやつとは変な縁があるんだな」

 隼人は弦の顔を見て変な笑い声をあげる。

「少し前によ。夢蔵陽平、ってやつが同じ学校に居たんだよ」

「…ふーん?友達?」

「友達!?はっはっは!んなワケねぇだろ。あれは奴隷だよ。ど・れ・い。踏んでも、殴ってもただ泣いて叫ぶだけのオモチャ。あんな気弱と友達になるやつなんて、ただのバカだけだよ」

 隼人は手をパンパンと叩き、大きな笑い声をあげる。

「そいつは本当に愉快なやつだったよ。いいストレス発散道具になったよ。けどよぉ、あいつちょーっと痛めつけただけで自殺しやがったんだよ。あ、知ってるか?絢辻高校バスケ部集団いじめ事件。あれの主犯格、俺なんだよねー」

 隼人は自身がイジメをしていたという事実を誇らしげに、武勇伝を語るように話す。

「…はぁ、もういい。喋んな。お前が更生すると思ってたんだが…浅はかだったな」

 黙って聞いていた弦は軽蔑するような目で隼人のことを睨む。

「それで、お前みたいな悩み一つなさそうなクズがこんな所に来て何を願うんだ?」

 弦は静かに冷たく、嫌悪のこもった言葉を発する。

「喋んなって言いながら質問すんのかよ。まぁ、願いは単純だよ。そのいじめの事実を無くしてぇんだ。あのバカが死んでからは肩身の狭ぇ思いしなきゃいけねぇし。何よりも俺以外のいじめ仲間、九人が次々と行方不明になっちまったからな。ここに避難してきたんだよ。あ~怖ぇ」

 隼人は怖いといいつつどこか冗談ぽく、笑う余裕もあるようだ。

「…結局避難できなかったがな」

 隼人は弦の言葉にキョトンとするが、その直後、ニヤリと笑う。

「…それの犯人はお前か。やっぱりあいつの肉親か?」

「あぁ、あいつの兄だ」

 弦がそう言うと隼人はやはりか、といった様子で懐からナイフを取り出す。

「夢蔵って名前のやつは珍しいからな。なんで昼に面識も無いのに話しかけられたか謎だったが、お前の名前を見た瞬間、もしかしたら…って思ったんだ」

 隼人がナイフを弄びながら近づく。

「もしもの時のために持っていて良かったぜ」

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