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流星学園  作者: 森宮寺ゆう
一学期『願いを叶えに』
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第37話 弦の過去

 朝早くから弦は寮の仲間を呼び出した。リビングに集まった由佐、あやめ、淳也(じゅんや)(あい)は神妙な面持ちの弦が何を言うのか待っていた。

「…今日は俺の秘密を話そうと思う」

 そんな風に重い空気を弦が切り裂いた。

「単刀直入に言う、俺は殺し屋だ」

 その言葉に戸惑いや驚愕の表情を見せる。あまりにも唐突過ぎるカミングアウトであったため当たり前ではある。

「…殺し屋なんて存在したんだな」

 弦の言葉を理解しようとしたまず愛が漠然とつぶやく。

「殺し屋自体は結構いるぞ。この学園にもちらほらその手の人間がいたぞ」

「夢蔵、普通そうなくせになんで殺し屋なんかしてんだ?」

「それを今から話すんだ。結構長いが…いいか?」

 弦がそう言うと、皆が黙って頷く。

「分かった。話すぞ」

 ◇◇◇

 俺には両親と弟と暮らしていた。

 世間的に見てもよい父よい母、かわいい弟もいて多分裕福暮らしだったと思う。

「じゃあ、お母さんはお父さんを送りに行くから少しの間だけ陽ちゃんを任せるよ」

 俺が六歳の頃、雨がザアザアと降る日に、父の出張で両親が空港に向かった。

「わかったよぉ」

 俺は絵本を読みながら、ボンヤリとそんな感じの返事を返したと思う。

 数時間後に、家のチャイムが鳴った。親からは絶対に出るなと言われていたが、何度も何度も鳴り、その時はまだ赤ん坊の弟がグズリだしたのを見て、恐る恐る扉に向かった。

「弦ちゃんっ!」

 扉を開けると、祖母が俺を抱きしめてきた。濡れた体で抱き着かれるのは嫌だと思ったが、祖母の必死の表情に何も言えなかったことを覚えている。

「弦ちゃん。お母さんたちはちょっと家に帰れないってさ。今日はおばあちゃんの家に行こうか」

「ほんと!?やったぁ」

 祖母の家には行く機会があまりなく、珍しいものも沢山あったため、冒険感覚で当時は喜んでいた。

 俺は弟を連れて、祖母の家で過ごすことになった。

「おばあちゃん。おうちかえりたい」

 両親や家が恋しくなった俺は三日目の夜に祖母に言った。

 俺の言葉を聞いた祖母は一瞬ためらい、何かを決心したような表情で俺の肩をつかんで言った。

「弦ちゃん。あのね、お母さんは…死んだの」

 本気で何を言っているのかが分かんなかった。理解するのに数分かかったと思う。両親が死んだという事実を受け止めきれなかった俺は何がなんだか分からないままボロボロと涙を流し、大声で喚いた。

 後から知ったが雨のせいで起きた土砂に巻き込まれたそうだ。

「弦ちゃん。ちょっと来て」

 数ヵ月がしたころに祖母が母の妹を連れてやってきた。

「おばさんが弦ちゃんを引き取ってくれるってさ」

 叔母は両親から関わるなと言われていた。しかし、そういわれるような人には見えなかった。

「そうだよ。弦くん」

 叔母の第一印象は「優しそう」だった。今見れば作ったような笑顔が目立っていた気がする。

「しかしありがとね」

「いいのよ。子供も欲しかったし、お母さんも歳でしょ?育児は任せてよ」

「え?え?」

 驚きで固まっている自分をよそに、二人は淡々と話を進めていく。話は数時間で決まり、俺たちは叔母の家に引き取られた。

「ふふふっ。これからヨロシクね」

 そこから叔母との生活が始まった。

 初めのほうは楽しい生活を送れていた。叔母は弟を保育園に預けたり、楽しそうに食事をつくったり、弟の世話を率先してやっていた。

「あぁ、もう!おい来い!」

 数年が経った時、今まで優しかった叔母が急に荒々しい口調で俺を呼び出した。

「な、なんですか?」

 俺らは困惑しながら叔母のいる居間へと向かう。恐怖も感じてたと思う。

「やっと来たか」

 叔母は居間のソファに座っていた、その隣には首に和彫りのあるイカツイ男がいた。

「おい、このガキは使えんだな?」

 男が俺の髪を引っ張りながらドスの効いた声で言う。

「ひ、ひぃ!?」

 叔母は泣きかけの俺を見ても止めることなく、ただ男の言葉に頷いた。

「ちょ、ちょっと!やめてよっ!」

 俺が抵抗しようとした瞬間、男は躊躇いなく俺の頭を殴った。

「あぐっ!?」

「せっかく私が手に入れたモンを売る前に傷づたらだめだろ」

 俺が近づくと、叔母が訳の分からないことを言い始めた。多分だけど叔母は俺らをどっかに売り飛ばすために養子にしたんだと思う。

「っと、そうだな。こんなに元気なガキだ。内臓一つでも結構するぜ」

 男は笑いながら俺を担ぎ上げた。俺は目から涙を流して必死に助けを求める。

「た、たすけ…」

「…え?なにしてるの?」

 丁度そのタイミングで小学校から帰って来た弟が居間にやってきた。

「大人しくしな!」

 叔母は近くに置いてあったハサミを弟の喉もとにつける。

 商品である俺らを殺す訳がない。しかしこの時は殺されてしまうと確信していた。無意識のうちに叔母の胸ぐら掴んでおり、その後は男とも取っ組み合いになった。

 俺の異能が発現したのはこの時だった。弟を守るために、目の前の悪を潰すために使い方も分からない異能で二人を殺した。

 最初は叫んで抵抗していた叔母だったけど、いつの間にかその声も聞こえなくなっていた。男もだ。

「はぁ…はぁ…」

 弟は泣きじゃくり、俺は血まみれの部屋の中心で呆然と立ちつくしていた。

「はぁ、はぁ!大丈夫かい!?」

 俺が人を殺したことをやっと理解したとき、背後から男の声が聞こえてきた。

 振り返ると、顔が隠れるほど深くかぶった細身の男が立っていた。俺は二人を殺したことで警察が来たと思った。

「あ、あぁ。俺も…犯罪者に…」

 このまま死刑になってしまうと絶望した俺に近づき、男は俺の頭を撫でながら言った。

「大丈夫だよ。僕は君が思っているような人間じゃない」

「…じゃ、誰…!?」

「僕は…殺し屋?と言っても君からしたらただの変人だろうね」

 男は血まみれの叔母たちを見ながらうんうんと頷いた。

「この二人はウチらの抹殺対象だったんだけど、タイミングを窺っている間に子供に先を越されるなんてね…キミの殺しの才能を買いたい」

「イヤに決まってるだろ!そんな殺し屋なんかの手助けなんか…」

「そう、でも僕は今回のことを隠蔽できるよ。それに生活の支援もできる。殺し屋になってくれたらね」

 この時、俺は男の言葉に揺さぶられた。祖母はいるが、迷惑かける訳にいかなかった。それに、叔母らを殺したのは事実であったし、俺も捕まりたくはなかった。

「弟は…関係ないからな」

「もちろんだよ。欲しいのはキミだからね。弟くんも匿うだけだよ」

「…分かった」

 男の話にのった俺は弟を連れ、男の後を追った。

 そして、俺は殺し屋として育てられた。

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