第36話 真実
「…」
「…」
雷蔵との戦闘を終えて帰路についた由佐と弦の二人は黙って歩いていた。
「ねぇねぇ、弦ちゃんってさぁ…何者?」
由佐が沈黙の中で唐突に話を切り出した。それも弦の深層にあたるであろう部分の話だ。
「何者って言われても、普通としか…」
「嘘だよ。普通の人は人を殺すときに一瞬でも躊躇いがでるよ。何か秘密があるでしょ?」
「…必死だったからな。んなこと考えてられなかったぜ」
「だとしても!」
由佐は僅かに冷や汗を流す弦をジッと睨むように見つめる。
「分かったよ。お前には恩もあるしな、信頼もしている。だから話す…けど今日はまだ話さねぇ。明日、寮のみんなも巻き込んで話をするよ」
「ん、分かったよ」
由佐は今話をしない弦に少しの不満を持ちながらも納得してニコリと笑顔を作った。
そして、二人の間に再度沈黙が流れた。
(俺の秘密か。同じ寮で過ごした仲だが、喋っていいものなのか?もしかしたら、軽蔑されてしまうだろうな)
弦はチラリと隣を歩く由佐を見る。常にのほほんとした雰囲気を出しながらも時折核心をつくような発言を投げてくる。
(んや、俺は友人関係を築くためにこの学園にやってきたわけじゃない。てのに俺はこいつらと仲良くしてる。ここで嫌われ、距離を置かれたほうがやりやすいかもな)
弦の目的は弟を生き返らせることであった。そのためには自身以外の人間を殺す必要がある。もちろん由佐たちも殺さなければならない。
「てか、お前もケンカ慣れしてる感じだったけど?」
自分だけ秘密を暴かれたことを癪に思い、由佐の秘密も聞いてやろうと考えそんな言葉が飛び出す。
「まぁね。アタシのおねぇちゃんは病気でね、学校にもあまり行けなかったの。それをバカにする人がいたの。少なかったけどね」
由佐はそのまま自分の昔話をし続ける。
「そーゆー人ってね、陰口言うだけの無害な人もいるけど、わざわざ手を出してくるバカもいるんだよ」
由佐は過去のことを思い出してか、強く拳を握りしめて虚空を睨みつける。
「そんなヤツをぶん殴っていっているうちに人をどう殴ればいいのか分かるようになっていったんだよね~」
案外大変な人生を過ごしてきた由佐はその過去を気にしていないといった感じで弦の目の前に飛び出し笑顔を見せる。
「でも、今はそんなヤツらにも感謝はしてるかもね~。だってそのおかげで色んな人とも戦えるようになったし」
由佐はそのままシュッシュッと拳を放ちながら夜道をスキップしながら進んでいく。
「そうなのか。お前は身を挺してでも守りたかったのか?その姉は」
「もっちろん!そのためにもアタシはこの学園に来たんだよ。まだおねぇちゃんがどこにいるかわからないの」
「見つかるといいな」
「うんっ!ただ、前に変なことを聞いたんだよね」
「変なこと?」
由佐は模擬戦中で出会った茶山うりょむの事を語る。うりょむは由佐の眼球を欲しいだの言って戦闘を仕掛けてきた中、奇妙なことを言っていた。
「おねぇちゃんは確かにこの学園に来た。そして、おねぇちゃんは今生きてるとも死んでるとも言える状態だって言ってた」
「…それは本当か?」
弦はその言葉を聞いた瞬間に、ある一つの可能性が浮かんできた。
「なぁ、お前の姉にかんしてよ、一つ言えることがあんだよ。ただ、そいつはお前からしたら最悪の可能性でもあんだ。聞くか?」
弦の言葉に由佐は一瞬だけ悩んだようなそぶりをする。しかし、選択肢は一つだけ由佐はコクリと頷いた。
「じゃあ言うぞ。…お前の姉、多分、化け物になってる」
「…え?」
「この学園の人間が言ってたんだよ。生物と生物を掛け合わせて新たな生物を生み出してんだよ。その材料には人間も使われている」
「…そう」
由佐はただ一言だけつぶやくと、俯いたまま黙って歩き出した。
「…あ、着いたな」
二人は奇妙な空気感の中で寮に到着し、そのまま中へと入っていく。深夜ということもあり、おかえりの言葉は返ってこなかった。
「…じゃあ、もう遅いし…アタシ寝るね」
由佐はそのまま作り笑いを見せながらそそくさと自分の部屋に帰っていった。




