第33話 追っ手
暗い廊下に銃声が轟く。発砲音がしたと同時に幽羅の体が何者かに連れ去られた。
「あぶなかったねぇ。情報屋さん」
幽羅を連れ去ったのは由佐で、その直後に幽羅が立っていた位置を弾丸が通過していった。
「追っ手ですか。来るのが早いですね」
由佐に担がれたままの幽羅が冷静に口調を崩さないままでいた。そして、人影が動き出したその直後、雲に隠れていた月が姿を見せ、あたりをわずかに照らす。
弦たちを襲った者の姿がハッキリと分かる。背の高い老人であり黒と白が混ざった短髪で、両手には二丁のショットガンが握られていた。
「この方は確か…教員である鬼角雷蔵ですね」
雷蔵は銃口をゆっくりと由佐と幽羅に向ける。
「てめぇら、何を嗅ぎまわってんだぁ?死にてぇのか?死にてぇんかぁ!?」
「や、や、やばばですよ!?日弧さん!右です!!」
雷蔵が二丁のショットガンの引き金を同時にひく。弾丸が二人を襲いかかるが、幽羅の指示を受けた由佐がギリギリのところで弾を避けることに成功した。
「おいおい、じいさん!肩ぶっ壊すぜ」
ショットガンを片手で撃てば反動で肩が外れてしまう。老人であればなおさらである。
「舐めんな、クソガキ。敵に心配されるほどのことなんぞせんわ」
雷蔵は平気な顔で次の攻撃の準備をして、片方は由佐たちをもう片方は弦に向かって弾丸を放った。
「ひぃぃ!やばいですってぇ!」
弾丸が飛び交う廊下を避ける由佐に担がれた幽羅はカッコ悪く悲鳴を上げながら二人に指示を出す。
「夢蔵さん、右ですぅ!そこから攻撃をしてください!ひやぁ!?ひ、日弧さんは左から回り込んでくださいぃ!!」
悲鳴を上げながらも、的確な指示を出す。二人はそれを聞き動くことにより、ギリギリながらも攻撃をかわすことが出来ていた。
(あの人…奇妙ですね。ショットガンの反動に全く動じていません。それに数十発撃っているというのに未だに弾の装填を行っていません)
「…めんどうな奴がいるな」
雷蔵は司令塔である幽羅を睨みつけながら、狙いを一人に絞る。
「ひぃぃ!?ヤバいですぅ!!」
「喧しいわぁ!!」
雷蔵が引き金を引いた瞬間、雷蔵の背中から血が噴き出す。
「あぁ?」
雷蔵の背後には刀を持った弦が立っており、弦は怯んでいる雷蔵に追撃の構えを取る。
「トドメだ」
「んなことで殺せると思うなよ」
首だけを振り返っていた雷蔵が幽羅に向けていたショットガンを放つ。その弾は幽羅に向かって飛んでいくと皆思っていた。ただ雷蔵だけは全く違う結果が見えていた。
「っ!?伏せて!!」
さっきまでとは比べ物にならないくらいの大声を放つ幽羅に驚いた弦が思わずサッと姿勢を低くした。しゃがむと同時にショットガンの弾が弦の頭上を通過した。
「っ!?どうなってやがる」
弦が思わず雷蔵から距離を取る。さっき起こった奇妙なことを整理しようとする弦だが、そんな落ち着いていられる状況ではなく、雷蔵が銃口を向けてきていた。
「くっそ!」
弦は膝をついた体勢から飛び上がり、向かってくる弾丸を躱す。確実に弾が通り過ぎた直後、その弾が弦の横腹をえぐり取った。
(っ!?確実に…避けたってのに)
弦が驚きながら幽羅に視線を送る。幽羅も困惑している様子だったが、状況を説明した。
「見ていましたが…銃弾が夢蔵さんを通り過ぎたかと思えば消え、夢蔵さんの隣に現れました」
「消えて、別のところに現れた?物を移動させるってことぉ?」
三人が情報を共有している間は待ってくれるなんてことはなく、雷蔵は銃弾を全方向にばらまく。銃弾は消えて、別のところに出現をしてを繰り返して三人の頭を混乱させる。
「お二人とも!とりあえず、大きく後方に下がってください!!」
弦と由佐は言われた通り雷蔵から距離を取り、冷静に向かってくる銃弾を避けた。今度はさっきのように弾丸がトリッキーな動きをするなんてことはなかった。
「おいおい、逃げてんじゃぁねぇぞ」
雷蔵がそう言うと、ヒュンと消え、幽羅の目の前に現れた。
「ひぃやぁ!?わわわっ!!」
目の前に現れた雷蔵に驚いた幽羅が猛スピードで後退していく。
「あ、危なかったですね。ですが、これで確定しましたね。彼の異能は転移でしょう」
「それに気づけて何になる?勝てるというのか?」
雷蔵は離れていく幽羅に異能を使って近づいていく。
(…アレ?)
弦が追う雷蔵を見て少しの違和感を感じた。雷蔵は幽羅を追うために二度異能を使用した。
「ッ!なるほど、おい!幽羅そいつの異能の使用範囲はすげぇ短いぞ!」
一メートル先の所へ行くのに一歩で行けばいいだけの話だ。しかし、五メートルも離れていれば数歩は歩く必要がある。なぜなら人間は五メートルを一歩で歩けないからだ。それは異能にも同じことが言える。
「範囲が、狭い?…なるほど、そういうことですか」
幽羅の顔から僅かな余裕が生まれるのが分かる。それが余計に雷蔵の怒りを刺激した。
「なるほど、それなら少しやりようはありそうですね」
「ほう、なら見してみろ」




