第32話 撤収
女は幽羅の目を掴もうとするが、幽羅の異能の特性上触れることは出来ない。
「バ、バレてしまったようです」
「大丈夫なのか!?攻撃を受けたのか」
「大丈夫です。私の異能は触れることも見ることも出来ません。ただお相手は第六感が異常なほど強いですよ」
女は幽羅の目を触れられないことに首を傾げる。しかし、女はそれを勘違いだとは微塵も思っていないようで、ジッと目がある位置を見つめながら、首から生えた腕を伸ばして一つの檻の扉を開ける。
「何かを…仕掛けてきそうですね」
開けた檻から十匹のコウモリが暴れながら飛び出し、幽羅の目へと一直線に向かっていく。
(当たり前のように気配を察知してくるんですかぁ。なんか自信がなくなって来ますね)
目の周りを飛ぶコウモリの頭と翼が異様に大きく、その大きな頭の半分以上が口を占めている。
「現在、コウモリの化け物に絡まれてます。これ以上の深入りは大火傷してしまいます。勝手ながら追跡を中断させてもらいますね」
幽羅は地下空間に送り込んだ目を消し去り、弦と由佐に向き直る。
「いや、こっちも無理言ったかもな」
「ありがとうございます。それと、日孤さんの情報を元にお姉さんらしき人を数人見つけました」
幽羅はメモ帳を取り出して、メモを三枚ちぎって似顔絵をサラサラ描き始める。
「ま、ず、はこの人ですね。どうですか?」
「うーん…多分この人じゃないかな」
「では、次にこの人です」
「…違う」
「そうですか。これで最後です」
「うーん…うーん?いや、似てるけど違うかなぁ…?」
由佐は見せられた三枚のメモをポケットにしまいながらうーんと唸っていると、幽羅が少し言いずらそうにしながらメモ帳にペンを走らせる。
「すみません。さっき最後といいますたが…もう一人候補はいます」
幽羅がそう言いながら似顔絵を描く。しかしさっきよりも手の動きが遅く、さっきの三人に比べて描き終えるのにかなりの時間を費やしていた。
「この人、でしょうか?」
「…ちょっと待って!?」
由佐は見せられたメモ帳に顔を近づけ、似顔絵の人物をまじまじと見る。そして、何回か頷いたのち目を見開いて元気よく言った。
「この人。おねぇちゃんだよ!絶対に!!」
笑顔で問いつめる由佐に幽羅は回答を詰まらせる。
「俺にも見せてくれよ。もしかしたら由佐のねぇちゃんを探す手掛かりになるかもしれないぜ?」
弦が幽羅の持つメモ帳を覗き込もうとした瞬間、窓の外からキーキーと甲高く細い声が聞こえてくる。
三人が一斉に窓の外へと目を向ける。その先には暗闇に紛れて一匹のコウモリがパタパタと羽を動かしていた。
頭と翼が大きなコウモリで、幽羅の持っているメモ帳をジッーと見つめていた。
「お前さっきコウモリに絡まれた、って言ったな?」
「…はい」
冷や汗を流しながらそう返答する幽羅を見て何か察した弦は近くの机の足をガシッと掴む。
「キー!キー!」
逃げようとするコウモリはクルリと弦たちから背を向けて飛んでいく。
「逃がさねぇよ!」
弦は机を窓の外へと投げつける。窓を突き破ってコウモリに向かっていく。コウモリは自身よりも大きい机に直撃し、全身がつぶれてしまった。
「…ナイスです。異能を辿られたんですかね。ここでだべっていると更なる敵が来る可能性もあります。とっとと逃げましょう」
幽羅は部屋の片づけを放棄し、教室の電気を急いで消す。
「帰りましょう。コウモリにはバレましたけど、死体にくちなしです。今戻ればあの女性にはバレません」
幽羅は真っ暗な廊下を駆けながら背後を追って来る二人に向かって言う。
「けどさぁ。さっきのコウモリはアタシたちの所に来たんだよ?今逃げても遅いんじゃないの?」
「あのコウモリが異能を辿ったのであれば異能を使わなければよいのです。まぁ、これも私の推測でしかありません。しかしこれ以外の可能性があるとすると、例えばコウモリなので超音波で探ったなどがあるかもしれませんが、それなら何処にいようが見つかっちゃいます。対処しようがない可能性は考えても仕方がありません」
幽羅が顔だけを後ろに向けながら自身の考えを述べる。三人は二階から一階に下り、もう少しで外に出ることが出来る。
「そうか、なるほどな。…ん?」
弦は幽羅の考えに少しだけ頷きながら目を細める。幽羅の少し前方に一つの人影が見え、その人影の両手には太い棒のような物が握られていた。
「幽羅!伏せろ!!」
何かを察した弦が幽羅に向かって叫ぶ。幽羅は何に伏せるか分からないまま呆けた声を出す。
「ふぇ?」




