第30話 捜索網
「少し前から俺らに気づいてたようだな。由佐がどうだったか知らねぇけど気配消してたんだぞ?」
「ふふっ。私には見えてますよ。日弧さんは三十分前、夢蔵さんは二十分前に寮を出て、学園内でお二人がバッタリ会ったのが五分前、そこで待ち伏せしていたのが一分前ですよね?」
二人もそんな細かい時間は知らないが、だいたいの流れを当ててることから本当に幽羅に見られていたのだと理解した。
「それが…お前の異能か?」
「そうですね。まあ、そんなことよりもです!情報が欲しいんですよね?」
幽羅は二人の肩を掴んで顔を近づけ、小声で話しかける。
「ああそうだな。お前の異能を頼らせてもらうぞ。腕が沢山生えてる、研究服の女だ。二十前半っていった感じだった」
「なるほどですね。私もあなたとその方の戦いを見てたので分かりますよ」
弦はその言葉に驚きつつも、期待の眼差しを向ける。
「そうか、そいつがどこにいるかとか分かるか?」
「どうでしょーねぇ。それと、日弧さんのほうも同様でしょうか?」
「私のお願いは違うよ。私はおねぇちゃんを探してほしいの。この学園にいる、絶対にね」
「お姉さんの特徴を教えてくれませんか?それから考えさせてもらいます」
「特徴?んーとね、黒い髪でね、私より少し身長が高くてちょっとやせてると思う。あ、そういえば目元が私と似てるってよく言われてた。名前は日弧えりかって言うの。前回の時にこの島に来た」
「ふーむ、なるほどですね。了解です了解です」
幽羅はうんうんと頷きながら地面に突っ伏した状態になって二人に言う。
「ではお代は後でいただきます。捜索中は無防備になってしまうので私の護衛をしてもらいたいです」
幽羅の言葉に弦と由佐の二人は黙って頷き、幽羅はそのまま床に突っ伏する。
(日弧さんの述べた特徴では、少し情報不足感がありますね。夢蔵さんの方をメインに捜索しますか。捜査方法は無難に人海戦術といきましょうか)
幽羅の周りから無数の眼球が生まれ、教室の壁を通り過ぎていく。眼球は島のあらゆるところに飛んでいく。島の住民の居住区、学園内、弦が女を目撃した森の中を一斉に捜索する。
傍から見ればただの床で寝ているだけであり、そんな光景を見せられていた弦と由佐は困惑しながら幽羅から情報がくるのを待っていた。
(日弧さんのお姉さんはそれらしき人を総当たりしていきましょうか。前回時の卒業生の名は日弧えりかという名ではありませんでした。その点から学園内にいる可能性は低いですし…向かわせる目の数は少なめにしておきますか)
幽羅は五体の眼球に学園の中をぐるぐると移動させていく。学園内には生徒はもちろん教師もおらず、幽羅たちがいる教室を除いて電気も消えている。
(可能性が一番高いのは例の女性が消えた森でしょうか。例の女性は森の奥へと消えていきましたし、その奥に何か隠し家的なものがありそうですね。元生徒となると学園側に殺されているか、幽閉されているかでしょうし、学園側でありそうな女性が消えた森林内にいそうですね。女性の捜索も含めて多めに向かわせますか)
学園の外に向かった眼球の内、二十五体を森林に向かうように動かす。深夜ということもあり、木の輪郭がうっすら見える程度の視覚情報しかない。
(大穴、島内の居住区でしょうか。住民が匿っている可能性、は考えられますが住人視点リスクが高すぎますし。まあ、範囲が広いですし、十体向かわせますか)
十体の眼球はポツポツと光が見える居住区を上空から見下ろすようにして街中を捜索する。
「お、おーい。生きてる~?」
島中の捜索に集中している幽羅の背中をトントンと叩いて名を呼ぶが、返事は返って来ない。
「やめてやれ。何をしてるのかは知らねぇけど、多分頑張ってくれてるんだから」
「んー、そうだね。ごめんね、情報屋さん」
由佐は聞けていないだろう幽羅に向かって手を合わせて謝ってから、幽羅を守ることに集中する。
それから約三十分、幽羅を見守りながら雑談を交わしていた二人に幽羅が声をかける。
「……。夢蔵さん!!」
「うおっ!?」
「ひゃっ!?」
さっきまでピクリとも動くことのなかった幽羅が唐突に声を出したことにより、二人の奇声が教室中に響いた。
「まず、例の女性を発見しました。これから私が見たことを口頭で説明するのでしっかり記憶してくださいね」
幽羅は大量に出していた眼球群を三つに絞り、女の尾行に専念する。
「ああ、お願いするよ」
幽羅の言葉を聞いた弦も緊張の色を見せながらコクリと頷いた。




