第26話 森の中の爆発音
島の北東部に位置する場所、人が寄って来ることのないような深い森林の中にやって来た弦はどうしたものかと頭を抱えていた。
「師匠ー!早く教えてくださいよ」
弦は目の前で教えを急かしてくる星夜人をどう対処しようか悩んでいると、背後から草木を分ける音が聞こえてくる。
「い、いた…弦、こんなところまで来てたの?」
弦たちに近づいて来るあやめを見た星夜人がガンを飛ばしながら歩み寄る。
「おいおい嬢ちゃん。言っとくけど一番弟子の座は俺だぞ」
「いや私弟子じゃないんだけど…」
あやめが変人を見るような目で星夜人を見つめながら言うと、星夜人がホッとした様子で弦に話しかける。
「はーっはっは!やっぱり師匠認めたのは俺だけってことですね!」
「別にお前も弟子にした覚えはないからな」
都合の悪いことは耳に入らない体なのか、星夜人は弦のそんな言葉をキレイに無視して話を進める。
「そ、れ、よりもです!ケンカのコツを教えてくださいよ、師匠!」
腰を勢いよく直角に曲げて頼み込む星夜人に驚いて断りの言葉が即座に出てこなかった。
「待って!それ、私も知りたい!この学園で生き残る術が欲しいの!」
あやめが弦の手を引っ張り、星夜人と同じように頭を下げて頼んでくる。
「うえ!?お、お前もかよ…」
まさか星夜人の味方につくとは思っていなかった弦は口を大きく開けて固まっていた。
「え、えぇ…」
二人から頼み込まれた弦は断ろうにも断れないでしまった弦は仕方なくといった感じで話し始める。
「あー、えっと、ケンカのコツって言うけど、どういったことを聞きたいんだ?」
「殴ることです!敵をぶっ倒すための力が欲しいんですよ!」
星夜人が拳を突き出しながら、森林中に響くくらいの力強い大声を轟かせる。
「摸擬戦で見た感じお前に何か教えれることがある気がしないんだけどな。それにケンカは場数踏んだもん勝ちだからな。そういや、お前ケンカの時は狙いを定めてたりするのか?」
「え…?べ、別になにか考えて狙ったことはないですけど。殴れそうなところを殴るだけです」
星夜人は質問の意図が読めずにいながらもそう答えると、弦が僅かに首を傾けながら言う。
「あー。まぁ、お前の戦い方にケチつけるワケじゃないんだけど、最初の方は胸や腹を狙ったらいいぜ。的が大きいから当てやすいだろ?どんなタフな奴だとしても一瞬だけ怯む。そこを頭といった急所にぶつける」
ウンウンと頷きながら話を聞いてる星夜人に弦がさらに話を続ける。
「まぁ、これはただのケンカのときにこれでいいと思うが、俺らがやろうとしてんのは殺し合いだ」
弦がそう言った瞬間、あやめと星夜人に緊張が走る。弦もその空気を感じ取ったのか少し声が低くなる。
「決闘では異能が飛び交うだろうよ。誰がどんな異能を使うかなんて分かんねぇだろ?特にこの島にいる時は死と隣あわせなことを自覚したほうがいいぞ。夜道歩けば知らん爺さんに片腕斬り落とされることだってあんだから」
「じゃ、じゃあ…どうすればいいの?」
「クソ単純だよ。異能には異能をぶつける」
弦が淡々とそう言うが二人の顔には不安の表情が浮かびあがっている。
「けど、日常で異能を使う事なんてないよ」
「そうだな。異能法に引っかかってしまうからな。ただ、ここじゃ法律もクソもない」
異能法とは異能力取締基本法の略称であり、異能を扱うには指定の国家資格を取ったうえで国が了承した時のみでしか異能を扱えないという法律である。ただ興味本位で使ってみる者も少なからずはいるものだ。
「お前らはここに来る前に異能を使ったことはあるのか?」
「俺はケンカでピンチになった時に一度」
「私はないよ。使えるわけないじゃん…」
そういったの回答がくることが分かっていた弦は頭を掻きながら口を開く。
「じゃあ、まずは自分の異能を使いこなさなきゃいけね…ん?」
森の奥から草をかき分ける音が聞こえてくる。
(…誰か来た?いや、そしたら学園の方向から来るハズだ。音はその真反対、森林のさらに中心部から来てやがる)
まず人ではない。そう思った弦は野生動物が自分たちの声に釣られて来たのかと考えた。実際、その数秒後にやって来たのは七十センチほどのイノシシだった。
「わっ!イノシシだよ。突っ込んでこないかな」
「ハッ!突っ込んできたとしても俺の蹴りで一発だぜ」
「やめとけ。お前が身体強化系の異能とか言わない限りスピード負けするぞ」
「速さには自信があるんすよ」
弦たちが呑気に話していると、イノシシが地面を蹴って突進してきた。あやめと星夜人は驚いて反応できずにいた。
「ホラ、反応できなかっただろ?」
弦はあやめと星夜人を担いでイノシシから離れ、ため息混じりに言った。
まさに猪突猛進、止まることの出来なかったイノシシは一本の大木に正面から衝突していった。その瞬間だった。
「なっ!?」
イノシシと接触した大木が爆ぜた。大木はゆっくりと倒れていき、地面を揺らす。
「人間以外の生物は異能を持たないハズなのに。このイノシシ…何をしやがった!?」
顔の半分を爆発で失ったイノシシがギリギリ残った目で弦たちを見つめていた。




