第25話 情報屋のもとへ
摸擬戦の翌日、自身の寮で朝食をとっていた弦の耳に知ってる声が聞こえてきた。
『あ、あー…よし、ピポパポーン!皆さんおはようございます。どうも月丸幽羅です。本日から情報屋さんを始めるんですよね、パチパチ。場所は二階の空き教室の…ちょっと口頭じゃ伝えづらいですね。とりあえず二階のどこかに張り紙だしてるんで見に来て下さ~い。あ、以上でーす』
「これは…昨日言ってたやつか」
幽羅のアナウンスを聞き終えた弦は手に持っていた食パンを口の中に放り込む。
「どうゆうこと?昨日言ってたって?」
ソファの上で紅茶を飲んでいたあやめが弦のつぶやきに反応する。
「昨日、放送の声の主と会ったんだよ。そこで見に来てね~的なことを言ってたんだ」
「ふーん。行くの?」
「ま、暇だしちょっと遊びに行くよ」
弦は使い終わった皿をキッチンの流しに放置してから制服に袖を通しながら外に向かう。
「あ、ちょっと!私も行きたい!」
あやめは学園に向かっていく弦を止めて急いで支度をする。
「んな慌てなくても」
「いや、大丈夫。よしっ、行こう!」
あやめは手ぐしで髪を梳きながら弦の隣を歩いていく。
「もういいのか?」
「うん、ほらゴーゴー!」
弦よりも乗り気なあやめは拳を真上に挙げて高らかに言う。
◇◇◇
「おお、めっちゃ繁盛してる…」
弦たちは学園内にいる幽羅を探していると、とてつもない人だかりの出来た教室を発見した。
「すっご。放送があってから二十分くらいしか経ってないよね?」
二人は教室からあふれ出た生徒たちの間をぬって教室の中へと入っていく。
(うっわ…あまりの量に一瞬圧されてしまったよ。これ、全生徒分の写真か?)
教室の中には幽羅が椅子に座った状態で多数の生徒と何かを話している。教室の壁には学園内にいる生徒の顔写真が大量に張り出されている。
「どーもどーも。超有能情報屋の幽羅ちゃんです。生徒の名前を言ってもらえればお金と引き換えにその生徒の情報を教えてあげますよ」
幽羅が手をパンパンと叩きながらそんな謳い文句を叫ぶ。
「おや?夢蔵さんじゃないですかぁ。来てくれたんですね!とっても嬉しいです!それと…七房あやめさんですね!ごゆっくりぃ~」
幽羅は笑みを浮かべながら手を振って他の客のもとへと向かう。
「あの人…信じれるの?なんかヘラヘラしててアヤシイよ」
「どうだろうな、半信半疑だ。まぁ、少なくともあいつは俺の秘密を知っていそうだけどな」
弦はつぶやくように言いながら張り出されている生徒たちを一通り目を通す。
(ザッと見ただけでも百以上は確実にある。幽羅のやつ、この量の情報を集めるのにどんだけの時間を費やしたんだ?)
弦が張り出されている顔写真を再度見回しながら考える。
「弦は、誰かの情報を買うの?」
「いや、今んとこは要らないかもな」
一通り生徒の顔写真を見終わった弦が首を振ってあやめの目を見る。
「お前はどうなんだ?」
「私も…気になることはないかな。そもそも知ってる人自体が少ないし」
その言葉を聞き終えた弦はあやめと共に教室の外へと向かう。
「ししょー!!し、しょ、う!」
弦が教室を出て人混みから抜け出した瞬間、耳が痛くなるほどの大きな声が聞こえてくる。
(うるっさ。すげぇ声デケェな)
弦はあまりの大きさに思わず声の主を確認する。その瞬間、見たことのある人間が自分に手を振っていることに気がつく。
「…星夜人!?」
そこには摸擬戦の際に弦と接敵し、弟子になってしまった星夜人の姿があった。相変わらずジャラジャラとしたアクセサリーを身に着けてるうえ、ドクロの顔がプリントされたパーカーを着ている。
星夜人は手を振りながら弦のもとへと駆け寄る。
「そういえば、師匠呼びされてたな」
「し、師匠?」
星夜人の言葉にあやめが不思議そうに弦の顔を覗き込む。
「なんか…なぜか?すごい慕われてるんだよ」
「なんかじゃないですよ。俺は、師匠の強さに惚れたんですよ!」
「はぁ…」
星夜人がキラキラとした目で詰め寄るが、弦は曖昧でため息混じりの相槌ちを打つ。
「それとですよ。俺、昨日からずっと師匠の事を探してたんですよ。俺に喧嘩の仕方を教えてくれるって約束したじゃないですか~」
「いや、してないぞ。そもそも俺のアレは喧嘩テクとか関係ないからな。自然と身につけたもんだから」
「マ、マジすか!?アレを自然に、すげぇ…!」
教えられる事は何もないと伝えようとしたが、却って星夜人の興味を引いてしまった。
「善は急げ、ですよ!外に向かいましょう」
星夜人は弦の手を引っ張って外へと向かって行く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!うえっ!?話を…聞け。うぉ!?ち、からが強えな!」
弦は駆けていく星夜人を止めようと踏ん張るが、耐えきれず足を滑らせる。
「えぇ…?何が起きて…わわっ!?連れてかれてる!?弦ー!」
急速に動く目の前の状況に困惑していたあやめは、連れ去られていく弦の姿を追って走り出していった。




