第24話 学園の裏で
「終わりましたよ。学園長」
学園長室に一人の男性教師が無数に重ねられた資料を抱えながら入っている。
「ご苦労様」
部屋の中心でパソコンのキーボードを叩いていた女性が手を止め、机の上に置かれた資料の束の一番上の紙を手に取りながらつぶやく。
「聞いたか?あの御方も満足できたと」
「そうですかい。真の殺し合いじゃないっていうのにですか?」
「あぁ、爽快感のある戦いだったと。だが、まあ、やはりと言うか…殺し合いの方が面白いとさ」
「はぁ、マジなんなんすかね。あの偶像野郎は」
男性教師は大きなため息をつき、学園長と呼ばれている女性も頷き同意する。
「ホント、あいつのせいで私たちの計画が進まない」
「そうですね。しかし、あいつがいなければそもそも計画のスタートラインに立てていませんよ?」
「だからムカつくんだ。アイツのくだらん道楽に付き合わされるのもコリゴリだ」
学園長は机に向かって拳を振り下ろしながら、控えめに怒鳴る。
「おっと、そんな騒ぐと教信者どもに聞かれた袋にされますよ?」
男性教師がそう言って笑っていると、背後の扉がギッと音をたてながら豪快に開く。
「入んぞ」
老爺の教師が扉を開けながら入室許可をとる。老教師の右手にはさっきと同じような資料が大量にあった。
(おっと噂すれば、聞かれて無さそうか?危なかった)
「ほれ」
老教師は雑に資料の束を机の上に投げると、少し威圧的な感じで学園長に問う。
「どうだ?あの御方はなんとおっしゃられていた?」
「えぇ、とても素晴らしいとさ」
「そうか、それなら良いわ」
「あなたも本人からありがたーいお言葉でも貰えばどう?」
「おぉ、イイ提案だ。そうしよう」
老教師は少し上機嫌といった感じで学園長に背を向ける。
「それと学園長や、あの御方に楯突こうなどとか考えるなよ?最近のてめぇの動きは不穏だ」
それだけ言うと、老教師は指をパチンと鳴らす。その瞬間フッと老教師の姿が消えていた。
「…うるさいんだよ。これだから」
老教師が去ったことを確認した学園長は髪の毛がボサボサになるほど掻きむしり、歯ぎしりをする。これ以上は学園長が暴れ出しそうなほどだったため男性教師はとりあえず話題をかえた。
「あー、そうだ学園長。摸擬戦では一人を殺さないとペナルティと伝えたが、あなたは何を生徒らにさせようと考えてるんですか」
「あぁ、そうだな。その件はアイツに任せている」
「…アイツ?」
男性教師が学園長の言うアイツについて考えていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
「入るよ~。学園長さん」
当たり前のように学園長の了承を得る前に部屋の中に女性が入って来た。血まみれの研究服を着た女は、笑いながら学園長に顔を近づける。その女を見た瞬間男性教師の中で謎に合点がいった。
「これはこれは、あなたがここに来るなんて。いや、まさか…」
「おや。もしかして丁度私のお話を?今回はペナルティについての提案をしに来たのよ」
研究服の女が笑いながら学園長に手を伸ばす。学園長は手を払いのけながら研究服の女の話を聞く。
「早く話しな」
「ペナルティの子たちと、私の子を戦わすの。丁度、対人間性能を知りたいの。あなたもそれは知りたいでしょ?」
研究服の女が学園長に同意を求める。提案を聞いた学園長は目を見開いて首を傾げたり、首を縦に振ろうとしたりと、かなり悩んでいる様子だった。
「まだ、あれは不確定要素が多く…いや、そんなことばかりでは前に進めない。しかし…」
「いいじゃないですか?事実、実践のデータも欲しいでしょう?」
学園長は男性教師の後押しもあって、ようやく首を縦に振る。しかし、まだ悩んでいるのか苦い表情は変わっていない。
「ふふっ。じゃあ、準備するよ。それが完了したら連絡するから。よろしく」
研究服の女はそう言うと、鼻歌を歌いながら、学園長室からスキップして出て行く。
「…あれも、あれで困りもんですね。狂信者らも面倒ですが、自由奔放に動く奴もめんどくさいですね」
男性教師は上機嫌に部屋から消えた女を見ながら小さく言う。
「まあ、良いでしょう。生徒をどれだけ大量に殺そうと、結局は戦闘能力に乏しい人間。それ以前に生徒は死んだほうが有効に使える」
学園長はパソコン作業に戻り、男性教師はやれやれといった感じで学園長室から外に出ていく。
「…そろそろ実践投入してみたいと思っていたが、このタイミングでいいのだろうか。いや、数十年も温存してきた兵だ。そろそろ使わないと、宝の持ち腐れになってしまう。吉と出るか、凶と出るか」
学園長は口角を上げ、不敵な笑みを浮かべつつもその表情には不安の色がにじみ出ていた。




