第21話 時の支配者
「真の、実力を知るが良い!」
郷火は大声を上げながら腹部に力を籠める。
「桜転開刻」
郷火の腹部から煙が立ち込める。その煙が郷火から消えた瞬間、つかさは口を大きく開けて呆然とする。
「傷が、治っ…た?」
あいていた穴はキレイに塞がり、郷火もピンピンとしている。
「何を…」
「体の時間を、戻しただけじゃ」
とんでもないことを淡々と言った郷火に対し、つかさが怪訝そうな表情を見せる。
「ククッ。もう、そんな表情を、見せてよいのか?わしは、まだ、能力の一部しか、見せておらんぞ」
郷火がそう叫びながら刀を振りかぶる。その瞬間、つかさの体が固まる。
(体が、動きませんね。今度は何を…)
「わしの、異能は、世界の時間を、停止させることができるのじゃ。わし以外の、あらゆるモノは彫刻のように固まり、思考することも、動くことも出来ぬ」
「…私の意識はありますが?」
「そりゃそうじゃ。わしがお主を、この世界に、招待したからのう。本来なら動けんでおるわ」
「しかし、この様な力を持っているのであれば、私を即座に殺すことだって容易だったのでは?」
つかさが体をどうにかしようとするが、どんなに動かしてもピクリともしない。
「言ったろう。わし以外の万物はその場に固定されると。服を着ておれば動けぬ。真っ裸で動いたとしても、固まったお主に斬ることも、ましては、刀を動かすことなんぞ出来ぬ」
言われて初めて気づいたが、つかさだけではなく郷火も動けないでいた。しかし、何もできないつかさとは違い、郷火は顔や手首といった服で固定されていない部分は自由に動かせていた。
「じゃが!真の強者は、これすらも、利用する。この両者、何もできない空間を、有効活用する方法を、わしは持っておる!」
久しぶりに出会った、自分と対等に戦えるであろう人物を前にして興奮した郷火は、本来教えては不利になるような情報をベラベラとつかさに説明する。
「停止した世界で、加えられた力は、動き出した瞬間に、解放される。一メートル動く物体に、わしが力を加えれば、二メートル以上、動かすことができる。つまり…」
郷火は自身の刀に力をいれた。数秒後、郷火はニヤリと笑みを見せ、停止していた世界が動き出す。
「人間が超える速度を、わしは超えることが出来るのじゃあ!!」
つかさの体も動かすことが出来るようになった。それと同時に超高速で飛んでくる斬撃を、手のひらで受け止めにいく。つかさの硬質化は間に合わず、郷火の刀がつかさの体に入っていく。
「クハハッ!反応が遅れとるぞ!」
郷火は奇声に近しい叫びを発しながら刀を振り回す。その斬撃は加速したり、減速したりと不規則な動きを見せる。
「っ。厄介ですね」
つかさはその太刀筋に困惑し、苦戦する。しかし、それは最初の数撃だけであった。
「ッ!やはり、そうでなくてはなぁ!」
つかさは郷火の刀を片手で掴み、もう片方の手を使って郷火を殴り飛ばす。
「クハハッ!良い!良いぞ良いぞぉ!それでこそじゃ!」
郷火は吹き飛び、背後にある塔に激突しそうになるが、クルリと空中で身を翻して塔を思いっきり蹴ってつかさに向かって飛ぶ。
「さぁ!楽しもうでないか!!」
郷火は空中で納刀しながら、一直線に向かっていく。
「冥蓮華」
抜刀の構えをとる郷火に対して、つかさも拳を固めて反撃の準備をする。
「クハハッ!罠に嵌ったのう!」
空中を猛スピードで飛んでいた郷火がピタリと止まる。スピードを失いその場で地面に落ちていく中で郷火は斬撃を放った。
「罠になど嵌っていませんよ」
郷火の急停止によるタイミングずらしを完璧に対応したつかさは、足で刀を防ぎながら郷火の顔面に向かって硬質化した手刀を放つ。
「だいぶ、動けるようになってきたのう!じゃが、まだ、わしには敵わぬぞぉ!」
郷火はつかさの腕を鞘で受け止め、つかさの顔面に蹴りを放つ。
「…ッ。二刀流、ですか。何から何まで厄介なお方なのですね」
郷火は右手に刀を、左手に鞘を構えた状態でつかさに襲いかかる。
「妖蘭双呪」
つかさは左右からくる郷火の攻撃を受け止める。しかし、硬質化した手で受け止めたことで怪我負うことはなかったが、力任せで鞘を振る郷火に強引に吹き飛ばされてしまった。
(強いですね…異能関係なしにフィジカルが桁違いです)
つかさは郷火の猛攻を耐えながら勝ち筋を探っている。
「どうしたぁ!?防御一辺倒に、なっておるぞ!とっとと攻撃するのだ!」
そんなことは自分が一番わかっているし、出来るのなら即座に攻撃に転じたい。そう思っていたつかさは郷火の言葉に僅かだが苛立ちを覚えた。
「いちいち言わなくて結構です」
つかさは顔を硬質化させて防御すると同時に、硬質化した自身の指先を郷火の左目をえぐり取る。
(外してしまいましたか)
脳を潰すつもりで放った攻撃だったが、郷火の機敏な動きのせいで当てることができなかった。
「惜しい、惜しいのう!しかし、お主には、まだ足りぬ、信念が足りぬ。やはりその偽りの正義、戦いの原動力として弱い。わしのように、強い信念を持たぬ限り、お主は弱いままじゃ」
「今、なんと…?」
つかさは郷火の刀と鞘を同時に止め、さっきまで無表情に近かった顔から血管が浮かび、気圧されそうになるくらいの睨みをきかせる。
「偽り…?あなた、自分が何を言っているのか分かってますか?神への、世界への冒涜です!」
つかさは頭をガシガシと掻きむしり、その場で暴れるように地団太を踏む。
「なんじゃ?事実じゃろ。勝手な妄想解釈で、自分を正義と思い込んでおるようにしか、見えぬぞ?」
郷火のその言動が、つかさのリミッターを外してしまった。
つかさは大きく腕を振ると、目を血走らせながら郷火に殴りかかる。
(ッ!?認識、する暇さえ、無かった?)
目の前にいたハズのつかさが消えており、郷火の体に激痛が走る。そこで、やっと自分が攻撃されたことに気づいた。
「私の!正義は!ゼッタイなのです!!」
完全に冷静さを失ったつかさが猛スピードで郷火の周りを駆け巡る。




