第20話 戦いの始まり
郷火はそのまま素振りを続けながらつかさへと近づく。つかさとの距離は三メートルくらいあったが、その素振りの風圧でつかさの前髪がめくれ上がるほどの力だった。
そして、郷火がつかさの間合いに入った瞬間、さっきまでの素振りとは格段にスピードの増した横薙ぎを放つ。その斬撃はつかさの腹部に直撃する。
「…んぁ?」
その瞬間、郷火は異変を感じた。小さかったもののガキンッといった鉄と鉄がぶつかり合う音が確かに聞こえてきたからだ。
そして、斬りつけたハズのつかさには傷一つついておらず、逆に刀の刃先が僅かに欠けていた。
(わしのがこぼれたか。それに、筋肉がしてよい硬さでは無かった。異能…だとして、何をしたのじゃあ?この小娘は)
郷火が謎の現象に驚いている隙を見計らって、つかさが目にも留まらぬ速さで接近してくる。
「まぁ良い。分からないからこそ、面白い!」
郷火はその拳を刀で受け止める。やはりさっきと同じような金属音が響く。
「止めましたか」
「当たり前じゃ。わしは、世界で、最も強いのじゃぞ!」
郷火は「強い」の言葉を強調しながら追撃をつかさに食らわせる。
しかし、どけだけ斬撃を食らわせてもつかさの体に傷がつくことはなかった。
「無駄ですよ。私の体は最強の盾であり、最強の矛です」
左腕で刀をガードし、右手で郷火の顔面を殴りつける。拳を真正面から受け止めた郷火は数十メートルで吹き飛ぶ。
(やはり、おかしい。硬すぎる。明らかに、拳ではない何かを、叩きつけられた。身体強化系統の異能?)
郷火は疑問符が頭の中を駆け巡ったが、自分の剣術であれば勝てるだろうという圧倒的自信が考える事をやめさせた。
「冥蓮華」
郷火が刀を振りかぶりながら、つかさに向かって突進する。
(このスピードで来るのであれば対応しやすいですね)
郷火は高速で突っ込んでいく。速すぎるがゆえに、止まろうとすれば大きな予備動作が出る、これ以上スピードを上げる分にもまだが対応できる。
「無策で、突っ込んでおると、思うで無いぞ!」
反撃の構えをとっているつかさに向かって大声で言う。そして、郷火はつかさの間合いへと入ろうとする。加速も減速も出来ないだろうと思ったつかさは拳に力をこめる。
それを見た郷火はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。つかさにはその笑みの意味は分からなかったが、特に気にする様子はなかった。
「っ!?」
つかさの表情が歪む。
目の前の郷火が急停止したのだ。それもなんの前触れもなく。驚いているつかさは勢いに任せて放った拳が空振る。その隙を逃さなかった郷火は神速の斬撃を食らわせる。
「これは…」
さっきまで全ての攻撃を受け止めていたつかさは体を後方に下げて避けようとする。しかし郷火の斬撃は速く、つかさの頬が右から左へと真っ二つになる。皮膚が斬り裂け、口を閉じているはずなのに歯が見えてしまっていた。
「クククッ。驚いとる驚いとる」
愉快そうに笑い、刀をカンカンと爪で鳴らしながらつかさに近づく。そして、裂けた口を確認しているつかさに畳み掛ける。
「妖華爛漫」
郷火の刀がみぞおちへと一直線に向かっていく。
「ッ…」
刀がつかさのみぞおちを突いた時、ガキンといった金属同士がぶつかるような音がまた響く。
(こやつの肉体は…どうなっておる。顔と、それ以外で、違いがあるようには見えぬが)
郷火は数回自身の斬撃を受け止め、そのどれもにダメージが無かったことに変に思う。
「まぁよい。こいつを受けてみよっ!」
郷火はさっきまでと比べて大振りで軌道の分かりやすい袈裟斬りを放つ。そんな攻撃がつかさにダメージを与えれる訳もなく、右斜め前から向かってくる刀に手を伸ばし受け止める。
さっきと同じように金属音がし、つかさにダメージは入っていなかった。しかし、さっきと違うことが一つだけあった。
それは郷火の視線の先だった。戦場ではいつ、どこから攻撃が飛んでくるか分からない。だから、視野を広く持ち、あらゆる攻撃に対処する必要がある。さっきまでの郷火もそんな風にしていた。しかし、今回は刀を受け止める手のみに集中を向けていた。
(ほう、なるほどのう、そういうことじゃったか。やはり、面白い…!)
郷火なにやら満足そうに頷く。しかし、郷火の視界にはつかさの片手しか映っていなかった。視界外から伸びてくるつかさの手に反応することが出来なかった。つかさは右手で攻撃を受け止めた状態のまま左手で郷火の腹部を貫く。つかさの手刀は浅くだが、郷火の心臓に達していた。
郷火は心臓を損傷しながらも余裕を見せ、つかさを蹴り飛ばして距離を取る。
「この怪我は、お主が、寄越した情報の、対価とでもしよう」
「情報?何を言ってるのですか」
「…異能は硬質化、じゃろ?」
郷火がそう言うと、膝をついて首を傾げてたつかさが目を見開きながら、バッと立ち上がる。
「お主、表情筋が死んどる割に、感情豊かじゃのう」
「どうして…私の異能が分かったのですか?」
郷火は刀を鞘に納めながら、つかさの周りぐるぐると回る。
「わしの、観察力を侮るでないぞ。お主が、一瞬で掌を、硬質化させておるのを、確認した。おそらくじゃが、硬質化した手刀でわしの腹を貫いたのだろう?確かに、最強の矛であり、最強の盾であると、自称するだけの力じゃ」
腹を貫かれているというのに、悠長に相手の異能の考察を進める。
「なぜ、そのような余裕がおありで?あなたはもうじき死にますよ?」
つかさの目から見ても郷火の傷は深く、長くても三分が限界だった。
「そうのう。確かにわしは今、立っておるのがやっとじゃ。じゃが、お主はわしの異能を知らぬ。この状況を脱する、力をまだ、残しておるのだ!」
郷火は手を広げ、ポッカリとあいた腹部に手をかざす。




