第1話 入学
「でかいな…あれが流星学園か」
サラサラの短髪黒髪をした紅色の目で、少し青みがかった制服を着た少年が船から身を乗り出す。少年の視線の先には孤島の上に建つ巨大建造物があった。
「夢蔵弦、到着だ。降りろ」
同乗していたスーツ姿の男が弦の背中をトントンと叩く。
「あぁ、そうか」
弦はボストンバッグを手に持つと船を出る。弦が乗ってきたものの他にも沢山の船が船着き場に停泊している。
「おい、地図だ。この場所まで移動してもらう」
スーツ姿の男はポケットから地図を取り出すと、Aクラスと書かれた場所を指さす。
「分かったよ…と、この人が流れていく先を目指せばいいのか」
弦は地図を見ながら歩き出す。しかし、どれだけ歩いても目的地にたどり着かない。
(…この地図ではそこまで遠くないはずなんだがな)
地図をジィーっと見ていた弦は諦めて通路に設置されているベンチに腰をかける。地図を見ていて気付かなかったが、廊下にいた人たちがいつの間にか消えていた。
「…だめだな。なんでこんな方向音痴なんだよ」
自分に悪態をつきながらボーッとしていると、一人の少女が目に留まる。長めの赤髪をしており女性のなかでも小柄な方に見える。
(あの子も迷子だな)
地図を持って困った顔をする少女に向かって手を振る。
「おーい。君も迷子?」
弦は自分と同じ境遇の人間を発見して安心した様子で声をかける。
「ん?あ、良かった。ねぇあんた、このAクラスってのはどこにあるの?」
「残念。俺も絶賛迷子中なんだから分かんないぞ」
「えぇ…」
少女はあからさまにガッカリとした表情を見せると、弦の隣に腰をかける。
「って、制服着ている。あんたも生徒だったのね。じゃあ、あんたは私のクラスを探すの手伝ってよ。私もあんたのクラス探すの手伝うから」
「俺もAだぞ」
「そう、なら一緒に探して」
「はいはい。でも、この学園、見た感じ無駄に広いんだよな」
弦はゆっくりと立ち上がりポケットにしまっていた地図を取り出す。
「そうね。えっと、あんた…名前」
「夢蔵弦。そっちは?」
「七房あやめ。よろしくね。弦」
弦はあやめの言葉を聞いて思わず吹き出してしまった。
「フッ、よろしく?お前はなんのためにここに来たんだ?よろしくしたらダメだろ。殺し合いをするんだぞ」
「人間は孤独じゃ生きていけない生き物なのよ。だから、私が願いを叶えるまでは仲良くするつもりよ。それに、話しかけてきたのはあんたよ?」
弦は少し納得したように頷くとあやめの隣を歩く。
「じゃ、よろしくだな。仲良くなりすぎて殺せない、なんてことはやめろよ」
「しないわよ」
二人はお互いの拳を軽くぶつける。
◇◇◇
「やっとたどり着いたぁ…」
なんやかんやで30分、弦はそんな言葉とともに教室の扉を開く。
「…お前たち、大遅刻だぞ」
教壇に立っている男性はあきれ顔で弦たちのことを見る。
「二人は残った後ろの席に座ってくれ」
弦とあやめは皆からの注目を受けながら席に座る。
「…こうして見るとただの学校の風景だな」
前で先生が何かを話し、それを真面目に聞く生徒や、適当に聞き流す生徒もいる。
「…そうね。ほんとにここで殺し合いがあるのよね?」
あやめは教室内を見ながら不安げにつぶやく。
「殺し合いが無いのが不満なのか?」
「違うわよ。私の不安は願いが叶わないんじゃないかってことよ」
「あぁ、殺人衝動が抑えられないのかと思ったよ」
「ふっ、私がサイコキラーのように見える?」
「見た目で分かるものじゃないぞ」
「そういうものなの?」
あやめは首を傾げながら弦の顔を見つめる。
「と、言うわけだ明日も九時にここ集合だ」
弦とあやめがしゃべっている内に話が終わったらしく生徒たちは解散し始める。
「あれ、終わってたな」
弦は立ち上がり、教室を出ようとする。
「どこ行くの?」
「ここに学園の他には街があるらしいからな。ちょっと見てくるよ」
弦は地図を見ながらあやめに向かって手を振る。
「ふーん」
あやめは自分から聞いたというのに興味なさそうな返事をする。
教室を出た弦は廊下の窓の外にある繁華街を目指して歩く。
「ふ~ん、この繁華街って意外にでかいんだな」
繁華街にやってきた弦は、店前に並んでいる商品を適当に見ながら歩く。
「飯に日用品…って!?銃やナイフが平然と売れてやがる」
ガラスケースにズラリと並ぶ銃が弦の目に飛び込む。
「日本に並んでていいものじゃないだろ…けど、ここは法律の適応されないのか」
弦が銃を見ていると唐突に背後から声がする。
「よう、お前もショッピングか?」
振り返ると、黒髪ショートに細身の女性がタバコを吹かしながら寄ってくる。
「…なにそのふざけた恰好?」
その女性は現代ではあまりにも場違いすぎるメイド服に身を包んでいた。
「おぉ、第一声が罵声かよ。別にいいだろ。コスプレちゃんとでも思っとけ。大遅刻ボーイ」
「ふーん。じゃあお前はAクラスなのか?」
「あぁ、そうだぞ。Aクラスの縞七海だ。しかし…そのバッグを寮に置いてこいよ」
七海は弦の持っているボストンバッグを指さす。弦は七海の言葉の意味がよく分からず、首を傾げる。
「寮?それはどこだ」
「あぁ、そうだったな。お前が来る前に説明されたんだった」
「マジかよ。それはどこで確認できるんだ?」
「教室に張り出されてるんじゃね?」
「えぇ、またあそこに戻らなきゃか」
ガックシと肩を落とす弦の様子を見て七海はケタケタと笑う。