第18話 剣豪
「……も。ヤ…すよー」
「ん?」
由佐はゆっくりと手を離して、遠くから聞こえてくる、声のする方向に目を向ける。
「おーとっとと!どーいてくださーい!」
草むらから一人の女性が飛び出してくる。
敵が現れた、と思った二人が戦闘態勢に入り、立ち向かおうとするが、その声の正体は二人の間を通りぬけていく。
「「え…?」」
二人は驚き、遠ざかっていく女性をポカンと見ていると、女性が走りながらも体をくるりと二人の方に向けて、大声で呼びかける。
「そこから離れたほうがいいですよー!通り魔にあっちゃいますよー!」
女性はそれだけを言い残すと、さらにスピードを上げて消えていった。
「なんだろう…通り魔…?もしかしたら、誰かから逃げてた?」
転夜がポツリとそんな可能性をつぶやくと、二人の背後から老人の声が聞こえてくる。
「冥蓮華」
転夜が声の主の姿を視認するために振り向こうとすると、由佐に腕を思いっきり引っ張られる。
「アブナイッ!」
「え…うわっ!?」
二人の頭を一本の刀がかすめる。その刃は二人の隣に植わっている大木を斬り、ゆっくりと倒れていく。
そして、二人の前で立ち止まった刀の持ち主が笑い声をあげる。
「クハハハッ!避けれてか。面白いの」
「ヒィ!?だ、誰!?」
唐突に現れた老人…尼崎郷火を見て、恐怖に顔を歪める。
「あ!弦ちゃんを殺そうとしてたおじいちゃんだ!」
それに気づいた由佐は牙を見せて、目の前の郷火を威嚇する。
「お主か…まぁ、良い。相手が誰であろうと、斬り伏せるだけじゃ」
郷火は一度刀を鞘に納め、脚に力を溜める。
「少しは…楽しませて、もらおう!」
郷火は刀を抜きながら転夜に接近してくる。
「冥蓮華」
「血濡れた獣人!!」
猛スピードで転夜の首に迫って来る刃を割って入ってきた由佐が素手で受け止める。由佐の手のひらからは血が大量に流れる。
「あ、ごめ…」
由佐の手から流れる血を見て、思わず謝罪の言葉が口に出た。しかし、郷火は自分から目を離した転夜の顔を鷲掴みにする。
「そんな、ことをしている、場合ではないじゃろ。敵を見据えろ!」
郷火は転夜の後頭部を地面に押し付け、刀で転夜の眉間を貫くために振り下ろす。
「ヴァァア!」
由佐は刀を足ではじきながら、郷火の首に爪を食い込ませる。
「ゥヴ…」
由佐が腕を横に振ろうとしたが、郷火は刀を持っていない方の手で由佐の手首を掴んでそれを阻止する。
「ただの、小娘にしては、よくやる方でないか」
郷火はニタァと笑みを浮かべながら由佐の腕を切り落として、蹴り飛ばす。由佐の腹部に足がめり込み、骨がきしむ音が響く。
「ギュグァ!?」
痛みで立つことすらままならない由佐の腹を刀で貫く。
「ヴァアア!」
腹部に穴ができた由佐は諦めることなく郷火へと向かっていく。郷火の腕を掻き切りながら距離を取る。無理やり刀から逃れたことで、腹部の傷口が広がっていた。
「まだやるか。負けが、ほぼ確定していると言うのに…しかぁし!その、闘争心は評価しよう」
郷火が刀を振りかぶり、由佐にトドメを刺そうとするが、郷火の頭に衝撃が走る。
「ほう、お主も、多少はやれるか。見てるだけの、腰抜け、ではないようじゃな」
郷火がその衝撃の正体が転夜であることを即座に理解する。振り返ると案の定、転夜が震える手で鉄パイプを握っていた。
「ヒ…」
「どっから、取り出したんじゃぁ?こんなもん。いや、別に、知らんでも、良いな」
頭を思いっきり叩きつけても痛みを感じている様子のない業火を見て、転夜は恐る恐る後退りする。郷火はゆっくりと近づきながら首を傾ける。それが余計に恐怖心をあおる。
「ククッ、立ち向かうのじゃ。恐怖を打ち壊してこそ、強くなる!」
郷火は刃を転夜の首につきつけて、不敵な笑みを浮かべ続けながら話す。
「筋はある。じゃが、やはり経験が無さすぎる。場数を踏めば伸びるじゃろ。まぁ、今のお主は、面白ない。とっとと死ぬことじゃ」
郷火は高速で刀を振り、震えて動けない状態の転夜の首をはねる。
「ヴゥゥアァ!」
それを見ていた由佐は痛みを耐えながらも起き上がり、必死に郷火の首筋を食いちぎる。郷火はまだ動こうとする由佐に大層驚いた様子で目を見開く。
「良いぞ。良いぞ!これぞ、戦じゃ!どんなに、勝ち目が無かろうと、立ち向かう。素晴らしき精神じゃ」
郷火は刀についた血を指でふき取ると、剣先を由佐に向ける。
「わしも少し、本気を、見せてやろう」
郷火は呼吸を整えて空に向かって刀を振るう。その斬撃を放った瞬間、キュインッといった聞き慣れない風を切る音が響き、衝撃波で周りの草木が揺れ動く。
全身に襲いかかって来る郷火の覇気に由佐は本能的に勝てないと理解する。郷火に対する恐怖で心が埋め尽くされ、体がヒリヒリとした感覚に襲われる。
「妖華爛漫」
郷火は由佐に急接近して、心臓がある位置を勢いよく刺突する。由佐は反応できずに、心臓を貫かれてる。あまりの力の強さで、肉がえぐれて郷火の腕すらも貫通してしまっていた。
「ヴァ…ァァヴ」
刀を引き抜い郷火は消えていく由佐の体を軽く蹴り飛ばす。
「少しは、骨のあるやつじゃと、思ったんじゃがのぉ。やはり力を抑えぬと、話にならぬか」
郷火は刀を納めると、少しつまらなそうにつぶやいた。




