第16話 戦場の悪魔たち
ガシャン、と何かが壊れる音が教室中に響く。
「…茶山ぁ、てめぇなにゴーグルを壊してんだぁ?」
うりょむは自身のかけているゴーグルを握り潰した状態で固まっていると、教壇に立っていた老教師がうりょむに近づき、顔を覗き込む。
「あぁ、ごめんなさいね。しかしこのゴーグル大して使わないじゃないですか。毎年このタイミングで使用して終わりますし」
「だとしてもだ、ちったぁ気をつけろや。さもないとてめぇのコレクション全て研究に使うせるぞ」
「はいはい。今後は気をつけますよ」
うりょむは気だるそうにしながら老教師を力づくで退けると、教室を出ようとする。
「おぉい!てめぇ片付けやがれっ!」
「貴方が片付けてください」
怒号を飛ばす老教師を横目に手をひらひらをさせながら廊下に出る。
うりょむは舌で飴のようなものをコロコロと転がしながら、頬を紅潮させる。
「あーあ、あんなイイ目の子を見つけれるなんて、フフッ。あれが私のモノになるのが楽しみですねぇ…ンヒヒッ」
うりょむは口を大きく開ける。口の中から何者かの眼球が姿を見せる。嬉しそうにしながら甲高い笑い声をあげる。そのあまりにも狂気的な笑い声に、廊下を歩く人々がうりょむに視線を向け固まる。
◇◇◇
市街地エリアにて、一人の男子生徒がスナイパーライフルを持ち、高層ビル内を駆けのぼっていた。
(一人殺さないとペナルティ…こんな学園だ。何をされるか分かんねぇ)
屋上の手すりに銃身をのっけると、男子生徒は焦った様子でスコープを覗き敵を探す。
(銃なんて扱ったことねぇからどうやるんだ?引き金引くだけでいいのか?)
正しい構え方も弾の装填方法も知らない。映画などで多少見た程度である。そのためチャンスは一度きりであった。
そして、男子生徒は男女の生徒を視界に捉える。顔に傷がある男と、背の高い紫髪の女だった。
「…男と女がやりあってる。女の方…見たことが、いや無いか」
男子生徒が引き金を引こうとすると、二人の生徒に動きが見られた。
男の方が懐から短剣を構える。素人の男子生徒から見ても分かるほどの風格で、立ち姿だけでその道のプロであることが分かる。
そして、男が動きだすと同時に女の方も動き出した。男子生徒の目から見れば男が圧倒的優勢だった。
「…!?あ!?え…?え…!?」
女は残像が見えるほどのスピードで男に接近し、手刀で男の心臓を貫く。
「ヒィ!?」
その光景に男子生徒は思わず引き金を引いてしまう。運がいいことに銃弾は女の頭目掛けて一直線に飛んでいく。
「ハッ!?当たったか?」
女は銃弾を視認することもなく、避けずにただその場に立っていた。そして、当たりかけた瞬間、女は銃弾を見ることなく、親指と小指でキャッチする。
「ッ!?う…そだろ?」
女は銃弾をまじまじと見た後、指の力のみで銃弾を潰し男子生徒の目を見つめる。男子生徒と女の距離は400メートル程度あった。
「こ、この距離でバレた!?」
男子生徒はあまりの恐怖で銃を放り出し、ビルを必死で降りていく。
(ヤ、ヤベェやつに喧嘩を売っちまった。とにかくここから離れねぇと)
男子生徒は13階建てのビルの9階層にたどり着いた時、階段で猛スピードで駆け上がる何者かとすれ違う。男子生徒がその正体を目で追おうとした瞬間、視界が崩れる。
「へ…?」
すれ違った者の正体はさっきの女だった。それに男子生徒が気づいた時には、もう首から上が無くなっていた。
(…バケモンすぎる)
宙を舞う男子生徒は女の顔に目が留まる。そこでやっと目の前の女のことを思い出す。
(ッ!?近くで見て初めて分かったが…こいつ鳳凰寺つかさじゃなぇか!まさか流星学園に来てたなんて…)
男子生徒がただひたすらに驚いていると、つかさがゆっくりと口を開く。
「あなたの罪は…不用意に銃を向け、射出したこと」
片手で男子生徒の頭を握り潰しながらさらに続ける。
「そして、自身の願望のために他者の命を奪おうとすることです」
つかさは目を細めて、男子生徒がいた地面をジッと見つめる。
「やはり…この世に蔓延る罪たちは私が裁く必要がありますね」
つかさは両手を大きく広げ、目を細めながら首をゆっくりと横に傾ける。
そして、数秒間目を閉じた後、階段の窓を叩き割って外に体を乗り出す。
「さて、罪の選別でもしましょうか」
つかさは窓の外に飛び出し、数メートルもの高さから飛び降りる。着地した後も平然と街を歩いていく。
◇◇◇
「ヒィィ!ヤバいです!ヤバいです!」
森林エリアを一人の生徒が叫びながら駆け抜ける。丸眼鏡をかけており、黒髪に青いメッシュが入った女性だ。
女性の後ろから刀を携えた老人が追ってきていた。
「戦わんかぁ!逃げるばかりの、腰抜けがぁ!」
「腰抜けで結構ですぅ!私に戦いを求めないでくださーいっ!」
逃げ回る女性にイライラとした様子で老人が叫ぶ。
(尼崎郷火聞いてた以上の戦闘狂だ。情報が欲しいからといって安易に近づいたのは迂闊だった)
女性は前を向いて走りながら背後の郷火を観察する。
(…この学園に来るまでは全くと言っていいほど情報が無かった。他の生徒たち、裏だろうと表だろうと、個人情報など諸々をゲットすることができた。しかし、この男に関しては全く出てこなかった)
女性がそんなことを考えていると、前方に二人の女生徒を見つける。それに気づいた直後、大きな声で二人に向かって叫ぶ。
「お二人ともー!お気を付けて、ヤバいのが来てますよー!」




