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流星学園  作者: 森宮寺ゆう
一学期『願いを叶えに』
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第9話 青春

 弦が声のした方向に目を向けると、由佐を先頭にあやめ、愛、淳也が並んでいた。

「おぉ、由佐たちか」

 振り向いた弦が由佐たちに軽く手を振ると、いつの間にか食べ終わっていた音音が席を立ち、一礼をして立ち去る。

「お友達さんが来たようですね。夢蔵さん。相席ありがとうございます」

 食器やらをトレイにのせ、この場から去ろうとした音音は僅かに顔をこちらに向ける。

「さっきの話、あたまの片隅にでも入れておいてくださいね」

 愛が去っていく音音の背中を見つめながら言う。

「…誰だ?あれ」

「あぁ、朽矢野音音だって。なんか、忠告をくれた、のかな?」

 音音の言葉に引っかかる部分があった弦は疑問形で答える。

「ま、いいわ。てか大丈夫だったの?昨夜ヤバいやつに絡まれたって聞いたけど」

「大丈夫だよ。治ったぜ」

「それは良かったぜ。初っ端から最悪の日を過ごしちまったな」

 淳也が同情の心を見せるが、弦は笑いながら手を軽く振り、前向きな考えを言葉にする。

「いや、初めの方から危機感を味わえたのは良かったな」

 一通り弦の話を聞き終えた由佐がうずうずとした様子で話を変える。

「それとさ。今日から学園で授業が始まるって言ってたよ、高校レベルのね。自由参加なんだけど、弦ちゃんは受ける?」

「いや、受けないな。別に俺は勉強目的でここに来たわけじゃないし」

 弦の回答を聞いた由佐は満足そうにしながら、キラキラとした眼差しで弦の手をギュッと握る。

「じゃあさ。これからみんなで遊びに行こーよ」

「遊ぶ?いいぞ。でもどこに行くんだ?」

「うーん、決めてない!けど、みんなでどっか行こう」

「由佐、そんな行き当たりばったりでいいのかよ?」

 どうやら、由佐たちの方でも話が固まっていなかったらしく、淳也が少し呆れた様子で言う。

「ま、とりあえず遊びに行こーよ」

 ◇◇◇

 学園を出た弦たちは市街地を適当にぶらついていた。

「しかし、この島に住んでいる人はなんなんだ?」

 この島には学園の生徒とは別で住民が住んでいる。住民たちを見たところでは、殺しとは無関係の老若男女が生活を営んでいる。

 市場では生活用品を売る男性買う老婆、レストランで働く女性、公園で元気に駆け回る少年、島外と全く変わりない風景であり、同じ島内で殺し合いがされてるとは思えない。

「さぁな。学園の人間だけでは島の管理が間に合わないんじゃないのか?ま、なんだろうと俺らがこうやっていられるのは住民たちのおかげだろ」

 二人がのんびりした雰囲気の中喋っていると、由佐が大きな声をあげる。

「あっ!ゲームセンターだよ。行こっ!」

 由佐は一人ゲームセンターの中へと吸い込まれるように入っていく。

「あ、ちょっと待てよ」

 愛と淳也が由佐を追いかけて入る。弦も中へ入ろうとしたところ、不思議そうに店を眺めるあやめに声をかける。

「どうしたんだ?そんな物珍しそうにゲーセン見つめて」

「いや、私入ったことないんだよね」

「へぇ。そんなことあるんだな。学生の頃に一度はゲーセンで遊ぶ気がするが」

「ふーん。楽しそうな青春を過ごしてたのね。私とは…大違い」

 弦は寂しそうにつぶやくあやめの手を握り、ゲームセンターの中へと入る。

「こんな学園だけど、少しくらい青春チックなことでもしようぜ。ほら、あいつらが待ってんじゃないのか?」

 中に入ると、クレーンゲーム台の前に群がる淳也たちが目に留まる。

「お、夢蔵と七房。久しぶりにやってみたけど、やっぱむずいなこれ」

 淳也が可愛くはないが、気持ち悪いと言い切れないような顔をした猫のぬいぐるみがアームから落ちていくのを見守りながら言った。

「よっしゃ。俺に代われ。クレーンゲームは得意だぞ」

 意気揚々と台の前に立った弦だが、威勢だけのようでアームはぬいぐるみの頭をかすめるだけで終わった。

「へったくそだな。夢蔵」

「すごい自信満々だったのにな」

 悔しがる弦の後ろで愛と淳也が話していると、あやめが二人を軽く押しのけながら、台の前に立つ。

「これ、私やりたいかも」

「わーい。あやめちゃんのちょーせんっ」

「こ、これってどうやって使うの?」

 あやめはアームを動かすレバーと降下のボタンを指差して首を傾げる。

「それのレバーでクレーンを動かせてな。このボタンでぬいぐるみを取れるぞ」

 弦から説明を受けたあやめはとりあえずレバーをガチャガチャと動かしたり、ボタンを適当なところで押す。

「ふふん。完璧にマスターしたわ」

 一通りクレーンを操作したあやめは、自信満々の様子で腕を組みながら下がっていくアームを見つめる。

「やった!取れた!」

 アームが降り、ガシッとぬいぐるみの体を掴み、あやめは嬉しそうにガッツポーズをする。

 しかし、のぼりきったと同時にぬいぐるみがポロリとアームの指と指の間から落ちる。

「ざーんねんっ」

「…なんで!?あんなしっかりと掴んでたのに」

「そういうもんだぜ。大抵がこうなっちまう」

「うっ、こういうものなのね。分かったわ、絶対取ってやる」

 あやめは何度も何度も挑戦するが、ぬいぐるみは惜しい位置に落ちた思えば、遠くに転がっていくを繰り返す。

『ピンポンパンポーン。流星学園の生徒の皆さんは各教室に集合してください。繰り返します…』

 島内全体にそんなアナウンスが響く。それなりに大きな音に驚いたあやめは操作を狂ってしまった。

「…呼び出しだな」

「ちょ、ちょっと!私これだいぶ惜しかったよ!?」

「呼ばれちまったしな。駄々こねてないでいくぞ」

 弦は名残惜しそうにクレーンゲームを見るあやめの手を引っ張っていく。

「なんだろうな?全生徒が呼び出しなんて」

「さぁな。まぁ、なんとなく良いことではなさそうだが」

 皆は不満を抱えながら店を出て、学園へと向かう。

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